2016年11月18日 毎日「緊急インタビュー、トランプの米国」 田中明彦・東京大学東洋文化研究所教授が「過剰反応は禁物」

毎日の「緊急インタビュー、トランプの米国」で、田中明彦・東京大学東洋文化研究所教授が「過剰反応は禁物」を述べている。

「トランプ氏勝利の背景には、米国の政権を担ってきたエリート層に対する国民の反発に加え、グローバル化のしわ寄せを受けていると感じている中産階級下位(ローアーミドル)の人々、特に白人中高年男性の思いを、トランプ氏が代弁した点がある。自由貿易は富裕層を豊かにするだけで、それ以下の階層の人々への恩恵はない――。トランプ氏は自身が富裕層であるにもかかわらず、彼らの思いを代弁して支持を集めた。

今後の焦点は新政権の人事だ。大統領選と同時に行われた連邦議会選挙で共和党は上下両院で多数派となったが、党主流派の多くは大統領選でトランプ氏を支持しなかった。政治任用で政権の中枢を担うポストに就くはずの人々にも、不支持を公言した人が多い。

従来の共和党は、トランプ氏を支持したローアーミドル層の支援には冷淡だった。トランプ氏と議会の支持層は、必ずしも一致していない。両者がこれまでの対立にどう折り合いをつけて政策を進めていけるかが課題となるだろう。

安全保障問題に関して、トランプ氏は『米国が一方的に負担させられている』と訴えた。同盟国に『さあ金を払え、払わないと出て行くぞ』と言うのか。無理のある政策が示された時には、米国に対する同盟国の貢献に理解を求めることが必要だが、過剰反応は慎むべきだ。かえって問題を大きくする可能性がある。

歴代大統領がアジアを重視してきたのは、経済成長が著しく、放置すれば米国にとっての安全保障上の脅威が発生する恐れがあるためだ。客観的な国際情勢を十分認識すれば、トランプ氏も極端な政策変更を行うことはないと考える。

トランプ氏は選挙戦で、日韓両国に核武装を求めるなど過激な言動を行った。こうした発言に呼応して、日本など同盟国内である種の極論が台頭する可能性は否定できない。冷静な国益認識を離れた政策形成に進むと、大変問題だ。

政権が安定している日本の責任は大きい。安倍晋三首相はトランプ氏とうまく付き合い、不必要な混乱を生まないよう、国際社会で役割を果たすべきだ。日本が冷静に対応できるかどうかで、局面は変わる」。

「政権が安定している日本の責任は大きい」は、正論である。17日の安倍・トランプ会談でTPP脱退を翻意させられるか、である。世界のGDP第3位であり、最大の同盟国である日本の安倍晋三首相の歴史的責務となる。

pagetop