2021年3月22日 延長2週間、再拡大の芽摘めず、緊急事態

「政府は18日、新型コロナ対応の緊急事態宣言の全面解除を決めた。ただ、東京都などの感染者数は増加傾向にあり、効果的な感染防止対策は見いだせていない。菅義偉首相が『一日も早く』と訴えてきた感染の収束には遠い状況で、政府内からは近い将来の再宣言に言及する声すら上がる。
18日夜の記者会見。首相は、首都圏の宣言を再延長したこの2週間の感染状況について、『目安とした基準を安定して満たしている』と語り、宣言解除の環境は整ったとの考えを強調した。西村康稔経済再生相も、『制御できるレベルだ』とした。
だが、東京都の感染者数は17日に1カ月ぶりに400人を超え、前週の同じ曜日を9日連続で上回った。感染力が強いとされる変異ウイルスの確認数は16日時点で26都道府県の計399人に増えた。専門家からは、感染再拡大(リバウンド)への警鐘が相次ぐ。
官邸幹部は、解除は経済への打撃や宣言の効果が薄れたことも踏まえた『総合的判断』(官邸幹部)と認める。首相周辺も『もう仕方がない。これ以上は宣言を続けられない』と語った。東京都幹部も『感染者の増加に歯止めをかけられなかった。都民に宣言が延長された意味が伝わらなかった』と話す。
首相は、再延長の2週間を『リバウンドを防ぐための防止策をしっかり考える』期間と位置づけていた。専門家らでつくる諮問委員会(尾身茂会長)はそのための7項目の対策を提案。政府と自治体に『見えにくい感染源』を特定するため保健所の調査強化や高齢者施設での検査、病床の確保などを求めた。
これを受け、新型コロナですぐに入院できる病床を千葉県は90床、埼玉県は30床増やした。東京都は花見の名所への立ち入りを一部制限。神奈川県も名所での飲食をともなう宴会の自粛を求めるなどした。政府も、感染拡大の予兆を探知するための調査を、首都圏に先立って宣言を解除した栃木を皮切りに7府県などに順次拡大した。
ただ、対策の多くは、昨年秋以降に打ち出されていたものが、ようやく緒に就いたのが実態。首相周辺は『打つ手なし』との見方を示す。
宣言の2カ月半をみても、政府の対策にはちぐはぐさも目立った。首相は宣言当初、水際対策の強化に慎重だったが、自民党の保守層の反発を受け方針転換した。解除をめぐる判断でも、病床使用率が『ステージ4』の基準をギリギリ下回ったばかりの福岡県を先行解除した一方で、首都圏はほぼ同じ水準の県があることを理由に再延長した。首相と東京都の小池百合子知事との主導権争いも、随所に垣間見えた。ある諮問委のメンバーは『結局、直感で決めている』とあきれ顔だった。
18日の都内の感染者は323人。首相は会見で、4都県の感染者は『(ピーク時より)8割以上減少した』とアピールしたが、今回の感染流行が懸念され始めた昨年11月上旬の水準に戻ったに過ぎない。『感染拡大を二度とおこしてはいけない』とも強調した首相。だが、再び感染状況が悪化した場合の責任を問われると、『対策をしっかり行い、一日も早い感染拡大収束に努めていきたい』と述べるにとどめた。
≪新味乏しい対策、「再宣言も」≫
今回の宣言の解除は、リバウンドは織り込み済みだ。首相は会見で『感染者数は横ばい、あるいは微増の傾向が見られ、リバウンドが懸念されている。変異株の広がりにも警戒する必要がある。宣言が解除される今が大事な時期だ』と説明した。 政府の諮問委員会の竹森俊平・慶応大教授は『リバウンドに対応できる体制を4月中に作らなきゃいけない』と話す。
では、今後に向け政府や自治体はどのような手立てを講じるのか。
首相は対策本部で飲食を通じた感染防止、変異株の監視体制強化など5本柱の対策を掲げた。とりわけ変異株について『国民の安心のため』(西村経済再生相)に、いま陽性者全体の10%に実施しているスクリーニング検査を40%程度に引き上げ、感染状況の把握に力を入れる方針だ。
ただ、5本柱も具体的な中身をみると、これまで掲げられていたものが大半だ。官邸幹部は『そもそも宣言を解除するのに、制限などを強めることはできない。今までの取り組みや心がけを続けるようお願いするしかない』と話す。
状況は自治体も同様だ。4都県の知事は18日、テレビ会議で共同メッセージとして『外出時は3密回避』『歓送迎会や謝恩会は控えて 花見は宴会なしで』などと打ち出したが、どれもこれまでも訴えてきた内容だ。
先に宣言が解除された関西圏では、大阪の夜の繁華街などで人出が増加し、早くも感染者数は上昇している。小池知事は『<解除>という2文字が躍ると、物事が終わったと思いがちだ』と警戒を呼びかけた。
これから感染状況はどう推移するのか。
『4月中にもまた感染拡大の可能性がある』。田村憲久厚生労働相は18日の諮問委後、記者団にそう語った。諮問委のメンバーの中にも同様の指摘があり、多くの専門家が早期リバウンドへの危機感を語る。
感染拡大傾向が明らかになれば、政府は2月の法改正で新設した『まん延防止等重点措置』を出し、過料20万円以下の罰則付きの時短命令などで対応する構えだ。ただ、同措置を出す基準ははっきりしない。そもそも今の宣言下でも感染者数が増えており、措置の効果は未知数といえる。
来月から高齢者への接種が始まるワクチンへの期待も高まるが、専門家には『効果が目に見えて表れるのは来年以降では』との見方も。首相周辺は『また宣言を出して感染を抑えることも考えなければいけない』と、再宣言の可能性を視野に入れる。
だが、3度目の宣言ともなれば、『一日も早い収束』を掲げてきた菅政権にとって打撃となるのは確実だ。場合によっては、首相が政権浮揚のカギとする東京五輪・パラリンピックの開催にも影響しかねない。官邸幹部は『1日や2日で宣言の水準まで急増するわけではない』と話すが、不透明な先行きに『不安はある』と本音を漏らす」。
政府は18日、21日からの新型コロナ対応の緊急事態宣言の全面解除を決めた。25日からの東京五輪聖火リレーに備えてである。菅義偉政権にとって、7月からの東京五輪・パラ五輪開催は至上命題であり、9月以降の解散・総選挙の命綱である。反菅の小池都知事においても同じであり、ここで妥協せざるを得ない。確かに、リバウンドはあるが、ワクチンの普及で第4波は阻止できるとの読みである。第3波は収束しつつあり、内閣支持率も反転上昇している。国内動員のみとなるが、コロナに勝った証としての東京五輪・バラ五論開催は、菅義偉政権の歴史的実績となり、9月以降解散・総選挙は圧勝となるが。

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