2013年11月21日 産経「視線」 「それでも原発が必要な理由」
産経の「視線」に、内藤泰朗・ロンドン支局長が「それでも原発が必要な理由」を書いている。
「英国政府が先月末、約30年ぶりに原発を新設することを正式に決めた。建設には中国企業も初めて参画するというので、大きなニュースになった。英国では、東京電力福島第1原発事故以来、原発が止まったままの日本とは逆の動きが進み始めている。
新原発は、フランス電力公社(EDF)など仏企業2社が主導権を握り、中国企業2社が残る30~40%を出資する。総工費は160億ポンド(約2兆5300億円)。10年後に稼働する予定だ。
現場の英南西部サマセット州ヒンクリーポイントを訪れたキャメロン首相は『英国は最新技術で、新しい原発をつくる。外国投資家は今回、英国がいかに外国に開かれた国かということを知った』と青い作業着を着てアピール。オズボーン財務相も『将来的には、中国が主導する原発も出てくるだろう』とまで言い切った。
英国では、同事業に加え、日立製作所が昨年11月に買収した原発事業など合計8カ所で計画が進んでいる。なぜ、英国は新参者の中国までも交えた形で、原発事業を推進しようとしているのか。
1956年に欧米諸国で初めて商用原発を稼働させたのは英国だった。だが、国主導の高コスト体質や北海油田の開発が進んだことで、95年を最後に原発新設はストップ。北海油田の産出が減り、天然ガス・石油の価格高騰や欧州連合(EU)の温室効果ガスの排出規制強化を受け、2008年に再び原発新設に舵を切った。
福島原発事故後も『英国には、日本のような地震も津波もない』『エネルギー価格の上昇や温暖化リスクの方が事故より重大だ』というのが、その根拠となった。
しかし、英国は約30年にわたり原発新設を凍結していた影響で原発技術は廃れ、数兆円に上る資金も技術も、外国に頼らざるを得ない。一方の中国はこれを契機に、欧州などで原発ビジネス拡大を狙う。
国際エネルギー機関(IEA)が今月、ロンドンで13年版『世界エネルギー展望』報告書を発表した後に行われた会見でも、日本の原発の行方に関心が集中した。
IEA首席エコノミストのファティ・ビロル氏は、シェールガス革命に沸く米国に比べて日本と欧州のエネルギー価格は高く、エネルギー集約型産業は競争力を失い、打撃を被る危険があると指摘。日本は、細心の注意を払って原発を再稼働させ、産業の省エネ化徹底と、ガス価格の引き下げ努力が急務だとの考え方を示した。産業競争力はエネルギー価格だけで決まるわけではないが、“警告”は傾聴に値するだろう。
ビロル氏は最後に、原子力エネルギーが今後20年、世界で現在の約3倍に成長すると予測。その約半分は安価な中国製原発になる可能性があるとして、『中国による原発事業の世界独占化を食い止めることができるのは日本しかいない』と期待を寄せた。ただし、『バランスのとれた健全なエネルギー政策を打ち出さない限り、日本の再生はない』とも断言した。
移住を余儀なくされた福島の人たちの悲劇を消すことはできないが、福島原発を最近訪問した英外務省首席科学顧問のグライムス氏は、こんな感想を述べていた。『福島の放射線レベルは、それほどは高くない。原発事故は悲劇だが、巨大地震と津波という特殊な自然災害を経験した日本が原発から去ったら、それは世界にとって悲劇。事故が起きてしまった以上、それを徹底研究し、世界の原発の安全をリードしてほしい。日本にはその責務がある』。
日本は失敗から学び、より高度で安全性の高い原発をつくり、強靭に変革してゆくのか、トラウマから立ち直れず、中国に地位を明け渡すのか。世界は日本の選択を注視している」。
コラムの結語である「日本は失敗から学び、より高度で安全性の高い原発をつくり、強靭に変革してゆくのか、トラウマから立ち直れず、中国に地位を明け渡すのか。世界は日本の選択を注視している」は、正論である。
「中国による原発事業の世界独占化を食い止めることができるのは日本しかいない」からである。今後20年、原子力エネルギーは、世界で現在の3倍に成長すると予測され、その半分は、安価な中国製原発になる可能性大だからである。安全保障の観点からも、「原発ゼロ」の選択はあってはならないとなるが。