2013年11月20日 日経「経営の視点」「三木谷氏の離反示すもの」「規制改革、政権の覚悟問う」
日経の「経営の視点」に、大西康之・編集委員が「三木谷氏の離反示すもの」「規制改革、政権の覚悟問う」を書いている。
「薬のインターネット販売が規制されることになった。規制に反対してきた楽天の三木谷浩史社長は政府の産業競争力会議の民間議員辞任を表明。三木谷氏は安倍政権と蜜月の関係にあったが、今後は対決姿勢が鮮明になる。三木谷氏の離反は『安倍政権は規制改革に及び腰』という印象を海外や市場に与えかねない。
『再び規制されるなら、産業競争力会議の民間議員を辞める』。三木谷氏はかねて安倍晋三首相にその意向を伝えていたが、ついに官邸は動かなかった。『ネット販売より対面販売の方が安全だという根拠は何一つない。それなのにネット販売だけを規制する厚生労働省の判断は、まったく理解できな』」。6日の記者会見で三木谷氏は怒りをあらわにした。
今年2月に楽天グループのケンコーコムが起こした裁判で『省令による薬のネット販売規制は違憲』という最高裁の判決を勝ち取った。安倍首相も1度は『全面解禁』を宣言した。それでも規制は復活する。
ケンコーコムは再び国を提訴した。『5年かかっても戦う。国を訴える人間が政府の民間議員を務めるわけにはいかない』。産業競争力会議の民間議員として国の改革を進めようとしてきた三木谷氏だが、今度は外から規制緩和を求める。『首相は分かってくれているが、周りがね……』(三木谷氏)。安倍首相は6月に『全面解禁』の談話を出して三木谷氏を援護した。だが厚労省の巻き返しは強烈で、結局、規制が残った。『社長が<やれ>と言っているのに、部長が反対してプロジェクトがつぶれたようなもの。民間企業ではあり得ないことだ』(三木谷氏)。
安倍首相はなぜ最後まで三木谷氏を援護しなかったのか。推測の域を出ないが、一つの岐路は7月の参院選だろう。安倍首相は政権発足直後からネット業界に接近した。『安倍首相は抜群にITリテラシー(情報技術に対する理解度)が高い』と三木谷氏らも歓迎した。
長期政権を狙う安倍首相は最初の関門となる参院選で『ネット勢力』を味方につけようとした。その狙い通り、安倍政権は『改革派』のイメージを獲得した。
しかし『我が国初のネット選挙』は思ったほど盛り上がらなかった。データを見ると若年層の選挙への関心は高まったようだが、現実には若者が投票所に大挙するほどのブームには至らなかった。
参院選に勝った安倍首相は、改革を求める勢力と既得権を守ろうとする勢力をてんびんにかけ『改革派に軸足を移すのはまだ早い』と判断したのだろうか。
英フィナンシャル・タイムズ(FT)は安倍政権の『リフレ』政策を評価した上で『次のステップとして農業、医療、エネルギーといった分野で規制を撤廃できれば、日本の生産性が向上する可能性がある』と指摘。政府の規制改革会議(議長・岡素之住友商事相談役)も薬のネット販売の『全面解禁』を求める意見書を厚労省に提出した。
今回の問題は『薬』のみにとどまらない。政権が岩盤規制に弱腰な態度を見せれば、産業界にとどまらず内外で高まっていた改革への期待が落胆に変わる」。
コラムの結語である「今回の問題は『薬』のみにとどまらない。政権が岩盤規制に弱腰な態度を見せれば、産業界にとどまらず内外で高まっていた改革への期待が落胆に変わる」は、正論である。18日、楽天の三木谷浩史社長は、首相官邸で安倍晋三首相との会談後、産業競争力会議の民間議員を辞任する意向を撤回する考えを明らかにした。首相が「規制改革をどんどん進めていきたいから、競争力会議を通じて貢献してほしい」と要請したからである。安倍首相は、三木谷氏の辞意を撤回させて、「規制改革」への覚悟を、内外に改めてアピールしたのである。