2018年12月28日 産経「正論」島田洋一・福井県立大学教授「米の対中締め付けは不変と見よ」

産経の「正論」に島田洋一・福井県立大学教授が「米の対中締め付けは不変と見よ」を書いている。

<存在感増すボルトン補佐官>

『人事は政策』という。トランプ米政権の外交政策は大統領の日々のツイートではなく、人事にその特質がよりよく表れる。

先ず『外交安保に特化した官房長官』というべきボルトン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)が存在感を増してきた。私は数十年來彼の言動に注目し、5,6度対話の機会も得たが、戦略的思考に優れたハードライナーという印象は変わらない。弁護士を経て米国国際開発庁、司法省、国務省、国連などで行政経験を積んできた。歯にきぬ着せぬ論客だが、単なる評論家タイプではない。

日本でもなじみの深いアーミテージ氏、グリーン氏らが、共和党主流にありながら、公然たるトランプ叩きで『干されて』いるのと対照的に、『超強硬』で異端とされたボルトン氏は、慎重に個人攻撃を避け、政権中枢に活躍の場を得た。あくの強い大統領と『うまくやる』ことを含め、敵に極めて厳しい半面、無用に敵を作らない戦略性も備えている。

大手シンクタンクの役職やFOXニュースの解説者(昨年は6千万超の契約)にいつでも復帰できるボルトン氏に、地位に恋々とする理由はない。彼が大統領補佐官に留まる限り、中国や北朝鮮、イランなどに対する圧力強化路線を維持すると見てよいだろう。

<5G巡る覇権争いは天王山に>

12月1日、米中首脳会談の数時間後、米司法省の要請を受けたカナダ当局が。中国の通信機器大手『華為技術(ファ―ウェイ)』の最高幹部を『対イラン制裁法』違反容疑で逮捕した。

ファ―ウェイは情報空間支配を狙う中国の国策会社である。米政府は数カ月來、同盟国に対し、同社はじめ中国通信企業を政府調達から締め出すよう圧力をかけていた。逮捕には念押しのメッセージの意味もあった。

8月に成立した米国防権限法は、ファ―ウェイなど中国の通信5社を名指しし、『安全保障』上政府機関や取引企業の調達先から排除せねばならないと規定している。また『対象国』を唯一『中華人民共和国』と明記した上で、国防長官ないし米連邦捜査局(FBI)長官が『対象国政府と関係ある』と『合理的に信ずる』いかなる企業も追加的に排除できる旨も明記している。同法案は上院を87対10、可下院を359対54の圧倒的多数で通過した。まもなく次世代通信規格(5G)を、巡る覇権争いが天王山を迎える。議会の支持も得た米政府が攻勢を緩めるとは考えられない。

今後、ファ―ウェイなど取り引きのある日本企業は米市場から締め出されていく。取引を隠して営業を続けた場合は、巨額の罰金に加え、経営幹部の逮捕、収監といった事態にもなろう。ボルトン氏は議会と協力しつつ、通信関連のみならず米企業の知的財産を窃盗したとみなされる中国の全ての企業を米市場から締め出す方針も打ち出している。

その議会において対中強硬路線を主導してきたルビオ上院議員は『中国にサプライチェーンを有する米ハイテク企業は、いかに困難を伴おうとも依存の低減に取り組まねばならない』と経済界に警鐘を鳴らしている。

同じくクルーズ上院議も『ファ―ウェイは通信企業の皮をかぶった中国共産党のスパイ機関だ。その監視ネットワークは世界を覆い、その顧客はイラン、シリア、北朝鮮、キューバなどのならず者国家だ』と国際的に排除を徹底すべしとの立場を公にしている。

<問題は共産党の世界支配だ>

ルビオ、クルーズ両氏は、共和党の大統領候補指名を最終戦までトランプ氏と争った若手実力者である。現在はトランプ氏との関係もよい。ここに、対中全面非難演説で世界の耳目を集めたペンス副大統領を加えた3人が、目下、ポスト・トランプの最右翼といえる。少なくとも共和党政権が続く限り、対中締め付け強化は不変と見るべきだろう。

トランプ大統領は、中国との交渉役にライトハザー通商代表を充て、首脳会談にナバロ通商顧門を同席させるなど、強硬派シフトを印象づけている。ナバロ氏はかねて、『独裁的でますます軍国主義的となってきた中国への経済的依存を減らなさいなら、将来弾丸やミサイルが飛んできても全くの自業自得だ』と軍資金を枯渇させるべく、米国および同盟国は中国製品を買い控えねばならないと主張してきた。

『米中新冷戦』という言葉の適切性について議論がある。その際焦点を当てるべきは『冷戦』ではなく『米中』の方だろぅ。事は米中2国の争いではない。中国共産党が世界を支配すれば、自由で人間らしい文明は地を払う。派手な『関税戦争』に目を奪われがちだが、目下の主戦場は『情報通信』である。ここで中国が覇権を握ればサイバー空間の支配に加え、巨額の軍拡資金、工作資金が流れ込む。米政府、議会はその認識のもとで『冷戦』を展開している。はたして日本の政治家は危機意識を共有できているのだろうか」。

外交・安保に特化した官房長官としてのボルトン大統領補佐官が、対中強硬路線の司令塔となっており、トランプ再選のキーマンである。主戦場は情報通信分野であり、ファウェイ潰しである。日本企業からのファ―ウェイ排除が急務となる。親中企業、親中メディア、親中政治家の排除が始まるが。

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