2021年3月22日 原発稼働 司法判断は

「日本原子力発電東海第2原発の運転差し止め訴訟で、差し止めを命じた水戸地裁判決は、実効性のある避難計画の策定という新たな課題を突きつけた。他の原発の再稼働や原子力政策に影響を与える可能性もある。一方、四国電力伊方原発では広島高裁が一転、運転を認める決定を出し、揺れる司法判断を示す格好となった。
≪東海第2≫「避難の実効性求める」
『防災体制は極めて不十分で安全性に欠ける』。水戸地裁判決は30キロ圏内に94万人が住む東海第2原発で事故が起きた場合の住民避難の実効性に懸念を示した。
国際原子力機関(IAEA)は原子力施設の安全を確保するため安全対策を5段階にレベル分けした『深層防護』の考え方を採用し、日本でも原子力事業者に求めている。このうち地震や津波などへの安全対策や事故の拡大防止などを求める第1~4層は原子力規制委員会の審査対象で、東海第2は2018年に審査をクリアした。地裁は規制委の審査について『具体的審査基準に不合理な点があるとは認められない』と妥当性を認めた。
一方、住民の被ばくを防ぐための第5層に含まれる避難計画は規制委の審査対象ではなく、作成主体は自治体。水戸地裁は避難計画も規制委の審査と同様に大地震や大津波、火山の噴火などを想定して『実現可能な避難計画が策定され、実行できる体制が整備されていなければならない』と指摘した。
事故時に即時避難となる5キロ圏の予防防護措置区域(PAZ)には約6万4000人、5~30キロ圏の緊急防護措置区域(UPZ)には約87万4000人が居住する。地裁は一斉避難と自主避難が重なった場合、避難道路に重度の渋滞が発生することを懸念し、『人口密集地帯の原子力災害における避難が容易でないことは明らか』として合理的な避難経路の確立と周知が不可欠とした。避難計画を策定している自治体は30キロ圏内の14市町村のうち5市町にとどまり、それらの計画でも複数の避難経路が想定されていないことを指摘し、『人格権侵害の具体的危険がある』と判断した。
 さらに規制委が、原子炉から一定の範囲を低人口地帯とする立地審査指針を採用していないことにも言及し「現行では人口密集地帯で実効的な避難計画を策定できるのか疑問」と踏み込んだ判断を示した。
これに対し、規制委の事務局を担う規制庁幹部は『避難計画の実効性がないと再稼働に必要な地元の同意も得られない。今さら審査で原発周辺の人口を考える必要はないのではないか』と反論した。
ある規制庁職員は『原発周辺の人口が多く、県外への避難先など調整も多岐にわたり、作るのは難しいだろうなとは思う』と話した。だが、判決について規制庁幹部は『規制委の責任を果たした結果』と、規制委の審査に問題はないと主張した。判決では、津波の備えなど安全対策そのものに関しては過誤はないと評価したため、規制庁幹部は『規制行政への影響はないのではないか』と語った。
原電によると、東海第2では防潮堤の建設など大規模な安全対策工事が進められており、完了は22年12月の見込み。その上、再稼働には地元の同意を得る必要があり、原電は再稼働の時期を示せていない。水戸地裁の判決で、その時期はさらに見通せなくなった。
原子力防災に詳しい東京女子大の広瀬弘忠名誉教授(災害リスク学)は「避難問題を判決の基軸に置いたことは正しい。判決は実行可能な避難計画を立てないと再稼働できないことを示す良い例になった。原子力災害に対する安全性を担保するため、避難計画も規制委の審査対象に入れるべきだ。規制委も踏み込んで審査する必要がある」と指摘した。
 原発の安全対策に詳しい東京工業大の奈良林直特任教授(原子炉工学)は『避難計画が再稼働の条件とされた。判決を覆すには原電が避難計画も含め、何らかの対応を取らないといけないと解釈できる』との見解を示した。
≪伊方≫「安全性の評価難しく」
四国電力伊方原発3号機は、断層による地震と火山の噴火という二つの地理的リスクを抱え、過去2回、運転差し止めの司法判断が下された。広島高裁は18日の異議審決定で四電側の主張を認め、運転差し止めの仮処分を取り消したが、安全性の評価は専門家でも見解が分かれており、裁判所の判断も振れ幅が大きい状態が続いている。
伊方原発がある佐田岬半島の北側には、日本列島を貫く国内最大の断層帯『中央構造線』が半島に沿うように走り、特に近畿から九州までの区間は活動が活発な『中央構造線断層帯』と呼ばれる。また約130キロ南西には過去に4度、破局的噴火をした阿蘇山(熊本県)がある。国の基準で、半径160キロ以内の火山は噴火の影響を考慮しなくてはならない。
司法が伊方原発の運転を止めた事例は、山口県の住民による訴訟と、広島・愛媛両県の住民による訴訟で各1回ある。18日の広島高裁の異議審決定は山口訴訟の流れだが、裁判所の判断は揺れ続けている。
山口訴訟では、山口地裁岩国支部は2019年3月、四電の断層調査を認めて【沿岸部に活断層が存在するとは言えない】とし、運転差し止めの仮処分申請を却下した。しかし、即時抗告審で広島高裁は20年1月、原発から2キロ以内にある断層に関する四電の調査と原子力規制委員会の判断を問題視し、運転差し止めの仮処分を出した。広島・愛媛訴訟では火山の影響が争点となり、広島高裁は17年12月、運転差し止めを求めた仮処分申請の即時抗告審で、阿蘇山の火砕流が原発敷地に到達する可能性が否定できず『立地として不適』と判断。規制委の判断を妥当とした広島地裁決定を覆し、運転を差し止めた。
18日の異議審決定で広島高裁は、大規模自然災害の発生時期や規模についての科学的知見が定まっていないと前置きし、『独自の科学的知見を有するものでない裁判所』が、『原子炉の存在や原告住民らの居住状況から直ちに』、危険性について『事実上推定するなどということは相当でない』とし、専門的判断の限界をにじませた。
小出裕章・元京都大原子炉実験所助教(原子核工学)は『本来は裁判所が、膨大なデータを持つ四電に専門家の見解の相違がないくらいの情報を示させるべきだ」と高裁の消極的な姿勢を批判。奈良林特任教授は異議審決定を『理詰めで作られた妥当な判断』と評価しつつ、運転差し止め訴訟が各地で提起されていることについて『電力会社や規制委が安全対策をしっかり発信してこなかったからだ。対策の根拠も含めた説明責任を広く果たすことが求められる』と注文した』。

東京電力福島第1原発事故から10年たつが、原発の周辺住民らが運転禁止や規制委の適合判断の取り消しを求める訴訟が相次ぎ、35件の訴訟や仮処分の申し立てが係争中であるが、地震や火山リスクや避難計画の実効性を問題視し、7件は住民側の訴えが認められた.ただすぐに効力が発生する運転禁止の仮処分決定は全て覆され、判決は確定していない。伊方原発3号機の運転差し止めを命じた広島高裁の仮処分決定を、四国電力側が申し立てた異議審で、高裁は18日、異議を認めて差し止め決定を取り消した。
問題は、住民側は最高裁上告をせずに、終わりにしたことである。最高裁でも敗訴すると、他の訴訟への影響が大であるからだ。ここが反原発運動の法廷闘争の限界となる。最高裁での住民側の敗訴確定をもってである。

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