2021年9月14日 ワクチン接種国民8割完遂の時を稼ぐ決断
「新型コロナ対応で国民の信を失い、党内の支持も得られなくなった末の退陣である。災
害級といわれる感染拡大と医療の逼迫(ひっぱく)が続く中、国民の命と暮らしを守る役
割を途中で投げ出す菅首相の責任は極めて重い。
首相は自民党総裁選に立候補しない意向を明らかにした。新総裁の選出後、首相を退く。
7年8カ月に及んだ安倍長期政権を引き継ぎ、65%の高支持率で船出した首相が、わず
か1年でその座を去る。
■行き詰まった延命策
事実上の退陣表明という節目であるにもかかわらず、首相は会見も開かず、記者団に短
い説明をしただけで、質問も受け付けなかった。『選挙活動との両立はできない』と、コ
ロナ対策への専念を不出馬の理由にあげたが、その言葉を信じるものは、誰もいまい。
任期切れ直前の異例の党人事、総裁選を先送りするための衆院解散の検討……。再選が
難しくなった首相の延命策が、党内の猛反発を買い、八方ふさがりになったというのが実
情だろう。これまで繰り返してきた『コロナ対策が最優先』という言葉に実がないことが、
改めて示された。
首相が就任した昨秋は、緊急事態宣言なしでコロナの第2波を乗り切った後だった。本
来なら、第3波が想定された冬に向け、医療や検査体制の充実など、備えを厚くしておく
べきだったが、経済活動の再開に軸足を置く首相は『Go To トラベル』の継続にこ
だわり、感染防止策は後手に回った。
専門家の懸念や閣僚の進言を無視して、東京五輪・パラリンピックを強行したのも、国
民的な盛り上がりを背に衆院を解散し、選挙戦の勝利を総裁選の無投票再選につなげたい
という思惑からだとみられた。
この間の内閣支持率の低下、東京都議選やおひざ元の横浜市長選での自民党の敗北は、
自らの政治的な利害を優先し、根拠なき楽観論に頼って感染拡大に歯止めをかけられない
首相の姿勢が、国民から見透かされた結果に違いない。
■政治手法の限界露呈
菅政治とは何だったのか。
その本質が端的に表れたのが、政権発足直後の日本学術会議の会員候補6人の任命拒否
である。政府に批判的な学者を排除し、その理由をまともに説明することもしない。
敵と味方を峻別(しゅんべつ)し、人事権を振りかざして従わせる。質問には正面から
答えず、説明責任を軽んじ、国会論戦から逃げる。それは、首相が官房長官として支えた
安倍前首相時代から続く政権の体質といってもいい。
さらに、首相の個性が拍車をかける。さまざまな政策判断において、丁寧に関係者の意見
を吸い上げるよりも、トップダウンを多用する。異論を退け、自身に都合のいいデータば
かりに目を向ける。
首相の強い指導力が功を奏することもあろうが、こと今回のコロナ対策においては、こ
うした流儀が大きなマイナスとなったのではないか。
専門家の科学的な知見はつまみ食いされ、耳の痛い提言は忌避される。官僚は首相の意
向を忖度(そんたく)して直言を避け、指示待ちとなる。対策の現場を担う都道府県知事
や業界団体などとの意思疎通も円滑とはいかない。
何より、強制力に頼らず、国民の自発的な協力に多くを負う日本の対策では、幅広い世論
の支持と理解が不可欠なのに、首相の言葉が届かない。
このまま任せて大丈夫か。高まる国民の不満と不信が首相の再選の道を断ったといえる。
■自民党の責任も重い
実質的な『次の首相』選びとなる総裁選の構図は一変した。首相と岸田文雄前政調会長
の対決が軸とみられていたが、首相の不出馬を受け、高市早苗元総務大臣、河野太郎行政
改革相が早速、意欲を示すなど、3人の候補者が競い合う展開になった。
しかし、まず指摘しておかなければならないのは、首相を選び、この1年、政権運営を支
えてきた自民党自身にも、重い責任があるということだ。
安倍氏の突然の辞任を受けた昨年の総裁選で、自民党は党員・党友投票の実施を見送り、
主要派閥が雪崩をうって首相を担ぎ上げた。一国のリーダーとしての資質やビジョン、政
策の吟味はそっちのけで、勝ち馬に乗ることが優先された。その重いツケが回ってきたと
もいえる。
今回の総裁選が、目前に迫る衆院選に向けて不人気な首相を代えるという、単なる看板
の掛け替えであってはならない。
まずは、1年で行き詰まった菅政権の総括から始めねばならない。そのうえで、将来を
見据えた、政策中心の真摯(しんし)な論戦が求められる。桜を見る会や森友・加計問題
など、安倍前政権が残したウミを取り除くことも、政治への信頼を回復するうえで避けて
通れない。
一方で、コロナ禍は深刻さを増している。その対応が滞ることのないよう、政府・自民
党は全力をあげねばならない」。
菅義偉内閣は発足当初65%の高支持率でスタートしたが、8月末の内閣支持率は3
0%にまで下落した。コロナ新規感染拡大が理由である。政府のコロナ対策を評価しない
60%が支持率下落を誘導した。コロナ対策の切り札であるワクチン接種は欧米諸国より
2カ月遅れたが、菅義偉首相主導で1日100万回超の接種を進め、10月末には欧米に
追い付くまで加速した。結果ワクチン効果によって首都圏での感染が8月末にピークを越
え、減尐に転じた。東京五輪・パラ五輪成功の国際公約を果たした上でのコロナ収束のメ
ドが見えてきたのである。これを菅義偉首相は「希望が見えた」と宣言した。コロナ収束
のメドがたてば、内閣支持率が反転上昇し、自民党支持率も上昇し、衆院選で圧勝できる
との読みである。
問題は、9月17日公示、29日投開票の総裁選で、菅義偉首相が、地方票で岸田元外
相に負ける公算が出てきたことである。8月22日の横浜市長選で菅義偉首相の側近の小
此木元国家公安委員長が大敗した。その直前の自民党の緊急調査で現有議席276議席よ
り40~60減との結果に3回生以下の126人が、危機感を持ち選挙の顔として、菅首
相以外ならだれでもよいとの造反を始めたのである。派閥の統制は効かず、自主投票の流
れとなり、地方票、議員票でも岸田氏優勢となったのである。東京五輪・パラ五輪成功を
評価する60%が、コロナ新規感染拡大、1日全国2万人、東京5000人のコロナ対策
を評価しない60%に相殺されたのである。
コロナ収束の1カ月遅れが誤算となった。ここは身を引いて自民党総裁選に複数以上の
候補を立て、9月末まで電波ハイジャックをなせば、新総裁=新首相は内閣支持率60%
以上、自民支持率40%台になる。しかも次期衆院選は11月中旬以降になる。国民の8
割以上にワクチン接種は完遂し、コロナは収束している。新首相の下で、自民党は圧勝す
る。菅義偉首相は、11月中にワクチン接種国民の8割完遂し、自公政権への国民の信を
得るための、時間を稼ぐため、自ら身を退いたのである。09年の政権交代を招いた麻生
政権と同じ轍を踏まない歴史的決断となるが。