2023年3月20日 サウジ・イラン外交正常化と中国

サウジアラビアとイランが今月、外交関係正常化を合意した。この経緯にも国際政治の力学の変化が感じられる。つまりはアメリカの中東に対する影響力低下である。協議は北京で進められ「主権の尊重と内政への不干渉」が文章に盛り込まれ、中国と3ヵ国で共同声明のかたちで発表された。そもそも、親米寄りのイスラム教スンニ派のサウジアラビアとシーア派のイランとは中東の覇権を争ってきた間柄である。

2016年にシーア派指導者の処刑に反発したイランのデモ隊によるサウジアラビア大使館襲撃や2019年にはイランは関与を否定したが、サウジアラビアの石油施設がドローンやミサイル攻撃を受け、アメリカと共にイランを非難した。その後もイエメンやシリアに介入しながら代理戦争の様相に進んできた。しかしながら決定的に直接紛争は避けてきた感がある。そのなかアメリカも中国との対応に安全保障のウエイトをシフトせざるをえない事が中東地域手薄になった要因だ。サウジアラビアも中国を仲介役としてのイランとの正常化合意は、安全保障の確保の他にアメリカに対するプレッシャーもあるのであろう。

イラン側も度重なる経済制裁下での経済の疲弊もあり、ロシア・ウクライナ問題でもロシアに対するドローン提供を欧米諸国から非難され、更なる制裁が予想される。サウジアラビアとの正常化合意は何らかの経済活性化の道筋にしたいとの思惑もあるであろう。一方、仲介役になった中国は全国人民代表大会が開催され、元在日本大使も歴任した今般の仲介役、王毅政治局員も出席し習近平主席の新たなスタートとなった。

3か国共同声明には「サウジアラビアとイランの友好を支持する習近平国家主席の積極的な提案に両国が応じた」と記されている。王毅政治局員の中国メディアへの発表も「重要な結果が得られた、対話の勝利だ」とのまさに中国の勝利宣言をしている。中国は中東に於けるアメリカの影響力が弱まる期に、中東諸国に対する中国の覇権を拡大していく戦略もあるだろう。ロシア・ウクライナ対応に関しても「対話と交渉が唯一の活路だ」として、ロシア・プーチン大統領の会談も含め建設的な役割を果たす用意があると発言している。今後注目すべき動向である。

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