2021年10月5日 「自民新総裁に岸田氏」「国民の信を取り戻せるか」
「衆院選が直後に控える異例のトップ選びとなった自民党総裁選は、決選投票の結果、岸田文雄前政調会長が河野太郎行政改革相を破って選出された。
菅首相の退陣表明前、いち早く名乗りを上げた岸田氏は『政治の根幹である国民の信頼が大きく崩れ、我が国の民主主義が危機に陥っている』との現状認識を示した。7年8カ月に及んだ安倍長期政権と、1年で行き詰まった菅政権の『負の遺産』にけじめをつけ、国民の信を取り戻せるか、その覚悟と実行力が厳しく問われる。
4氏が立候補し、『本命』不在といわれた総裁選。一般の有権者に感覚が近いとされる党員・党友投票の行方が目された。河野氏は44%と、29%の岸田氏を上回ってトップに立ったが、国会議員票と合わせた得票は岸田氏を1票下回り、地方票の比重が大幅に減った決選投票で、議員票の3分の2を集めた岸田氏に引き離された。
地方票で大きくリードし、『選挙の顔』選びを重視する議員票を呼び込む流れをつくりたいという河野陣営の思惑は不発に終わった。1回目の投票で高市早苗前総務相に入れた議員票114票の行方が、岸田氏勝利のカギを握ったといえる。
今回の総裁選には、高市氏に加え、野田聖子幹事長代行が立候補し、男女同数の論戦では、子育て支援などに従来以上の光が当たった。当選3回以下の中堅・若手議員が派閥横断で集まり、派閥の意向に縛られず、個人の判断で投票先を選ぼうという動きもあった。
その中で安倍元総理は、最大派閥の細田派内にとどまらず、自身の首相時代に初当選した若手議員らにも影響力を保つ。自らに批判的な石破茂元幹事長とスクラムを組んだ河野氏の当選を阻むため、決選投票を経ての岸田氏勝利に一役買ったというのが専らの見方だ。
懸念されるのが、岸田氏が総裁選の最中、安倍氏に配慮し、その歓心を買うような発言を繰り返してきたことだ。
安倍氏が旗を振った自衛隊明記を含む改憲4項目の発議に意欲を示し、敵基地攻撃能力の保有も『選択肢』とした。女系天皇への『反対』も明言した。
岸田氏は従来の新自由主義的な経済政策が格差拡大を招いたとして、成長と分配の好循環による『新しい日本型の資本主義』を掲げる。緊急事態宣言の解除で、感染対策と経済活動の両立に難しいかじ取りを迫られるコロナ対策では、最悪の事態を想定し、自ら国民に丁寧に説明するという。
岸田氏の公約の柱の一つが、党改革だった。役員に中堅若手を大胆に起用し、権力の集中と惰性を避けるため、役員任期は1期1年で連続3期までとした。小選挙区制の導入で党本部の力が格段に強まったのに、党運営の改革が手つかずだという認識はその通りだ。 この際、党の新しいガバナンスづくりに真剣に取り組んでほしい。
政治への信頼回復に向け、岸田氏はまず、真摯(しんし)に説明を尽くす姿を国民の前に示すべきだ。総裁選を通じて安倍路線の継承をなし、国民の信を取り戻せたからである。自民党の支持率が総裁選で10ポイント前後上昇し、45%前後になったからである。一 方、野党第1党の立憲民主党は5%前後にとどまっている。自民党支持率が10ポイント 前後上昇したのは、総裁選に4人の候補が立候補し、政策論争をなし、保守派の高市早苗 元総務省が善戦し、保守派の結束を強め、反安倍のリベラル派の河野太郎前行革相の勝ちを阻止したからである。離反した保守層の回帰による安倍路線継承が理由である。確かに河野氏は国民人気 NO1 であり、自民支持層でも1番人気であったが、総裁選での政策論争 で、保守派の高市早苗前総務相との論争で反安倍のリベラル派の正体が露呈し、国民人気のメッキが剥がれ、支持層の急落を招いた。
中道の岸田文雄前政調会長と保守の高市早苗前総務相との1位、3位連合が勝つのは必 然である。安倍路線継承での連合である。安倍路線継承は国政選挙6連勝、総裁選3連勝 の要諦であり、次期衆院選の勝敗は、自民党が、岸田政権が国民の信を取り戻すか否かである。