2018年5月9日 日経「大機 小機」「マルクスの夢 中国の夢」
日経の「大機 小機」に「マルクスの夢 中国の夢」が書かれている。
「1818年5月5日、ドイツ南西部トリーアのユダヤ人弁護士一家に男の子が生まれた。長じて、ひげもじゃの革命家になる。
生誕200年を記念して3トンもあるカール・マルクス像トリーア市に贈られた。贈り主は中国政府。
中国は、憲法前文にレーニンと並び、マルクスの名を掲げる。昨秋の共産党大会での習近平(シー・ジンピン)演説は『新時代の中国の特色ある社会主義』を『マルクス主義の中国化の最新の成果』と自賛した。マルクス思想の〝中国化″とは、はて。
中国は矢継ぎ早に市場開放策を打ち出している。自動車の関税を引き下げ、銀行、証券、保険などの外資規制を緩和する。
海南島の自由貿易港化もそのひとつ。中国の専門家の解説だと『経済の自由度』で世界トップランクの香港を手本にするという。
マルクスが葬ろうとした資本主義への逆相か、と早合点してしまいそうだ。
だが一方で、西側が期待した『民主化』に背を向け共産党独裁を強めている。
上場企業で、社内に共産党組織を設ける、重要な経営決定は事前に社内党組織に諮る、などの定款改正が相次いでいる。もちろん、政権の意向を忖度してのことだ。
習近平政権になって思想や言論への締め付けも強まった。特にネットメディアへのグリップがきつい。
交流サイト(SNS)やニュースサイトなどで、罰金やサービス停止を命じられるケースが増えた。政権の意を迎えようと、自前の検閲要員を1万人に増やす大手ネット業者もいる。
デジタル技術を共産党の統治に活用する手法を、ドイツの中国ウオッチャーは『デジタル・レーニン主義』と名づけている。人工知能(AI)と監視カメラ網による『天網』システムは、顔認証で犯歴データなどと照合して犯罪者を摘発する。思想犯も例外ではない。ジョージ・オーウェルの小説『1984年』の監視国家さながらだ。
習近平氏が言う『中国の夢』とは『中華民族の偉大な復興』の実現という。ナショナリスティックな夢である。『万国の労働者、団結せよ』と訴えたマルクスとは距離がありそうだ。
『共産党宣言』の起草者がよみがえり、中国を評せば『頼もしい』なのか『おぞましい』なのか」。
今の中国共産党一党独裁統治を「デジタル・レーニン主義」と名付けている。ジョージ・オウエルの小説1984年の監視国家そのものである。問題は、これが中国の夢、マルクスの夢なのかである。中国共産党一党独裁の終わりの始まりとなるが。