2014年3月11日 日経「真相深層」 「ウクライナ危機、問われる対応」「米ロ緊迫、渦中の安倍外交」「領土・同盟で板挟み」

日経の「真相深層」に「ウクライナ危機、問われる対応」「米ロ緊迫、渦中の安倍外交」「領土・同盟で板挟み」が書かれている。

「安倍政権にとって、ウクライナ危機は対岸の火事ではすまなくなってきた。米国とロシアの激しい綱引きの渦中に、日本は立たされている。『経済制裁を検討している。そちらも考えてほしい』。政府関係者によると、オバマ米政権から日本側には、こんな要請がきているという。

<対ロ配慮に限界>

ケリー国務長官は対ロシアの経済制裁を検討すると表明した。日本も同調してほしいというわけだ。海外資産の凍結や査証(ビザ)発給の一部停止が考えられるが、まだ米側は手の内のすべてを明かしていない。

日本の安全保障担当者は『制裁案の中身はまだ分からない。ただ米欧が連携すれば、同調せざるを得ない』とみる。

この構図は安倍晋三首相には誤算だ。プーチン大統領との関係を深め、北方領土交渉を任期中に決着させたいと願っているからだ。

米欧と協調するが、日ロ関係を決裂させるほどには、対ロ強硬に振れたくない。これが、安倍首相の本音だ。実際、そんな意向を周辺にもらしたという。日本はこの通りに振る舞っている。

ロシアの行動を非難した3日の主要7カ国(G7)首脳声明。米国がつくった原案を見せられた日本はすべての当事者に自制を促す文言を入れるなど、2カ所の修正を求めた。『ロシアを過度に刺激しない表現に薄めた』(政府関係者)。

日本だけではなく、ロシアにエネルギーを依存するドイツの軸足も米国とは異なる。メルケル独首相はロシアとの対話を主張。米国の強硬論とは一線を画している。

しかし、ロシアが大がかりな軍事介入に出れば、日独も対ロ関係に配慮しづらくなる。『日本はプーチン政権に深入りしないほうがいい』。米共和党の保守派からはこんな声が聞かれる。

安倍政権は早々に難しい判断を迫られそうだ。日本の安保担当者によると、ロシア軍の参謀総長が、月内に来日する日程が固まっている。まだ中止という話は出ていないが、危機のさなかに日本が歓待すれば、米欧から批判を浴びかねない。

19日にはロシアから経済閣僚や企業経営者を招いて都内で日ロ投資フォーラムが予定されている。経済制裁が発動されれば、開催の是非が問われそうだ。

こうしたなか、プーチン大統領は日本が米側に一気に流れないよう、策をこらす。仕込みは2月上旬のソチ五輪開会式から始まっていた。安倍首相の出席をめぐり、実はこんな秘話がある。『やはりダメか……』。1月下旬、安倍首相のソチ訪問を探る政府関係者らは困っていた。国会の日程上、どんなに急いでも、開会式に間に合うのが難しいからだ。

<中国の出方警戒>
複数の日ロ関係筋によると、それでもプーチン大統領はあきらめなかった。日本の政府専用機が東京-ソチを最短距離で飛べるよう、カザフスタンの領空を通過できるよう取りはからったのだ。安倍首相は約10分前に開会式に滑り込んだ。

そうして用意された日ロ首脳の昼食会。テーブルには最高級のキャビア3種類と、上等なウオツカが並んだ。『プーチン大統領は当時、すでにウクライナへの強硬策を描いていたはず。日米分断の布石を打つため、思い切り、安倍氏をもてなした』。ロシアの内情に詳しい日本の専門家はこう読む。

米ロの激しい攻防の渦中に立たされた日本。どう対応すべきか。日本は領土と歴史問題で中ロが組み、日本に圧力を強めてくる事態は避けたい。だが、ロシアに配慮して日米結束が傷つけば、かえって中国の対日強硬を招く――。安倍政権内ではこんな議論が交わされる。

安倍首相は月内に谷内正太郎国家安全保障局長をロシアに派遣することも検討中だ。日米欧を分断したいプーチン大統領が自ら応対し、厚遇するとの情報もある。日本は民主国家としてロシアの軍事介入を決して認めるわけにはいかない。その中で、どうロシアに向き合うか。安倍外交が問われる」。

日米欧を分断したいプーチン外交に対して、欧米に協調しながら日ロ関係を維持する安倍外交を展開できるか、安倍外交の正念場である。任期中に北方領土問題を決着させたい安倍首相にとって、日ロ関係決裂回避が至上命題だからである

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