2017年1月20日 日経「風見鶏」 坂本英二・編集委員「首相も気にする都市新党」

日経の「風見鶏」に、坂本英二・編集委員が「首相も気にする都市新党」を書いている。

「『時の間にも、男時・女時とてあるべし』。世阿弥の風姿花伝の一節というこの言葉は、向田邦子の晩年の作品集『男どき女どき』(新潮文庫)で知った。勝負をするなら力を得て勝ちやすい時(男時)を選ぶなど、時勢の見定めが大事だという意味らしい。

能や歌舞伎といった伝統芸能は言うに及ばず、日本人は日常生活でも『間』を大切にしてきた。間が悪い、間抜け、間を持たず、間延びする――。関連する言葉も多いように、間の取り方は実に難しい。

今年の政局の焦点である衆院解散を巡り、安倍晋三首相は少し『間を置く』判断をしたようだ。

4日の年頭記者会見で解散・総選挙の時期を聞かれ『平成29年は今日で4日目だが、いま質問されて初めて<解散>という言葉が脳裏に浮かんだ。全く考えていない』と否定した。

永田町では解散時期だけは嘘をついていいことになっている。だが首相はその後もこう繰り返している。『経済成長が私たちに与えられた使命だ。最大の経済対策は来年度予算の早期成立。今はそのことに全力を傾けていきたい』

20日召集の通常国会の冒頭に解散しても予算の年度内成立は難しい。『政治空白は景気の足を引っ張る』という批判に自らが何度も言及する以上、サプライズ解散はもうないだろう。

首相が悩んだ末に解散を見送るのは、昨年夏に衆参同日選を断念したのに続き2度目だ。この間に安倍政権を取り巻く状況は少し変わったように思える。

首相周辺は『解散風は偏西風で吹きっぱなし。選挙はいつでもできる』と語る。株高基調、6割前後の内閣支持率、まだ勢いがない民進党――。確かに『安倍1強』の基本構図は変わらない。ただ早期に解散した場合の与党の獲得議席の相場観は弱含んでいる。

自民党のベテラン議員の分析はこうだ。『昨年7月の参院選は勝ったものの、東北の1人区で予想外に苦戦した。いますぐ衆院選に打って出ると20~30議席は減るだろう。もし都市新党ができればさらに厳しい選挙になる』

都市新党とは小池百合子東京都知事が夏の都議選で自らの政治塾を母体に40人規模の候補擁立に動いていることを指す。都議選に勝てば、その勢いで保守系の都市型新党として国政に進出する可能性がある。

『小池さん、どうしますかね』。首相は年末年始に会った親しい議員との懇談などで『新党』の行方を気にするそぶりを見せている。当の小池氏はインタビューで真意を聞かれると『どういう形にするか、日々いろいろ動いていることだから全ての選択肢がある』と思わせぶりだ。

衆院議員は昨年末に任期4年の折り返しを過ぎた。多くの議院は解散時期について『今秋から来年初め』と想定する。小池氏が五輪準備や築地市場の移転で評価を得れば、どこかで国政政党を率いて『ポスト安倍』に名を連ねるとの見方まで浮上している。

冒頭に触れた向田邦子の作品集は短編小説の傑作『三角波』を収録している。著者は男女3人の交錯する恋愛感情を方向の全く違う波が重なってできる三角波に例えて登場人物にこう語らせる。『ありゃ危険な波らしいな。三角波にやられると大きな船でも真二つになって沈むそうだ』

2017年新春の政局はべた凪(なぎ)。安倍1強が弱い野党に向き合うここ数年の構図に『小池新党』という新たな波が加わるとどうなるか。与野党議員は新党ブームの再来に身構えながら、都政の行方に目をこらしている」。

次期衆院選の変動要因として小池新党が挙げられるが、直近の都議選の情勢調査で15議席にとどまるとなっている。都議選が複数区が大半故である。小池新党は不発に終わるが。

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