2021年4月22日 真に実効性がある同盟の本質

「戦後、主に現在の日米安保条約締結以来、日米は多少の出入りはあっても常に堅固な同盟関係にあったといえる。特にそれが目立ったのは、筆者の外務省現役(1965~2008年)時代に限れば、アメリカ側がレーガン政権(1981~89年)およびブッシュ43代政権(特に第1期2001~05年)の時代だったと思う。

<米国の最大課題は中国の時代>

2017~21年のトランプ政権時代の日米関係は他国との比較でも抜きんでて良好な時代だったようだが、これはアメリカの大統領が日本の首相にアジア・太平洋政策関係の『アドバイザー』、ないしは『社外取締役』の役割を求めたと評される特殊な時代だったと言うべきかもしれない。
レーガン、ブッシュ43代時代に共通するのは『アメリカ側から見て』国家安全保障政策上の日本のウエートが高い時期だった。
レーガン政権はソ連との『冷戦』に勝つことを決意した政権であり、北大西洋条約機構(NATO)加盟国が集結する欧州・大西洋に比べて脆弱(ぜいじゃく)なアジア・太平洋で対ソ連防衛網の中核は日本で、ここをてこ入れしなくてはいけないとの意思が明確だった。
ブッシュ43代政権は発足1年目に史上初めてアメリカ『本土』が外敵に襲撃された9・11に続き、対イラク戦争で欧州との協調がうまく進まない未曽有の『国難』の中、日本がいち早く対米支持を表明したことはアメリカにとって大きな意味を持った。
今ようやくアメリカが自国の国益にとって最大の『課題』『挑戦(チャレンジ)』は中国と見定める時代に入ったように見える。これはよいことである。
2015年前後までは国家安全保障上の最大の課題は中国だという認識において日本の方がアメリカよりも鋭敏だった。当時アメリカの有識者(超党派)との会議に出席してそう思ったものだ。今そこは逆転している観がある。

<収斂(しゅうれん)する日米の対中脅威認識>

アメリカの国家安全保障会議(NSC)やその事務局の『脅威認識』『国際情勢認識』が日本のそれに近く、担当者が『同盟関係』のマネジメントにたけているときは安心できる時代である。
レーガン、ブッシュ41代の共和党政権が終わって1993年に12年ぶりに民主党クリントン政権が発足した当初、ホワイトハウスで引き継ぎ事務に携わった友人によると、あたかもホワイトハウスに大学院のゼミが引っ越してきたような感じだったとのことである。
筆者はオバマ時代を知らないが、ロバート・ゲーツ、チャック・ヘーゲル両国防長官やデニス・ブレア国家情報長官(元太平洋軍司令官)などが次々辞任したのは大統領の当時の安保担当側近の『素人感覚』に嫌気がさしてのことだと巷間(こうかん)伝えられている。
現バイデン政権の安保関係担当の閣僚や側近には日本にもなじみのある『プロ』が多いらしく、それは心強いことである。
今アメリカと日本の対中国認識は従前よりも近似しているといえるであろう。アメリカの中国政策における日本の重要度は高く、もとより逆も真である。
ただ、アメリカの対中政策は伝統的な軍事力にサイバー、宇宙、人工知能(AI)、電子戦の能力を加えた軍事バランスを中核に据えたものになるとはいえ、一方で気候変動、疫病対策などでの協力を見込んだ『総合型』である。
他方、日本がアメリカに期待するのは尖閣をはじめ、日中間に何かがあった場合に日本の側に立って中国を抑止、諫止(かんし)し、必要とあれば日米安保に基づく軍事防衛行動をとってくれることである。
『同盟』とはそれが自国の国益増進に『効用』があるという認識と打算の上に成り立つ枠組みである。その同盟は当事者双方の『価値観』と『脅威認識』が一致したときには非常に強固なものになる。
アメリカから見た日本と中国の違いは『価値観』の違いである。民意(自由な選挙)によって選ばれるという『政治的正当性』を持ったリーダーが『法の支配』『言論の自由を含む基本的人権の保障』を通じて個々人の『尊厳』を守る体制への確信、これが日米に共通する価値観である。

<日本は何ができるかを論ぜよ>

前述の通り、昨今の日本では尖閣で何かあった場合、アメリカは何をしてくれるかといった類いの議論が多いが、虚心に考えれば尖閣であれ、台湾情勢であれ、アメリカが何をしてくれるかを論ずる前に日本は何ができるか、何をすべきかを考えるのが当然の順序であり、その上でアメリカとの綿密な協議を通じて『脅威認識』の共有、具体的行動計画の策定につなげていくのが筋だろう。
この過程を通じてアメリカは日本と価値を共有し、日本と中国は違うとの確信を深める。
日米同盟と対中友好の両立を図る外交的手腕は必要であるが、両者が「等価」であるかのごとき振る舞いの積み重ねは日米同盟の弱体化そして日本の国益の毀損(きそん)につながるという基本を為政者は忘れるべきではない」。
コラムの結語である「日米同盟と対中友好の両立を図る外交手腕は必要であるが、両立が『等価』であるかのごとき振る舞いの積み重ねは日米同盟の弱体化そして日本の国益の毀損につながるという基本を為政者は忘れるべきではない」は、正鵠を突いている。
日米首脳会談で菅義首相が中国のウイグル族への弾圧を「ジェノサイド」認定との合意バイデン大統領から迫られるのに、それを支援する超党派の国会議員連盟による中国のウイグル人弾圧非難決議が与党の公明の反対によって流れたことである。公明党の山口代表は人権侵害のエビデンスがないとの理由で。中国への忖度によって、日米同盟よりも対中友好を優先したからである。中国共産党主導の対日間接侵略の成果である。国内に浸透している親中派勢力の一掃が急務となり、その踏み絵は憲法9条改正の是非となるが。

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