2015年1月3日 産経「年の初めに」樫山幸夫・論説委員長「覚悟と結意の成熟社会に」

「機が熟すまで待つべき」

産経の「年の初めに」に樫山幸夫・論説委員長が「覚悟と結意の成熟社会に」を書いている。

「戦後70年を迎えた。21世紀に入ってからでも、すでに15年目、時のたつのは早い。この世紀をどう生きていくべきか――。各国共通の課題だ。『中国の夢』『強いロシア』をめざす2つの国を除けば、いずれも答えを出しあぐねているようだ。転換期の日本こそ明快な回答を迫られている。

戦後のわが国は、復興の時代、高度成長による繁栄期をへて、豊かさと多様な価値観を持つ成熟期を迎えた。そこで長引くデフレという障害に逢着し、今日に至った。

<依存心が劣化を招いた>
安倍晋三首相は、ことし、あらたな談話を発し、世界にどう貢献していくか、構想を示すという。選択の幅は広いだろうが、キーワードは『自立』『自助』であるべきだ。

なぜ『自立』と『自助』か。国民の覚悟と決意と同義だからだ。これなくして難問の解決はできないにもかかわらず、今日の日本には欠けているようにみえる。依存心、甘えは国力劣化の原因でもある。

成熟社会は快適な半面、さまざまな問題を内包する。現状への不満、将来への不安もあるだろう。

しかし、それを声高に叫び、不利になることからは逃げ、メリットだけ享受することはむずかしい。

具体例として、税と社会保障の改革をとってみても、総選挙中の産経新聞社とFNNの合同世論調査で、増税延期を約6割が評価した。内閣府が昨年6月に行った調査では、医療・年金などの整備を求めた人は約7割にのぼった。増税先送りと社会保障充実をどう両立させるのか。

政治家は議員定数や歳費削減など痛みを伴う改革から逃げ回り、既得権の維持に汲々としている。衆議院の抜本改革を自ら断行することができず、第三者による『衆院選挙制度に関する調査会』に委ねざるをえなかった。他人任せの典型だろう。

国の守りも同様だ。中国、韓国との関係は依然、冷えびえとしている。北朝鮮は核開発を継続し、ロシアは首脳同士の『友情』にもかかわらず、北方領土を返す気配を見せていない。

前世紀後半、日本は経済大国にふさわしい政治、安全保障の役割を期待されたが、それにあえて目をつぶってきた。日米安保条約の羽毛のような心地よさに身を置くだけで、拉致問題の解決も実現できていない。被害者の家族は、米大統領に直訴しなければならないほど切羽詰った状況へ追いやられている。

メディアの責任も問われよう。事実と信念に基づく編集より、読者受けする迎合記事を優先し続けてきたのではなかったか。とりわけ朝日新聞の慰安婦強制連行報道は世界に拡散し、日本の名誉を傷つける深刻な事態を招いた。メディアも覚悟と決意を持たなければなるまい。

<現憲法が問題の根源だ>
他者依存をさかのぼれば畢竟、日本国憲法に行き着く。その前文は『われらの安全と生存』を『平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して』保持する決意を披瀝している。平和を乱し、不公正で信義なき振る舞いをする国など存在しないというのか。わが国の周りを見回しただけでも的外れであることがわかる。国の守りすら他者依存では自助の精神を育むことなど不可能だろう。

『自立と自助の国』をめざすには、憲法の改正こそが必要だ。首相のこの問題への発言、姿勢は以前より慎重になっている。『機いまだ熟せず』との判断からだ。

しかし、総選挙勝利で、首相にとって長期政権への道が開けた。衆院では与党が憲法改正を発議できる3分の2以上の議席を維持している。改正国民投票法の成立もみた。環境は整いつつある。

首相には、『その時』がきたならば、躊躇せずに決断することを強く求めたい。産経新聞は一昨年公表した『国民の憲法』要請で、危機に対処できる『国家の羅針盤』を示し、それを実現する『独立自存の道義国家』をうたった。

戦後100年、さらには21世紀全体を俯瞰し、国民は政治家にだけ重い判断を委ねるのではなく、ともに考え、その決断を後押ししたい。それがまさに『自立と自助の国』への一歩だ。そういう年であってほしい」。「『自立と自助の国』を目指すには、憲法の改正こそが必要だ。首相のこの問題への発言、姿勢は以前より慎重になっている。『機いまだ熟せず』との判断からだ」は、正論である。先の衆院選で、与党で3分の2以上の議席を得て与党圧勝となったが、自民党単独で3分の2以上の議席に届かなかったからである。
民意は与党を圧勝させ、2018年までの安倍長期政権を容認したが、憲法改正は時期尚早とブレーキをかけたからである。公明党が憲法改正自体に慎重姿勢であることを承知した上での判断だからである。「機いまだ熟せず」である。

問題は、「機はいつか」である。国民が「衣食足りて礼節を知る」ときである。15年デフレから完全脱却し、景気回復が軌道に乗り、アベノミクスが成功した後となる。16年ダブル選までに間に合うか否か、である。16年ダブル選までは、安倍首相はアベノミクス最優先で行かねばならない。憲法改正はあえて封印すべきとなる。機が熟すまで待つべきである。

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