2018年3月14日 日経「米通商、内向き強硬策」「トランプ氏はや選挙モード」「輸入制限、反対論押し切る」

日経に「米通商、内向き強硬策」「トランプ氏はや選挙モード」「輸入制限、反対論押し切る」が書かれている。

「トランプ米政権にとって最初の大きな審判となる米議会の中間選挙を今秋に控え、米国の通商政策は早くもなりふり構わない『選挙モード』に入った。トランプ大統領    や議会や政権内部の根強い反対論を押し切り、鉄鋼とアルミの輸入制限を明言。選挙の勝利には短期的な雇用創出による集票が不可欠だと判断したとみられ、今後も保護主義的な措置を繰り出す公算が大きい。

『鉄鋼に25%、そしてアルミニウムに10%だ。いま(詳細を)書いているところだ』。トランプ氏は1日、鉄鋼・アルミ業界の経営者の『意見を聞く会』で、正式決定前にもかかわらず具体的な関税率をはっきり述べた。詳細は来週、公表する。

関税の対象国は言及せず、日本が外される可能性も残った。商務省が2月に公表した輸入制限案には『すべての国からの鉄鋼輸入に最低24%、アルミは7・7%を課す』案がある。これをもとに切りのいい数字に引き上げたとすれば、日本を含むすべての国からの輸入を制限することになる。

<中間選挙へ支持固め>

米政権が標的とする中国は含まれそうだ。輸入品に占める比率は2%と小さいが『中国の迂回輸出が不当に安い製品が米国に流れ込む事態を引き起こしている』(ロス商務長官)と問題視する。

保護主義的な貿易政策はトランプ氏を大統領戦勝利に導いた看板公約。ただ貿易赤字の拡大に歯止めはかかっていない。2017年の米国の貿易赤字(サービスを除く)は7962億ドル(約84兆円)で、前年比約8%増えた。

米鉄鋼産業も価格競争力が高い輸入品におされ、国内での国産品のシェアは縮小傾向にある。17年の鉄鋼輸入量は11年に比べて4割増加。00年に2割だった国内消費量に占める輸入品の割合は3割に拡大した。

トランプ氏がこのタイミングで対外的な強硬姿勢を打ち出すのは、中間選挙の年を迎えて自らの支持層固めを迫られていることが大きい。鉄鋼労働省の組合連合は1日『トランプ氏の行動を称賛する』との声明を発表。米鉄鋼協会も『トランプ氏が問題に取り組むことは喜ばしい』と評価した。

13日には鉄鋼業が栄えた街ピッツバーグを擁するペンシルベニア州で連邦下院補選も予定されている。大統領選で勝った地区だが、与党候補は接戦を強いられている。輸入制限の判断期限の4月を待たずに決定した背景にはこうした事情もあるようだ。

トランプ氏の公約実現へのこだわりは強い。米メディアによると1日の会合の予定は秘密扱いにされ、出席者にも前日まで通知されなかった。コーン国家経済会議委員長や各国との外交関係の悪化を懸念したマティス国防長官など政権内の慎重派の抵抗を一気に押し切った形跡がうかがえる。

<裏目に出る可能性も>

今後も対外強硬策は続きそうだ。政権は通商法301条に基づき中国の知的財産侵害を調べており、トランプ氏は『巨額の罰金を払わせる』と制裁発動に前向きだ。保護主義的な選挙公約を助言したピーター・ナバロ氏が大統領補佐官に近く昇格しホワイトハウス内で復権するとの観測もある。

ただ、強硬策が政治的に裏目に出る可能性もある。米大手企業の経営者団体ビジネス・ラウンドテーブルは輸入制限を厳しく批判。鉄鋼やアルミを使う側の自動車や中小企業などの業界団体はコスト上昇や一般消費者への価格転嫁を懸念する声明を一斉に出した。

≪世界株安が再燃、保護主義に懸念≫

トランプ米大統領の輸入制限発動の表明を受け、世界株安が再燃している。2日のアジア株市場では鉄鋼・アルミニウム株や自動車株が全面安となった。世界各国で保護主義の流れが強まるとの懸念から、海運などの景気敏感株にも売りが波及した。落ち着きを取り戻しつつあった世界の株式市場に新たな不安材料が浮上した格好だ。

東京株式市場では新日鉄住金が前日比一時4・4%安、JFEホールディングスは3・7%安まで売られる場面があった。日本の米国向けの鉄鋼輸出の比率は低く輸入制限が発動されたとしても各社の収益への影響は小さい。だが中国や韓国の米国向け輸出が難しくなれば、アジア地域に製品が流れ込み価格下落を招きかねない。みずほ証券の三野博且氏は『市況悪化を警戒して投資マネーが流出した』とみる。

2日は韓国鉄鋼大手のポスコが3・6%安、中国の宝山鉄鋼が3・9%安となったほか、アルミを手掛ける住友電気工業や中国アルミにも売りが広がった。米現地生産の調達コストの上昇を警戒し、トヨタ自動車やホンダ、現代自動車など自動車株も売られた。

2月上旬の急落後、世界株が下旬にかけて持ち直した背景には世界経済の好調があった。オランダ経済政策分析局が2月に発表した統計によると17年の世界の貿易量は前年比4・5%増えた。だが保護主義の台頭はその流れに冷や水を浴びせる可能性がある。中国や欧州が米国に対抗措置を取り始めれば、貿易の停滞につながるためだ。

野村証券の伊藤高志氏は『事態がより深刻になれば、工作機械や航空機など幅広い産業分野に影響が及ぶ』と警戒する。

2002年3月にも米国が日本を含む他国からの鉄鋼輸入に対し追加関税を課すセーフガード措置を発動。当時も鉄鋼株などに売り圧力が増し、年後半にかけて日本株は下落基調をたどった。今回も『不透明感が払拭されるまでは積極的に株を買いにくい』(ピクテ投信投資顧問の松元浩氏)との声が出ている」。

トランプ政権の輸入制限は中間選挙の勝利のために、である。関税対象国から同盟国である日本は外される可能性大である。標的は中国製品だからである、迂回輸出を含めてである。

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