2017年12月26日 日経「迫真」「改革なき税予算1」
日経の「迫真」に「改革なき税予算1」が書かれている。
「2018年度予算編成の大きな焦点だった診療報酬の改定率が18日の折衝で正式に決まった。医師らの技術料などは予想以上に伸ばす一方、薬剤費抑制で予算削減目標を達成するいびつさが浮き立つ。自民党の支援団体である日本医師会と政権の蜜月。
負担のしわ寄せがくる企業や個人の視点は無視され、医療の効率化論議も押し流された。
『麻生大臣のもとで(改定が)できて幸せです。ありがとうございました』。18日の閣僚折衝。財務省大臣室で厚生労働相の加藤勝信(62)はていねいに頭を下げた。
『四捨五入すれば0・6%だ』。6日前の12日午後11時ごろ。財務相の麻生太郎(77)は日本医師会長の横倉義武(73)と加藤にプラス0・55%の数字を提示。2人がその場で受け入れ、決着したが、もともとこんな高水準で決まるはずではなかった。
その日の午前、麻生が向き合っていたのは首相の安倍晋三(63)だ。横倉とは安倍が若手で自民党の社会部会長(現在の厚生労働部会長)をしていた頃からの付き合いで密接な間柄。横倉は第1次安倍政権が倒れた後も安倍と会い、関係を維持していた。
<4選を後押し>
横倉の顔を立てたい安倍に対し、麻生は前日固めていた『0・50%』からさらに10億円程度上積みし、0・51%で妥協点を探った。『横倉さんがいいというなら』と話す安倍。この瞬間、0・51%で決着かに見えた。
安倍・麻生会談が終わった日の午後、当の横倉は自民党本部で自民党幹事長の二階俊博(78)と会談した。二階は横倉の目の前でおもむろに財務省主計局長の岡本薫明(56)に電話をかけた。『自民党は大変選挙でお世話になった。よろしく頼むぞ』。決まりかけた0・51%は数時間後、『発射台』に変わっていた。
ここ数年、自民党で厚労行政の議論を取り仕切る政調会長代理の田村憲久(53)は0・51%以上のプラス改定ができる余力があることを知っていた。医療・介護の分野で過去に決めた歳出改革の効果が18年度に本格的に効き始めるからだ。田村からの連絡に意を強めた横倉は財務省に『0・7%が筋。最低0・6%』とハードルを上げ始めたのだ。横倉にも事情がある。今年10月に世界医師会長に就任。来年の日医会長選で4選を狙う微妙なタイミングで改定率は高いほど助かる。地方の医師会では『納得いかない数字なら会長は退陣すべきだ』と圧力をかける幹部もいた。
最終的に麻生は『四捨五入で0・6』という形で折れた。『上積みは横倉さんが自民党が下野したときも裏切らなかったことへの総理の恩返し』。こう語る厚労省幹部もいる。安倍・麻生が完全に主導権を握り、決着当日、知らせがなかった自民党厚労族幹部もいた。
プラス改定自体は8月末からの既定路線だ。『麻生さんと横倉さんの関係を考えたらマイナス改定なんてできるわけがない』。早々と白旗を掲げていたのは財務省幹部。
安倍・横倉が緊密なら、同じ福岡県出身の麻生と横倉も親しい仲だ。横倉は麻生と関係が微妙な福岡地盤の古賀誠(77)ともともと距離が近かったが、麻生に接近。第2次安倍政権下での14年度と16年度の過去2回の診療報酬改定でも麻生と横倉は直接やりとりし改定率を決めてきた。
診療報酬改定で主要プレーヤーのはずの中央社会保険医療協議会は13日、報道で決着の事実を知り仰天した。45兆円の診療報酬の配分を決めるこの協議体は、日医など『診療側』と健康保険組合など保険料の『支払い側』が互いに意見表明し、段取りを踏みながら改定率を決めるならわしだ。
『我々が意見陳述する前に改定率が決まるなど前代未聞だ』。13日にマイナス改定の意見表明をするはずだった委員の一人、健康保険組合連合会(健保連)の幸野庄司(58)は憤慨した。
<嘆く若手官僚>
今回のプラス改定で国費600億円だけでなく、企業や個人が支払う保険料と病院窓口で払う患者の自己負担は計1600億円程度増える。
診療所の院長ら開業医の報酬は十分に高額で、それをさらに引き上げるべきなのか。経済力のある高齢者らの医療費負担を適正水準に上げてはどうか。こうした議論は影をひそめた。財政悪化で国民みんなが我慢すべき時代に、開業医らに配慮した改定がほんとうに必要だったのだろうか。
日本医師会は20万票ともいわれる医師の組織票に加え、多額の政治献金で自民党の政治家を支援している。『<横倉さん、こっちを向いて>という政治家たちの思惑の積み重ねが0・55%という数字をつくった。まっとうな政策の筋論などない』。財務省若手官僚はこう嘆くが、一体で動く政権と日医の前では戦うことすら許されなかった。
≪公共事業費は6年連続増≫
医療などの社会保障予算だけでなく、インフラ整備といった公共事業予算も歳出改革は棚ざらしだ。財務省は2018年度予算案で公共事業費を17年度の5兆9763億円から微増の5兆9800億円程度とする。増加は6年連続。人口が減少する中でのインフラの重点整備や都市構造の転換といった議論は進まない。
18日の麻生太郎財務相と石井啓一国土交通相の閣僚折衝では公共事業予算を増やすことの是非は議論にすらならなかった。当初予算の公共事業費は1997年度に9・8兆円と過去最高。2012年度には4・6兆円まで減少していたが、その後、第2次安倍政権はわずかなプラスとする形で公共事業費を増やし続けている。
政府は公共事業予算は『成長戦略への重点配分だ』とアピールする。環境負荷の少ない液化天然ガス(LNG)を船舶燃料として供給する国内拠点の整備を進める。三大都市圏の環状道路の整備を中心に進め、企業の物流ネットワークを効率化する。20年の東京五輪を控え外国人観光客の受け入れ体制も整える」。
日本医師会20万票への配慮からの診療報酬のプラス0・55%改定である。公共事業費6年連続増も建設・土木業界100万票への配慮からである。この大盤振る舞いができるのも、アベノミクス効果による税収増あればこそである。