2021年9月28日 政治手法の限界露呈
菅政治とは何だったのか。 その本質が端的に表れたのが、政権発足直後の日本学術会議の会員候補6人の任命拒否 である。政府に批判的な学者を排除し、その理由をまともに説明することもしない。 敵と味方を峻別(しゅんべつ)し、人事権を振りかざして従わせる。質問には正面から 答えず、説明責任を軽んじ、国会論戦から逃げる。それは、首相が官房長官として支えた 安倍前首相時代から続く政権の体質といってもいい。 さらに、首相の個性が拍車をかける。さまざまな政策判断において、丁寧に関係者の意見 を吸い上げるよりも、トップダウンを多用する。異論を退け、自身に都合のいいデータば かりに目を向ける。 首相の強い指導力が功を奏することもあろうが、こと今回のコロナ対策においては、こ うした流儀が大きなマイナスとなったのではないか。 専門家の科学的な知見はつまみ食いされ、耳の痛い提言は忌避される。官僚は首相の意 向を忖度(そんたく)して直言を避け、指示待ちとなる。対策の現場を担う都道府県知事 や業界団体などとの意思疎通も円滑とはいかない。 何より、強制力に頼らず、国民の自発的な協力に多くを負う日本の対策では、幅広い世論 の支持と理解が不可欠なのに、首相の言葉が届かない。 このまま任せて大丈夫か。高まる国民の不満と不信が首相の再選の道を断ったといえる。 ■自民党の責任も重い 実質的な『次の首相』選びとなる総裁選の構図は一変した。首相と岸田文雄前政調会長 の対決が軸とみられていたが、首相の不出馬を受け、高市早苗元総務大臣、河野太郎行政 改革相が早速、意欲を示すなど、3人の候補者が競い合う展開になった。 しかし、まず指摘しておかなければならないのは、首相を選び、この1年、政権運営を支 えてきた自民党自身にも、重い責任があるということだ。 安倍氏の突然の辞任を受けた昨年の総裁選で、自民党は党員・党友投票の実施を見送り、 主要派閥が雪崩をうって首相を担ぎ上げた。一国のリーダーとしての資質やビジョン、政 策の吟味はそっちのけで、勝ち馬に乗ることが優先された。その重いツケが回ってきたと もいえる。 今回の総裁選が、目前に迫る衆院選に向けて不人気な首相を代えるという、単なる看板 の掛け替えであってはならない。 まずは、1年で行き詰まった菅政権の総括から始めねばならない。そのうえで、将来を 見据えた、政策中心の真摯(しんし)な論戦が求められる。桜を見る会や森友・加計問題 など、安倍前政権が残したウミを取り除くことも、政治への信頼を回復するうえで避けて 通れない。 一方で、コロナ禍は深刻さを増している。その対応が滞ることのないよう、政府・自民 党は全力をあげねばならない」。 菅義偉内閣は発足当初65%の高支持率でスタートしたが、8月末の内閣支持率は3 0%にまで下落した。コロナ新規感染拡大が理由である。政府のコロナ対策を評価しない 60%が支持率下落を誘導した。コロナ対策の切り札であるワクチン接種は欧米諸国より 2カ月遅れたが、菅義偉首相主導で1日100万回超の接種を進め、10月末には欧米に 追い付くまで加速した。結果ワクチン効果によって首都圏での感染が8月末にピークを越 え、減尐に転じた。東京五輪・パラ五輪成功の国際公約を果たした上でのコロナ収束のメ ドが見えてきたのである。これを菅義偉首相は「希望が見えた」と宣言した。コロナ収束 のメドがたてば、内閣支持率が反転上昇し、自民党支持率も上昇し、衆院選で圧勝できる との読みである。 問題は、9月17日公示、29日投開票の総裁選で、菅義偉首相が、地方票で岸田元外 相に負ける公算が出てきたことである。8月22日の横浜市長選で菅義偉首相の側近の小 此木元国家公安委員長が大敗した。その直前の自民党の緊急調査で現有議席276議席よ り40~60減との結果に3回生以下の126人が、危機感を持ち選挙の顔として、菅首 相以外ならだれでもよいとの造反を始めたのである。派閥の統制は効かず、自主投票の流 れとなり、地方票、議員票でも岸田氏優勢となったのである。東京五輪・パラ五輪成功を 評価する60%が、コロナ新規感染拡大、1日全国2万人、東京5000人のコロナ対策 を評価しない60%に相殺されたのである。 コロナ収束の1カ月遅れが誤算となった。ここは身を引いて自民党総裁選に複数以上の 候補を立て、9月末まで電波ハイジャックをなせば、新総裁=新首相は内閣支持率60% 以上、自民支持率40%台になる。しかも次期衆院選は11月中旬以降になる。国民の8 割以上にワクチン接種は完遂し、コロナは収束している。新首相の下で、自民党は圧勝す る。菅義偉首相は、11月中にワクチン接種国民の8割完遂し、自公政権への国民の信を 得るための、時間を稼ぐため、自ら身を退いたのである。09年の政権交代を招いた麻生 政権と同じ轍を踏まない歴史的決断となるが。