2015年4月6日 日経「イラン核合意の波紋」㊤「中東秩序、変化の兆し」「サウジ・米同盟にきしみ」
日経の「イラン核合意の波紋」㊤に、「中東秩序、変化の兆し」「サウジ・米同盟にきしみ」が書かれている。
「米欧など6カ国とイランは同国の核開発を巡る枠組みで合意した。イランは核開発制限の約束を守れば、米欧は制裁を解除する。履行検証や解除の手順など6月末までの最終決着に向け課題は残るが、世界経済にイランが本格復帰する道が開けた。反イランのサウジアラビア、イスラエルは対米不信を強め、中東秩序に変化の兆しがある。イランの原油輸出拡大や市場開放をにらみ外資の期待と不安も交錯する。
『町を取り返したぞ』――イラク北部の要衝ティクリートで3月末、中心部に侵攻したイラク軍の兵士は叫んだ。イスラム教スンニ派の過激派組織『イスラム国』(IS=Islamic State)からの奪還作戦に参加した兵士は約3万人。一時は少なくとも3分の2が隣国イランからの民兵を含むシーア派だった。
<地域大国と連携>
米軍も支援した。ISはイラン、米国に共通の敵だ。両国の外交関係は1979年のイラン革命を機に断絶したまま。表面上は連携を否定する。それでも米軍制服組トップのデンプシー統合参謀本部議長は3月半ば、上院公聴会でイランによる支援が『軍事的には有益』と指摘していた。
オバマ米大統領はイランを地域大国と認め、核問題を解決すれば関係改善ができると考えていた。しかし、これはサウジ、イスラエルなどとの同盟を基軸としてきた中東政策の重大な転換になりかねない。大きな波紋が広がる可能性がある。
『米国に過大な期待はできない』。こう判断したサウジの戦車がイエメンとの国境に迫っているもようだ。イエメンではシーア派武装組織『フーシ』が南下し、一時はスンニ派が多いアデンの大統領宮殿を占領した。背後にイランがいるとみるサウジは3月下旬、フーシへの空爆を始めた。
サウジはその後、『アラブ連合軍』創設を決めたアラブ連盟(22カ国・機構)首脳会議に参加した。総勢20万~30万人の大きな兵力になる。外交関係者の間では『中東諸国が独自の地域安全保証体制を築こうとしている』という見方がささやかれる。仮に米国が抑えられない新たな軍隊が生まれるならば、地域の不透明感は一段と高まる。
<イスラエル反発>
合意に対し、明確に反発したのがイスラエルのネタニヤフ首相だ。電話で説明したオバマ米大統領を『イスラエル存続の脅威になる』となじった。合意発表の直前、同国のシュタイニッツ国際関係相兼戦略担当相はイスラエル放送に対し、イランの核開発が続くならば『軍事的な選択肢も』あると指摘した。イスラエルに届く弾道ミサイルを持つイランの核関連施設への攻撃も辞さない構えをみせた格好だ。
ケリー米国務長官は『地域を不安定にするイランの行動を懸念するからこそ』合意が重要だと自賛する。米軍のプレゼンスを中東からアジアにシフトするのがオバマ政権の基本戦略だ。イランとの関係改善が進めば米国はより安全になるのかもしれない。だが、代わりにサウジなど『旧友』が自由に振る舞う状況になれば、中東の安定がいまより増すとは限らない」。
米欧6カ国とイランは同国の核開発を巡る枠組みで合意したが、「イスラム国」打倒に大きな前進となった。反イランのサウジもイスラエルも「イスラム国」打倒では共闘せざるを得ないからである。問題は、オバマ政権が、サウジとイスラエルの対イラン不信を抑えられるか、である。