2021年4月7日 『戸籍の解体』を招く夫婦別性
「いわゆる『選択的夫婦別姓制』について枝野幸男・立憲民主党代表は国会で次のように述べている。『同姓を望む方には何の影響もな〔い〕』(衆院本会議、令和2年10月28日)。本当にそうか?
<選択制でも戸籍は解体>
夫婦別姓(氏)制度の実現を目指している二宮周平・立命館大学教授は『戸籍から個籍へ』と題する論文でこう述べている(『時の法令』平成28年6月30日)。
選択的夫婦別氏制度を導入すると、戸籍の編製方法を見直す必要がある』なぜなら第1に夫婦別氏を認める場合、同じ戸籍には同じ氏の人を記載するという原則(同一戸籍同一氏の原則)に抵触するからだ。第2に夫婦別々の戸籍を作り子は氏が同じ親の戸籍に記載するとすれば、夫婦親子は同一の戸籍に記載するという原則(夫婦同一戸籍の原則、親子同一戸籍の原則)にも反する(内田貴『民法IV[補訂版]親族・相続』参照)。
これらの原則に抵触しないようにするには、戸籍制度そのものを個人単位に編成し直すしかない。そうなれば制度の統一をはかるため伝統的な戸籍は解体され、別姓を望まない同姓家族にも『個人単位の戸籍』
民主党政権時代、『選択的夫婦別姓法』の制定を目指した千葉景子法相も、現在の『夫婦親子』で構成されている戸籍制度の解体を主張し、戸籍を個人単位に変えるべきであると述べていた。もしこれまでの戸籍がなくなっても、枝野氏は『同姓を望む方には何の影響もない』と強弁するつもりか。
<子供に「別姓」を強いる制度>
夫婦別姓制度の最大の問題点は必ず『親子別姓』をもたらすことだ。夫婦は自らの意思で別姓を採用することができる。しかし、子供には一方的に『親子別姓』が強制されるだけで、『親子同姓』を選ぶ権利は認められない。
確かに、子供にも18歳になったら姓の選択権を与えるなどといった案もないではない。しかし、『別姓』であることに変わりはなかろう。それ故、夫婦別姓制は子供の立場を無視した制度であるといわなくてはならない。
平成29年に行われた内閣府の調査では、『夫婦別姓が子供に与える影響』について、国民の62・6%が『子供にとって好ましくない影響があると思う』と答えている。この傾向は、5年ごとの調査でほとんど変わっていない。
この調査では、夫婦別姓に賛成が42・5%、これに対して、夫婦は同姓を名乗るべきが29・3%、同姓の下で通称を認めるが24・4%で、反対の方が計53・7%と多かった。この傾向も変わらない。
そこで出てきたのが希望者だけ別姓を名乗る選択的夫婦別姓制である。しかしたとえ『選択的』であれ、一部の希望者のために安易に導入するのは疑問である(拙著『日本国憲法 八つの欠陥』)。
というのは、先の内閣府の調査では、別姓賛成者でも自ら別姓を希望する人は全体のわずか8%にすぎなかったからだ。また、民間団体『選択的夫婦別姓・全国陳情アクション』が7千人に行ったアンケートでさえ、『別姓が選べないために結婚を諦めたことや事実婚にしたことがありますか』との問いに、『ある』と答えたのはたった1・3%であった。
<家族制度をなし崩し的に破壊>
選択的夫婦別姓制の第1の問題は、わが国の家族制度の基本原則にひとたび例外を作れば、なし崩し的に基本原則そのものを崩壊させかねないからである。
例えば、最近にわかに話題となり始めた『同性婚』であるが、もし『選択的同性婚』を認めよなどといった声が高まってきたらどうするのか。
憲法24条は『両性による婚姻』を保障しており、たとえ『選択的』であれ、もし同性婚を容認することになれば、わが国の伝統的な家族制度の基本原則が崩壊することになる。選択的夫婦別姓制についても同じことがいえないか。
第2に、たとえ選択制であれ、夫婦別姓制を採用した場合は、家族共同体としての『統一姓』つまり『家族名(ファミリー・ネーム)』を持つ家族以外に、家族の姓がバラバラで『家族名(ファミリー・ネーム)』を持たない家族が誕生する。その結果、国の全ての家族に共通する『家族の呼称』としての『ファミリー・ネーム』は制度として成り立たなくなる。これは伝統的な家族制度を否定するものだ。
第3に、夫婦の姓をどう決めるかは、個人個人の問題である。しかし、同時に、夫婦の姓の在り方はわが国の家族制度の基本にかかわる『公的制度の問題』(内田・前掲書)だ。
ところが姓を単なる個人の問題と考え、自分はその気がないにもかかわらず『別姓を望む人が名乗るだけなら』といった良くいえば善意、ないし軽い気持ちで賛成している人も少なくなかろう。それだけで安易に結論を出してしまっても良いのか。
それゆえ、たとえ選択制であれ、国民の意見が大きく割れる中で、夫婦別姓制を導入するのは疑問である」。
直近の日経調査で、選択的夫婦別性に賛成61%、反対26%となった。15年12月の調査では賛成が35%、反対が52%であったのに、賛否が逆転した。年齢別に見ると、18~39歳は84%、40代~50代は74%、60歳以上は55%。性別では女性が70%賛成、男性65%賛成。支持政党別では自民64%賛成、立民70%となっている。問題は、自民支持層で64%も賛成があることだ。
問題は、選択的夫婦別性が「戸籍の解体」「家族制の否定」に直結するとの国民の危機意識の欠如と「家族解体」こそ、共産主義思想の核心であるとの国民の認識不足である。そもそも、選択的夫婦別性を望むは8%しかいない。賛成61%と望む8%との乖離である。92%が同姓を望んでいるとなるから。8%の別性を望む人は通称使用の拡大で対処すべきとなるが。