2016年11月24日 日経「迫真」「朴槿恵スキャンダル1」「彼女は下野しない」

日経の「迫真」の「朴槿恵スキャンダル1」に「彼女は下野しない」が書かれている。

「韓国憲政史上初めて検察が現職大統領を容疑者扱いした『崔順実(チェ・スンシル、60)ゲート』。捜査結果に激震が走った20日、青瓦台(大統領府)が夕刻に発表したコメントに政界関係者は目を奪われた。『不当な攻撃が続くなら、いっそ大統領の責任の有無をはっきり白黒つける合法的な手続きで一日も早く混乱を終わらせてほしい』

大統領を辞めさせられる『合法的手続き』は弾劾による罷免だけ。起訴状で友人、崔らとの『共謀』を認定されても朴槿恵(パク・クネ、64)は引き下がるどころか、野党に弾劾の発議をそそのかした。追いつめられ捨て身の反撃に出た――との受け止めが広がった。

危機感は強い。『99%立証可能』と自信をみせた検察に対し、約6時間後には朴の弁護士が『想像と推測を重ねた砂上の楼閣』として大量の反論集をメディア各社に送った。朴サイドの受けた衝撃の大きさがにじむ。

検察発表を受け、真っ先に集まった野党の実力者8人は野党執行部に大統領弾劾を求める共同声明を発表した。その筆頭格が最大野党『共に民主党』前代表の文在寅(ムン・ジェイン、63)だ。

1歳違いの朴と文は因縁の関係だ。文は学生時代に朴の父、朴正煕政権に抵抗する民主化闘争に身を投じて逮捕され、釈放後すぐに対北朝鮮の空挺部隊に配属される。元大統領、故盧武鉉の最側近。2004年に盧が国会から弾劾起訴されたときは憲法裁判所で弁護人を担った。裁判当時、朴は弾劾案を提出した野党の代表だった。それから12年後、二人の攻守が逆転した。

検察発表に先立ち、朴は反撃の布石を打っていた。『捜査力を総動員し、かかわった者は地位を問わず厳罰にせよ』。16日、釜山の巨大複合施設『海雲台観光リゾート』(通称LCT)をめぐる事件で政官界疑惑の徹底捜査を法相に指示した。

釜山LCT事件は不動産会社オーナーが13日に横領・詐欺容疑で逮捕された。許認可をめぐり地元の政治家や官僚、検事への金品提供や接待の疑惑がある。検察の捜査対象である朴が検察を動かそうとしている。

釜山は文や与党セヌリ党前代表で『非朴』派の領袖格、金武星(キム・ムソン、65)の地盤。文はすぐさま不快感を示した。『大統領の指示の前後に特定のインターネットサイトなどで私への流言飛語を組織的にまき散らしている』とクギを刺した。朴が徹底捜査を指示したのは文が『全国で退陣運動を進める』と宣言した翌日のことだった。

世論調査で朴の支持率は3週連続の5%に沈む。12日にソウル中心部の広場や大通りで、ろうそくに火をともし26万人(警察推計、主催者発表は100万人)が参加した大統領退陣要求の抗議集会は、19日に全国に広がった。翌20日の捜査結果は決定打のようにもみえる。が、朴は崩れない。

亡命、逮捕、自殺……。強大な権限を握る韓国歴代大統領の末路は悲しい。朴自身、権力の強さとはかなさを身に染みてわかっている。母がテロに遭った5年後に父を暗殺で失った。20代だった。『血の跡が消えない父の服を洗いながら、人が一生のあいだに流す涙を流した』という。その青瓦台からも父の9日葬が終わると幼い姉弟を抱えたまま追われた。直後から人目を避けて暮らした10年間に宗教家、故崔太敏(チェ・テミン)と娘、順実との関係を深めた。

朴の秘書室長は『憲法違反の手続きはあり得ない』と話したとされ、憲法に規定のない大統領辞任に応じない姿勢を鮮明にする。セヌリ党の『親朴』派議員も『ろうそくの火は風が吹けばみな消える。民心はいくらでも変わる』とうそぶく。

『あらゆるものを国民にささげる覚悟で少しの私心もなく生きてきた』。20日、朴は弁護士を通じて反論し、検察に徹底抗戦の構えをみせた。

元韓国政府高官は『大統領は権力が国民から生まれるという民主主義の本質を分かっていない。最終的には国民に勝てないはずだ』とみる。故朴正煕の腹心で、若いころから朴槿恵をよく知る元首相、金鍾泌(キム・ジョンピル、90)は韓国誌にこう語っている。『あの頑固さをくじくことのできる者は誰一人いない。5000万人の韓国国民が押し寄せても下野(辞任)しないだろう』。強行突破の行く末は朴にもみえていない」。

朴槿恵大統領をよく知る元首相金鐘泌氏の言う「5000万人の韓国国民が押し寄せても下野しないだろう」は、正鵠を突いている。100万人のデモ隊の背後に北朝鮮の対南工作があることを熟知しているからである。

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