2019年2月19日 産経「湯浅博の世界読解」「デジタル・シルクロードのわな」

産経の「湯浅博の世界読解」に「デジタル・シルクロードのわな」が書かれている。

「国家基本問題研究所の一員として訪ねたインドのシンクタンク、ビベカナンダ国際財団とのセミナーは、日印共通の戦略的な対抗相手である中国に、どう立ち向かうかに絞られていた。中国政府の巨大経済圏構想であるはずの『一帯一路』が、軍事と情報の絡む地政学的リスクになりつつあるからだ。

今回の会議では、当方の懸念がモディ印首相による最近の対中接近であるように、先方の懸念もまた安倍晋三首相の対中接近にあった。しかし、議論を通じて互いの戦略意図が明らかになって、日本とインドの密接な関係こそが中国の力によるアジア支配を防ぐとの共通認識に至った。

確かにモディ氏は、ブエノスアイレスでの20カ国・地域(G20)首脳会議(サミット)に合わせて日米印3カ国首脳会談に参加し、その数時間後には中露印首脳会談に参加する狡猾さが際立った。全方位のバランス外交に疑問を呈すると、モディ政権に近い彼らは『実態を見てほしい』と対中防衛の努力を強調した。

インド初の国産空母が2020年に海上試運転を開始する予定だし、フランスから対戦車誘導ミサイル5千基の調達が進んでいるのも、中国への警戒ゆえだ。

他方で、インド経済はいまだ中国経済の5分の1程度しかなく、モディ氏のいう『インド太平洋の世紀』にふさわしい経済大国になるためには、日米との連携を強めると同時に、中国からのインフラ投資を呼び込みたいとの思惑もある。

筆者からの報告では、中国に海で向かい合う日本と、陸で接するインドは、一帯一路に対して軍事などハード面だけでなく、通信などソフト面からも、中国との『勢力均衡』を意識すべき時代にあることを強調した。

高い関税を課す米中貿易戦争の報復合戦の正体は、ハイテク覇権の争奪であり、特に高速大容量の第5世代(5G)移動通信システムが引き起こす新たな地政学的リスクの上昇につながっている。

中国は港湾や道路のインフラ整備で勢力圏の拡大を図るだけでなく、一帯一路に5G通信ネットワークをかぶせて『デジタル・シルクロード』としても活用する算段だ。一帯一路の沿線国に対してまず、5G通信ネットワークを構築して、電子商取引など中国主導のデジタル化経済を確立するだろう。

沿線国は、中国による高利のインフラ投資である『債務のわな』を警戒しつつ、コストの低い中国の5G通信ネットワークに依存する『5Gのわな』にはまることにもなりかねない。中国はこれらの国々からビッグデータを獲得することが可能になり、統制可能な『デジタル覇権』を打ち立てることができる。

新アメリカ安全保障センターのエルサ・カニア研究員によると、中国の習近平政権は『軍民融合』であるところから、経済圏の確立はそのまま勢力圏の拡大につながる。戦時になれば、瞬時に指揮・統制が可能になり、大規模な国家動員ができる。デジタル・シルクロードの沿線国は、全ての情報が中国に制御されることになる。

やがて世界は、米国5Gと中国5Gとで二分される可能性が出てきた。インドがコスト安につられて、華為技術(ファーウェイ)などの通信インフラを受け入れれば、膨大なデータ制御で経済と軍事も中国に左右されかねない。

そうした不安の声は、インドで多くの研究員から聞こえた。日本とインドは協調して、中国のデジタル・シルクロードに対抗する技術開発を実践してほしい。その挑戦は始まったばかりだ」。

中国の狙いは「一帯一路」に5G通信ネットワークをかぶせて「5Gのわな」にはめることにある。世界は米国5Gと中国5Gとの対決になる。日本は、米国と連携しインドを米国5Gに取り込むべきである。

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