2015年2月8日 日経「日曜に考える」「時論」 トマ・ピケティ・パリ経済学校教授「日本、賃金と人口増カギ」

「賃金増によるインフレ実現」

日経の「日曜に考える」「時論」に、トマ・ピケティ・パリ経済学校教授が「日本、賃金と人口増カギ」を述べている。

「――日本の場合、米国のように一部の富裕層への所得や富の集中が真の問題なのでしょうか。企業がおカネをため込んでいる方が、問題だと思うのですが。

『忘れてはならないのは、企業は主に家計によって所有されている存在だということだ。日本ばかりでなく多くの国で企業は内部留保をためている。家計と企業を合わせた民間の富は著しく増加している。一方で政府など公的部門の富は減少している。日本はその典型ということなのだ』『ここ10年、公的部門の負債増加ばかり議論されてきたが、半面で民間部門の資本の増加はもっと大きかった。主な先進国では今や民間資本は国民所得の4~7年分になっている。経済全体としてみると、民間の財産に適切に課税すれば、政府の負債を支えられる』

――日本では高齢者に金融資産が集中しています。世代間の格差については。

『財産が固定して動かないと、新しい世代が困難に直面する。例えば不動産の取得が難しくなる。課題は税制を若い世代に有利なものに変えることだ。勤労所得に対する課税、とりわけ中低所得の人たちの税負担を減らす。一方で、不動産や資産への課税を増やす。日本は民間資本が多いのだから、資本に対する累進課税を進めることは、理にかなっているはずだ』

――成長抜きの分配は考えにくいと思いますが、日本の場合は名目国内総生産(GDP)がピークより40兆円も縮んでいるのです。
『(グラフを手にして)名目GDPの長期にわたる縮小には大変驚かされ興味深い。19世紀末の英国はデフレに直面し、非常に大きな政府債務を負っていた』

――日本は1997年の金融危機をきっかけに、デフレの局面に入りました。

『19世紀の英国が経験していない現象を挙げれば、日本の場合には人口減だろう。1人当たりGDPは上昇しているかもしれないが、人口減少が響き、経済規模が収縮したのだ。物価の下落に加えて、労働力人口が減少したこの組み合わせはとてもユニークだ』」

――じり貧の流れは逆転可能だと思いますか。

『2つのポイントがある。物価の下落と人口の減少だ。物価を反転上昇させ、出生数増加により人口を増やす必要がある。この2つは別の課題だ。物価の問題についていえば、中央銀行がお札を刷り金融機関に貸し出すことで、インフレをつくり出すことは可能だ』

『これはインフレの必要条件だが、十分条件とはいえない。お札を刷るだけでは、消費や設備投資に回る保証はない。消費者物価の上昇ではなく、資産インフレを招きかねない。安倍政権の経済政策<アベノミクス>は株式や不動産のバブルを生むリスクをはらんでいる。肝心の物価の上昇を実現するには、金融を緩和すると同時に賃金の上昇を果たす必要がある』

――安倍政権は金融緩和だけでなく、賃上げ実現にも力を入れています。

『実際の賃上げの幅はどのくらいなのか。そして政府部門の賃金はどうか』

――大手企業では昨年は2%くらいです。昨年は公務員の給与カットをやめました。今年は民間の後を追い賃上げに動くでしょう。

『それでは不十分だと思う。もしデフレに終止符を打ち、インフレに転換したいなら、政府は民間の後を追うのではなく、率先して公務員の賃金を上げるべきだ。消費税増税の分を除いた消費者物価上昇率が、1%を下回っているというのはやはり低い。思い切った措置が必要だろう』

――出生数については。

『男女平等で、家庭支援的な仕組みが必要だ。おかげでスウェーデンやフランスは出生率が2程度にまで回復している。半面、ドイツやイタリアは出生率が低いなど、欧州でばらつきがある。出生数の回復は施策を講じても成果が出るまで時間がかかるので、短期的には賃金増によるインフレ実現の方が重要だ』」。

氏の結語である「短期には賃金増によるインフレ実現の方が重要だ」は、正論である。氏の持論である「格差縮小」を為す唯一の解だからである。日本は20年デフレ下にあり、ゼロ成長であったからだ。デフレ脱却ありき、成長ありき、インフレ実現ありきである。金融緩和をすると同時に賃金の上昇である。アベノミクス推進が「格差是正」の解なのである。安倍首相は、アベノミクスの正しさを証しするために、トマ・ピケティ氏を活用すべきである。

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