宇都宮健児 インタビュー全文
都政に対して向き合う、というものは見えなかったということでいいんでしょうか。
宇都宮:今回は保守系の候補が分裂していたので、野党に取っては非常にチャンスだったわけですよね。
だけど、やはりそれを活かせなかったというのは、やはり都知事選に臨むにあたっての政策とか、あるいは体勢の準備というものが、必ずしも充分ではなかったということが大きかったんじゃないかと思います。
一方でやっぱり国政がこれだけ二分されて盛り上がっている中、とは言え都知事の選挙なので、都の政策について築地問題然り、オリンピック然り、非常に課題は山積していると。
鳥越さんは結果的に、非常に国政にフォーカスした打ち出し方をされましたけど、宇都宮先生としてはやっぱり都政へのメッセージというのが大事だったというふうにお考えでしょうか。
宇都宮:やはり都知事選ですから、都民の生活がどうなるのかっていうのは、有権者である都民からそういう視点で見ていたと思うんですね。
だけど野党のほうは何となく国政選挙の延長線上で、鳥越さんもなぜ出馬を決意したのかというと、参議院選挙で改憲勢力が三分の二を取って、大変な危機感を抱いたからだと。だけど都政についてどうですかと聞かれたら、これから考えるということだった。
それから野党側も、都政についてどういうふうに臨むかというのは、政策協定が充分できないままに、知名度のある鳥越さんを担いで選挙戦に突入してしまったんですね。
国政選挙ではよく与党側から野党は野合ではないかと、民共の野合ではないかという批判がありましたけど、国政選挙では政策協定を作っているんです。
集団的自衛権行使容認の閣議決定を撤回するとか、基本的な政策協定をやったあとで選挙戦に突入していますから、野合ではなくて大儀があるんだと跳ね返していたんですけど、都知事選ではまさに野合という批判を受けてもしかたないような状態だったということですね。
それから、鳥越さんも言っていたし、野党のほうも、都知事選で安倍政権に一矢を報いるというような思いが強かったと思いますけど、そういう思いが実は都民を置き去りにしてるんですね。
都民の生活や暮らし、都政というのはやっぱり都民の生活や暮らしをどうしていくのかということが一番大切な課題になっているのに、有権者である都民からは、野党側の発信の中から自分達の生活や暮らしについての明確なメッセージが伝わってこなかった、ということが今回の結果につながっているんじゃないかと思います。
そういう面では、都知事選は有権者が1100万人を超えるかなり大規模な選挙なんですけど、やはり知名度頼り、知名度優先、それから勝てる候補探しを保守のほうがやった結果、猪瀬知事、舛添知事、二代続いて政治と金の問題で任期途中で辞職をしていることになるわけです。
本来ならそれは政策中心でちゃんと戦われるべきと思っていたんですけど、今回は野党側が知名度優先で、しかも究極の後出しジャンケンをやっちゃったわけですね。
だけどそれはやっぱり充分都政について検討した上での選挙戦ではなかったし、政策中心のものではなかったですよね。
それがまず野党側が惨敗した大きな要員の一つになっているんじゃないかと思います。
先生が以前ハフィントンポストのインタビューで「市民運動が賢くないといけない」と仰っていたと思うんですけど、何度もこれまで選挙をやってきたけど同じような問題が起きている。
これは反安倍として結束していたその熱量が逆に足を引っ張っていたのか、それとも、サンダースの例も出しておられましたけど、ずっと日本の市民運動の歴史を振り返ってみても、充分に成熟していない、まだ足りていないからなのか。
これはどういうふうに見たらいいんですか?
宇都宮:どちらかといえば、私は日本の市民運動はまだ成熟していないと見ています。
それは前回、2014年2月の都知事選の時も、野党の側から私と細川候補が出たわけです。その時に、告示前に私の陣営あるいは私に対して「降りろ」、「お前なんか勝てるはずがない」と、今回も私が出馬を辞退するまで、選対の事務所やここの法律事務所に連日「早く辞退しろ」というような電話とかメールが殺到したんですね。だいたい選挙事務所へのメールの7割から8割がそういうメールなんです。
でも考えてみたら、一方の候補に降りろというのも、これは非常に問題があるんですね。
細川候補の時も私達は公開の討論会を開いて、そこで一本化を考えるべきで、あらかじめ決めて一方の候補に降りろというのは大変失礼な対応じゃないのか、というお話をしたことがあるんです。
前回はそういう公開討論会も行われなかったし、今回も実質的には同じことをやっているわけですね。
しかも候補者を決める過程が、民進党が中心になって候補者を決めているわけです。
その候補者に他の野党三党も賛同する、その野党が決めた候補者に市民連合が賛同するという形になっています。
私は、市民運動というのは政党と対等な立場であるべきだと思っていますし、決める過程も、野党四党の中で開かれた公開討論が行われるべきで、その過程で市民連合が発言して、参加して、開かれた民主的な討論が行われる中で決められるべきだと思うんです。
だけどそれが全く密室の中で、しかも民進党の中でも二転三転して、最後に鳥越さんになった。一時は石田さん、古賀さんの名前も挙がっていました。
そこに市民運動が全然参加していないわけですね。政党が決めたから支持してくれと。
決める過程で自分達の意見も反映されて、民主的な討論が行われる中で決まったら、結束力が強まりますよね。
ところが突然決まった人について賛同を求められて、それを支持する形になったので、四党集まった力とか、そこに参院選で一緒に戦った市民連合、そういう大きな結束の力が発揮できなかったんじゃないかと思います。
普通は結束することによって、1+1が3とか4になるんですけど、今度は逆に1+1がマイナスになってしまったわけです。
野党の参院選の得票数を考えたなら、本来ならもっと肉薄するはずですよね。ところが小池候補にダブルスコアで負けて、しかも次点にもならず三位になって増田候補にも負けてしまった。
保守側の候補者の得票数との比較では3.5倍ぐらいになっているんですかね。
だからそういう惨敗に近い形になった一つの要員は、先ほど言った政策を軸に戦いきれなかったという点と、候補者を決める過程で、民主的な開かれた議論が行われないままだったということがずっと尾を引いてきているんじゃないかと思います。
市民運動がまだ成熟していないとは言え、ここ数年、SEALDs然り、若者の間にリベラルという言葉が広く浸透してきたと思います。
ただ、たとえば若者の運動でリベラルというと、一口に原発、憲法、反安倍というような動きが非常に声高に叫ばれています。
しかし先生の政策でもそうでしたけど、貧困だったり福祉だったり、本来リベラルというよりリベラリズムが重視すべき政策というのはまだまだいろいろあると思うんですよね。
どのようにして、リベラリズムを取り戻していけばいいのか、単純なアンチ政権に終わらないようにするにはどうしたらいいんでしょうか。
宇都宮:まず、日本のこれまでの市民運動の傾向というのは、集会とかデモが中心だったと思うんです。その場で盛り上がっていくと。
政権に対して反対の声をあげていくということが中心だったと思いますけど、日本の憲法というのは国民の主権というものを謳っています。
これは前文にも書いてありますけど、国民主権をどういう形で行使するのかというと、選挙で選ばれた代表者を通じて主権を行使すると書いてあるんです。つまり議会制民主主義の制度を謳っているわけです。
そして日本のいろんな法律とか制度というのは、国会で多数を取った人が決めていくわけです。
地方自治体でも多数を取った人達、選ばれた首長さんが条例を決めていく。
そうなると、デモや集会で盛り上がったエネルギーを選挙闘争に転換できること、選挙闘争に成熟しないとだめなんです。
ところが選挙という事を考えた場合に、これは国政選挙でも都知事選でもそうだったんですけど、有権者に対してメディアが「どういうことを重視して投票しますか」と取ったアンケートで、三、四割の回答が景気と雇用なんです。同じ割合で社会保障なんです。
原発や憲法とかになってくると、ほとんど一桁台なんです。
だから本当に選挙に勝ち抜こうと思ったら、国民あるいは都民が関心を持っている景気、雇用、それから社会保障について、保守側を上回るような政策とか、あるいは取り組みを示していかないと、勝てないのは分かり切ったことなんですね。
それが原発や憲法についての国民投票ということであれば、たとえば反対の人が多数であればそれでいいでしょう。
でも国民投票制というのは憲法改正の時だけで、一般の課題について国民の投票で決めるという制度ではなくて、あくまでも議会制民主主義なんですね。
それから、議会制民主主義ということであれば、たとえば都知事選を考えたら、都議会の圧倒的多数は保守の側、自民党と公明党がとっているわけです。
23区とか26市とかの区議会・市議会も、保守が強いわけです。
だから本当に都政を変えていこうと思ったら、まずは区議会とか市議会を変えていく必要があるんです。そこを粘り強く。
そして保守の側というのはどういう選挙戦をやっているかというと、選挙の時も選挙戦で一生懸命やるけど、日常的に、たとえば夏祭りに出たり盆踊りに出たりして住民、市民の側と接しています。
だからリベラルが勝とうと思ったら、保守を上回るような、住民、市民の中に入っていくような戦いが必要なんですね。
こんどの参院選とかに国政選挙でも、都市部が中心なんですね。
ところが日本の選挙区は47都道府県にありますから、農村部とかそういうところにも、そういう運動をどれだけ都道府県単位、市町村単位に浸透させられるかどうか、そういうことが鍵なんです。
そういうことを数十年やって初めて保守に対抗できる力ができるのであって、安保法制反対運動も非常に盛り上がりましたけど、そういうことを一発やって、あとはさよならじゃだめですね。
SEALDsも8月15日に解散するようですけど、ああいう運動は数十年単位でやらなきゃいけないんです。本当にそれをやろうと思ったら。
しかも参議院選挙は政権獲得の選挙じゃないですから。
政権を変えないと安保法制は廃止できないですよね、そうすると衆議院選挙を戦わなければいけない。
ところが衆議院選挙で一気に政権交代になるかどうかはわからないですよね、数回はやらないと。
そうするとそれだけを考えても、場合によれば10年単位で運動をどう構築していくのか、そのために東京や大阪、名古屋とかの都市部だけじゃなくて、北海道、九州、四国とか、そういうところの農村部にもどうやって運動を広げていけるかということを考えなきゃいけないですね。
日本の市民運動というのは、そういう選挙戦略、選挙闘争にあまり精通していない。
どちらかというとデモとか集会が中心で、実はそれをやっても変わらないんですね。
自分達の言い分を聞いてくれる議員を増やしていくしかないんです。議会制民主主義ってそうなっているんですね。
それを考えたら、あまりにも選挙闘争に精通・成熟していなかったということですね。
それは都知事選も同じなんです。
都知事選で勝つためには、私も二回経験して初めてわかったんですけど、街頭宣伝で人が集まれば盛り上がった形になるんですよね。ところが1万人集まっても、1100万人の有権者の0.1%なんですよ。
しかもそこに来る人というのが、ほとんど動員された形の人が多いんで、元々野党側の候補者に入れる人なんですね。
そうじゃなくて、ずっと遠くを見ると、無関心そうに青信号を素通りしている人がいるわけですよ。そういう無関心な人に、どうやってメッセージを伝えるか、政策を伝えるかが問われている選挙なんです。
そうすると最大の重要な活動というのは、街頭宣伝ももちろん重要なんですけど、テレビ討論の、開かれた場での公開討論なんです。ここで保守の候補を圧倒できるのかどうか、そして自分の人柄とか、そういうことを伝えることができるかどうか。
だいたいテレビというのは視聴率1%で100万人が見ている、10%は1000万人ですからね。
最近はインターネットでの選挙も解禁されたのそれも重要なんですけど、インターネットというのは高齢者がなかなか受信できないので、やはり全体を考えたらテレビ討論ですね。
そこでどうするかということなんですけど、鳥越さんに関しては最大のチャンスを自ら放棄しちゃったわけですね。
そうすると自分達の支援者が来るところで支援者が盛り上がることを話して、それを見てすごく運動が広がっているように見えますけど、それは全く誤りであって、保守の候補というのはそういうところだけに力を入れるのではなくて、都議会議員を通じて、区議会議員を通じて、市議会議員を通じて、支援者固めをやっているし、業界団体に対してもやっているし、そういう目に見えないところで支持固めをやっているわけです。
それ一つとっても、選挙闘争というのは、デモとか集会とは違った側面があるということですね。
若者の間でビラが配られ、国会の前に集まって、すごい事が起きた、変わったんだなと思える。
ただそれを十年二十年続けていって、草の根で運動を広めていって、コミットメントができるのかということが今後問われていくということですか。
宇都宮:選挙というのは一つの運動として考えるべきだと僕は思っているんですけど、一回目に私が出た時よりも、二回目のほうが実は得票率は上がっているんですね。前回は大雪だったんで、投票率が40%台だったんですが、得票率は20.18%なんで、今回鳥越さんがとった得票率とそう変わらないんですね。
だけど一回目よりは伸びてきた。
知名度が三回目はもっと広がったと思うんですけど、そういうふうに考えて、かつその間にこれまで関心がなかった人を組織化したり、若い人とか貧困層を組織化したり、新たな組織を広げていく。
選挙闘争を通じて、次のところに向けて準備するという形を繰り返していくべきで、一回一回の投票だけだとだめですしね。
都知事選をみてみると、市民運動をやっている人が勝てる候補探しをして、テレビタレントとかを当たって、誰かが唾をつけてくる、そしてその気にさせる、そうして選挙闘争をやっても、また負けちゃうわけです。そうして四年後にまた会いましょうと言って解散してしまうんですね。
美濃部都政以降、ずっとそういうことをやっているんです。
そういうのを私は「青い鳥探し」だと言ったんですけど、それをやっても運動は広がらないんですね。
だから私は一回目の選挙から選対を解散しないで、そして選対を中心に都議会傍聴運動をやったり、都政の勉強会をやったり、お隣の韓国ソウル、ここにはパク・ウォンスンという私と同じ弁護士が2011年から市長になって素晴らしい改革をやっているんですが、そういうことを勉強したりして、徐々に徐々に支援の輪を広げていく、あるいは政策も研ぎすましていく。
こういうことをやってきたんですけど、選挙が終わって都議会を傍聴していると、閑古鳥が鳴いているんですね、誰も傍聴しない。
こんどは舛添問題でみんなが殺到して抽選になったようですけど、選挙でもう終わってしまっているんですね。しかもその選挙っていうのは、通りそうな人を連れてくるのが活動だと。
そうではなくて、選挙闘争を通じて新たな人のつながりを広げていって、次に備える。
数十年そういうことをやろうと思ったら、保守をひっくり返せると思っていますよ。
私は三十年から四十年サラ金問題を扱って、貸金業法を全部変えて、しばらく前とは変わった状況にしてきたんですけど、政治を変えるというのはそういうものだと思っています。
最近サンダースの自伝が大月書店から出ているんですけど、サンダースさんっていうのは、民主党の大統領の予備選でヒラリー・クリントンさんと争ってました。
彼はずっと前から、今私が言ったような運動をやっていて、アメリカの下院議員とか上院議員をもう20年近くやっているんですかね、無所属でやってきているんです。
バーモント州というところで、共和党の牙城だったところで勝ち抜いて下院議員や上院議員になった。
その前はバーモント州で一番大きなバーリントンという市の市長さんをやっているんですけど、彼は最初下院議員とかバーモントの知事選に出てた時とかは、わずか1%か2%の得票しかとられてないんですね。
だけどだんだん選挙をやる度に仲間を増やして、若い人や低所得層に働きかけて、組織を広げていった。
そして投票に行かせる、投票率を上げる、といったことをやる中で、市長に当選して、市長を八年ぐらいやって、そして下院議員と上院議員をやって、もうバーモントというのはサンダースの牙城みたいになったんです。民主党と共和党に勝ち抜いて。
そして彼が今回大統領選でやろうとしたことは、バーモントでやったことを全米でやろうとしたわけですね。それでサンダース旋風をやった。
彼は一回で大統領選に勝とうと思っていないんです。
この間サンダースを支持した人達をまとめあげて、組織して、次に挑戦をやろうとしているし、次に向けて、サンダース以外の候補者を場合によれば準備する。
つまり、一回で変えるんじゃなくて、選挙を運動として捉えて、少しずつ変えていく、こういう戦略を持たなきゃいけないのに、日本の市民運動は、政治は政党がやること、市民運動はただデモと集会をやること、そういうことと考えている。
わずかに今回そういうところを抜け出たのは、初めて安保法制廃止の運動だけじゃなくて、通ったあとも参議院選挙に市民運動が参加することになった、これは画期的なことなんです。
だけどこれは、何十年も前からやらなきゃいけなかったことなんです。
1960年の60年安保というのは、今回の安保闘争に匹敵するぐらい、それ以上に盛り上がったんですけど、その結果岸内閣は退陣したんですけど、そのあと選挙闘争はやらなかったわけですね。
安保条約は通ってしまった、改訂されてしまったんですけど、選挙闘争にいかなかったわけですね。
ところが今回は選挙に関与しようとしたことは一歩前進ですけど、だけどこれからですよね。よちよち歩きですよね。選挙にやっと関与した、そうしたら、ああこんなに大変なことなんだ、っていう。
だけど、保守の支配を変えていくためには、もっと長期的な展望を持って、東京や大阪、名古屋っていうところだけじゃなく日本全国をどう変えていくのか、そのためにはどうすればいいか。
それから本当は、選挙闘争のルールを決めているのは公職選挙法なんですね。これは既存の政党とか既存の国会議員なんかに非常に有利にできている。だから世襲政治家が生まれるわけです。
そのルールを民主化するということも考えなければいけないんですけど、戦後ずっと同じ法律が続いていっている。
この法律の原点というのは1925年の普通選挙法に遡るんですけど、この普通選挙法というのは治安維持法と同時にできた法律なんで、確かに被選挙権は税金を払っているかどうかに関係なく25歳以上の男子になったんですけど、高い供託金制度とか個別訪問の禁止とかビラの制限とか、もの凄く既成政党に有利になっているんです。
だから市民運動には不利になっています。
そういう制度を変えることも、これからやらなきゃいけない。
もっと選挙闘争を本当に腰を据えてやるような運動をどうやっていくのか、そこの端緒というのは今回の参議院選挙だと思ったらいいですよね。
アメリカの場合、共和党と民主党が闘って、元々サンダース氏も両方ではないものの、結果的に民主党の枠組みの中で旋風を起こしてきた。
一方で日本が60年安保のことを振り返っても、市民運動が盛り上がって、しかし敗北した。
といった時に、もちろん草の根の運動だからこそ主体というのはないのかも知れないんですけど、野党共闘になるのか、それとも市民連合あるいは市民運動など、どういったところから次のそういった運動は作り上げていかなくちゃいけないんでしょうか?
宇都宮:市民連合から一つの政党が出てきてもいいし、市民連合の活動家が野党に入ってもいいし、どういう形かというのは予測はできませんけどね。
あるいはサンダースさん自体は無所属だったわけですよ。無所属だけど、自分の政策を訴えるためには民主党に加入したほうがいいということで、民主党の予備選で自分の政策、連邦レベルの最賃を7.5ドルから15ドルに引き上げるとか、富裕層に対する課税を強化して公立大学の授業料を無償化するとか、そういうような政策を大統領選で訴えることができたわけです。
また無所属に戻るというようなことも聞いているんですけど、運動のやり方は様々あると思います。
ただ市民運動の課題というのはほとんど、法律を変えたり制度を変えないと実現できないような課題ばかりなんです。そうするとやっぱり選挙闘争で勝ち抜かないといけないですよね。
そこを抜きにして、デモとか集会だけではいつまでたっても負け続けだし、勝てないですよね。
選挙闘争とデモとか集会をどう結合するのかということを考えないとだめだし、選挙闘争を考えたら日常的な活動が極めて重要になります。
盆踊りに出たり、夏祭りに出ろというわけじゃないけど、それはやはり保守の側がなぜ強力な支持を得ているのか、それを分析し、敵から学ばなきゃだめですよね。そういう謙虚さが必要だと思います。
今後も、選挙の闘争自体は終わっても、そういう運動あるいは政治的な活動は続いていくと。
宇都宮先生は今後も、小池さんへのしっかりとしたチェック機能を作っていくということはメディアで仰っていたんですけど。
宇都宮:それは、選対の「希望のまち東京を作る会」というものができているんですけど、そこは解散はしていないですし、ああいう苦渋の選択はしたんですけど、参加している人はもっとこれまで以上に都議会傍聴をやって、しっかりチェックして、都政を変える運動をやろうとしています。これは非常に重要だと思います。
非常な大きな政策の枠組みで言うと、たとえば築地の問題だったり、それから五輪の問題、このあたりはクリアに議論が今後どう進んでいくかということをチェックしなくちゃいけないと思いますけども、同時に貧困だったり福祉、この問題について、どういった部分で小池さんに対してのチェック機能を果たしていくのでしょうか。
宇都宮:「希望のまち東京を作る会」では、こちらが考えてる貧困とか格差の問題についての政策の要請行動をやろうかというような議論にもなっています。
ただ今のところは小池さんは都民ファーストと言っていますからね。都政改革本部を作って、情報公開を徹底して、五輪の件についてもチェックすると。
それから公用車の問題とか、高額な海外出張についてもルール作りをやると言っていますので。
都民ファーストという話とは少し違うかもしれませんが、もっと中身について、貧困とか格差の問題、それをどう彼女が対処しようとするのかということはチェックもしないといけないし、ちゃんと聞いてくれるかどうかはわかりませんけど、こちら側からの提言をしようかという話にはなっています。
福祉、貧困、格差の問題以外にも、たとえば外国人の人権だったり、そういった問題はリベラリズムの立場から一つ大きな争点になるかとは思うんですけども、早速今、韓国人の学校に関して新しい動きが出ていますが、このあたりなんかは、宇都宮先生のほうではどういうふうに見ているんでしょうか。
宇都宮:韓国人の学校の問題を彼女は白紙撤回すると言っていますけど、もう一度どうするかというのは、その土地の利用の問題もある、待機児童の問題で保育所の土地が重要ということもあります。
ただ、小池知事が韓国人の学校だからだめだと、つまり今の日本の社会の雰囲気としては反韓・反中ですよね、もしそういうことを考えて反対しているというのだとすると、それは問題だと思います。
なぜかというと、私達が調べたところ、2006年か2007年頃、フランスの学校に都は土地を提供しているんです。フランスはよくて、韓国はだめだというのであれば問題です。
ただその土地が、ほかのところがあるのか、その土地は保育所や介護施設に使いたいからということなのか、そのへんがもっと調査すべきだと思うんです。
記者会見の時もそれを聞かれたんで、アプリオリに韓国人の学校は認めないというような立場は私はとらない、しかも認めないという理由が「韓国人だからだめだ」ということであれば、最近のヘイトスピーチ対策法なんかができているし、そういうことからも、問題のある対応ですよね。
外国人格差、そして今回の鳥越さんの問題の中でも仰っていましたが、女性の人権、女性の活躍といった文脈で考えた時に、非常に世界的にみても大きな都市で女性が首長になったと。
小池さんが今後どういう形で女性の活躍あるいは女性の人権といったものに力を入れていけばよいのか、何かお考えはありますか。
宇都宮:まず、都庁における女性の幹部の登用の制度が、男女平等に扱われているのかどうかという問題があるのと、女性の立場というのは、日本は特にそうでうけど、女性の賃金のほうが低いんですね。これは正社員も、非正規も含めて。
そういう男女格差を是正できるかどうかということ。
それからやはり、セクハラの問題とか性暴力、こういう問題の被害者が後を絶たないので、私達はそういう問題についての相談窓口の設置、これは女性の人権を守る活動をやられている女性団体と連携して、そういう窓口作りの提案をしていたので、まあそういうこともあって、ますます鳥越さんの対応は大変都知事候補としては不適格だなというふうに思ったんです。
その辺は小池新知事が女性の人権という視点で、どういうことに取り組まれるかというのは非常に関心を持っています。
彼女自身が女性であるので、女性がトップに立たれたというのはいい面があるんですけど、彼女は強い女性ですよね、頭も切れるし。
だけど本当に性暴力、セクハラで被害にあっている人達の痛みをちゃんと受け止められるような知事になってもらいたいと思うんです。
今まで貧困の問題から女性の問題までお聞きしていたんですけど、リベラルあるいはリベラリズムの中からでも、経済の問題、経済政策が非常に弱いというようなことがずっと言われてきたことですし、今後経済をどうしていくか、もちろん東京は非常に財政的に安定した街ではありつつも、アジアの中で都市間の競争力が問われてきています。
そんな中で、宇都宮先生の政策の中で、たとえば金融の街からより中小企業が活躍できる街へとか、あるいはローカルなビジネスをしている方達をエンパワーメントするような方向にフォーカスされていたと思うんですけど、このあたりの経済政策を今後どのように受け取っていけばいいのでしょうか。
宇都宮:今の政府はアベノミクスはまだ道半ばと言っていますよね。
道半ばがなぜ前進しないのかというのは、確かにこの間、円安株高で一部の企業が利益をあげたり、富裕層はかなり利益をあげているんですね、株を持っている人はね。
私なんかは株を持っていませんから、全然アベノミクスの影響は受けていないですよ。
アベノミクスが好循環していくためには、国民の所得をどう増やすかという視点が重要ですよね。それは働いている人の賃上げがしっかりなされているかどうか。
ところが、確かに失業者はかなり減って、失業者は今100万人ぐらいだと思いますけど、増えているのは非正規の雇用なんで、実質賃金は四年連続減っているんですね。
それから一方で安倍さんが2012年に選挙で勝って第二次安倍政権ができた後に、最初にやったのは生活保護基準を大幅に切り下げて、あと医療・年金・介護を削減したんで、社会保障というのは相当削減されているんです。
社会保障というのも国民の所得の一部と考えるべきですよね、生活保護なんて特に。
そうすると、社会保障も削減して、賃金も上がらなければ、GDPの中の六割を占める個人消費が上がるはずがないんです。
そこがネックになって経済が好回転してないので、そこを上げるような政策が必要です。
そのためには、最低賃金を引き上げるとか、非正規労働者の待遇改善とか、正規化をはかるとか、社会保障を充実するとか。
社会保障を充実させるといったら、財源のことが問題になるんです。
これまで安倍政権は財源がないから生活保護を削減する、財源がないから医療・年金・介護を削減する、財源がないから給付型の奨学金ができないとか言っていたんですけど、その財源がないと言いながら、必ず消費増税の話になってくるわけですね。
消費税を10%にすることは延期して再延期しているわけですけど、消費税というのは、食うや食わずの人とか、生活保護利用者もみんな払うことになるんですね。
日産のゴーンさんは10億円ぐらい報酬をもらっていますけど、生活費に10億円使うのは大変ですよね。1億円使ったって、9億円については消費税が課税されないわけですよね。
ところが生活保護利用者や年収200万円未満の低賃金労働者はほとんど生活費に使っちゃいますから、全収入に課税されてしまいますので、一番低所得者に酷な税制なんですね。
ところがこの間、ずっと法人税を下げてきているわけです。
法人税というのは国税と地方税と一緒にかかっているんで、全体を合わせて法人実効税と呼ばれているんですけど、1980年代の半ば、法人実効税率は52%を超えていたんです。今は29%でしょう。
法人税で減収になっている分を、消費税を上げてきて補っているので、消費税増税は表向きは社会保障のため、財源のため、財政再建のためと言われていますけど、法人実効税の減収の穴埋めに使われているんです。
それから所得税の累進課税も、1980年代はじめ頃は最高税率が75%だったのが今は45%です。
それから日本の所得税というのは、給与収入に対しては累進課税になっているんですけど、株の配当とか株の譲渡は分離課税で、住民税と所得税合わせて20%しかかかっていないので、実は日本の収入の多い人は1億円を超えたら税負担率がどんどん下がっていってるんです。
なぜかというと、1億円までは給与収入の人が多いんですが、1億円を超える収入がある人は、株の譲渡益とかそういうやつなんで。
その分離課税を総合課税に、一緒に課税するだけで相当税収が上がるんですね。
こういうふうに、財源がないと必ず消費税の話になるんですけど、法人実効税率とか、所得税の改革ですね、引き上げとか、分離課税を総合課税にするとか、そういう手直しをやれば財源は出てくるわけです。
それから、たとえば奨学金の問題ですけど、OECD加盟国の半分ぐらいはもう大学まで無料です。
他の国でも大学の授業料は日本に比べて安いですし、そういう国でも返さなくてもいい奨学金制度があるのに、授業料が高くて返さなくてもいい奨学金がないのはOECDでは日本だけで、GDP比で公的な教育支出というのは六年連続で日本は最下位なんです。
日本なんか資源がないから、人材に投資するしかないのに、そこに一番金を使ってないのが日本なんです。
そういうところをやろうと思ったら、まず財源はあるわけですよ、必要なところから取ればいいわけです。
それからこの前パナマ文書が問題になって、タックスヘイブンで税金がかからないところの資金とういうのは、大体世界的には3000兆円といわれているんです。日本の国家予算の三十年分ですよ。それを課税することをほとんど考えていないわけですよね。
パナマ文書が問題になった時に、菅官房長官は日本としては調査するつもりはないと言っていますからね。
そういう、タックスヘイブンを利用できるとのは大企業とか富裕層だけで、一般の国民とか中小企業というのは利用できない。
そういう逃げられない人達に最後までしっかり消費税で取り立てるというのはひどい。それをやればやるほど、貧困と格差が広がっていくわけです。
だからタックスヘイブンを捕捉するような国際協力とか、それから国内的には富裕層とか大企業ですね、大企業は今どんどん法人実効税率を減らしているので、今内部留保が360兆円近くになっています。
安倍政権が発足した時には280兆円だったんです。だから安倍さんは経団連に賃金上げてくださいねって言っているけど、内部留保だけ貯めていっているんですね。
だからもっと課税を強化したほうがいいわけです。
だから財源は出てくる。そうすると社会保障も充実できて、賃金も上げることができる。そうすると好循環になっていくんです。
安倍さんはそれをやらなきゃいけないなとは言っているのかもしれません。同一労働、同一賃金とか、一億総活躍社会とか女性が輝く社会とか。
制度的な改革を全くやらない人なんですね、口だけで言って。
口だけでは経済はよくならないです。
野党のほうがもっと、そういうことを明確にすべきです。
ところがそういう税制政策について、極めて不十分なんです。
民主党が政権をとった時に、「コンクリートから人へ」と、これはスローガンはよかったんです。
財源はどうするんだと、それは無駄を省くと言って、最初にやったのが事業仕分けですよ。事業仕分けで財源が出てくるのは限界があるわけですよ。それで最後は野田政権で、税と社会保障の一体改革で消費税増税に行っちゃったわけです。
だから、マニュフェストで奇麗ごとを言うだけじゃなくて、それを実現するための財源をどうするかっていうことを持たない政党というのはだめなんですけど、日本というのはまだそういう市民の目が甘いから、奇麗ごとを言う政党に一票を投じる。
だけど、その結果それが実現できなかったという民主党政権の失敗ですね、それが尾を引いているわけです。
最大の問題は、マニュフェストだけ出して、それを裏付ける財源をどうするかということを真剣に彼等が考えていなかったということですね。
だからそういうところをやれば、お金は出てくるんですよ。
そしてヨーロッパとか北欧の諸国はどこでも、医療とか大学、高等教育は無料になっているんですよ。
貧困対策の最大の政策は、教育の無償化ですよ。
今の日本というのは、生活保護利用家庭とかの大学進学率が普通の家庭より大幅に減っているんですよ。貧困家庭であるが故に高等教育を受けられない。
だからその子どもも社会に出た時に貧困になってしまうわけです。貧困の連鎖、固定化が起こっている。
せめて教育ぐらいは無償化にして、医療も無償化する、これは同じ第二次大戦敗戦国のドイツでも実現できているんです。GDPは日本より小さいのに。
医療と学費が無料なら、あんまり貯金しなくても済むでしょう。日本は何かあるといけないから貯金をしている。もっと消費ができるようになるわけです。
社会保障が安定するということは、本当に消費を活性化させるし、経済が好転する大きな要因なんですよ。それをやり切れていないわけです。
今まで過去の運動に問題から、今後の経済福祉、非常に吃緊の問題なのにもかかわらず、特に若い人が、一時的に盛り上がったあとに長期的なコミットメントができない、こういった話をいろいろうかがってきました。
最後にメッセージを含めてお聞きしたいのが、今後若い人がどういうふうに政治に関わっていけばいいのか、あるいは政治のどういった部分、どういった政策、どういった候補者をどういった目で見ていけばいいのか、一言メッセージをいただけますか。
宇都宮:まず、18歳で選挙権が与えられたんで、それで関心を持つ人が増えたと思いますけど、それをきっかけにどんな問題でもいいですから、地域の問題、広くは国の問題、どんな問題でも、学校の中だけの範囲だけでなくて、もう少し広く外に目を開いて、関心のある問題について勉強してみるとか、取り組んでみるとか。一人で無理なら何人かで、社会に目を開いてもらいたいということ。
それから、冒頭に話しましたけど、日本は国民主権というふうに憲法で決められているんですけど、主権というのはどうして行使するかというと、家の中で座って「主権があるんだあるんだ」と念仏のように唱えていてもだめなんですね。
主権は選挙を通して選ばれた代表者を通じて行使することになっていますので、一番重要な主権行使の場というのは選挙なんです。
それに対して、ちゃんと向き合う。「どうせ一票投じても世の中は変わんないや」と言うんじゃなくて、多くの若者が関心を持って投票すれば、社会を変えることも可能なんです。
今年の三月か四月だったか、韓国で国政選挙があって、その事前の予想は与党が圧勝、野党惨敗だったんです。ところが結果は野党が勝利したんです。
この勝利の大きな要因は20代30代の選挙判断なんですね。それは前回の国勢選挙と比べて、20歳代の投票率が20%上がっているんです。30歳代が6%上がっているんです。40代50代60代は前回と同じですけど。
韓国というのは日本以上に貧困と格差が広がっていて、二人に一人が非正規労働者なんです。
そして本当に夢も希望も持てない、結婚もできないという、そういう絶望的な状況の中で学生達が投票に行こうと、それから若い労働者が青年ユニオンとか、アルバ労組という、アルバイト労組なんかの人達が連帯して選挙の投票行動を呼びかけたわけです。それで上がって、ひっくり返ったんです。
だから、そういう若い人達がもっと政治に関心を持てば、若者の今置かれている状況も変える大きな力になるということです。
今あることはどうしようもないんだという絶望に陥らないで、人間が作った制度というのは人間が変えることができるんですね。
今の日本は、若い人の死亡原因で一番多いのは自殺なんです。20歳代は亡くなった人の二人に一人が自殺なんです。これは今若者が置かれている状況を反映していると思います。絶望的な状況。
若い人が未来とか将来に希望が持てない社会というのは終わりですよ。
だから若い人こそ政治に関心を持つ、そして立ち上がる、声をあげる、これが日本を変えていく大きな力になるし、年寄りはいずれ死んでいきます。あの世に行きますんで、若い人こそ日本を変えていく、日本を支えていく中心だと思いますんで、ぜひ社会に、政治に関心を持ってもらえればと思っています。