2016年10月23日 読売「論点スペシャル」「北方領土交渉の行方」 下斗米伸夫・法政大教授「政権安定『歩み寄り』整う」

読売の「論点スペシャル」「北方領土交渉の行方」に下斗米伸夫・法政大教授が「政権安定『歩み寄り』整う」を述べている。

「北方領土問題は、歴史的、法律的に日露両国の主張が対立する中、双方が歩み寄らなければ解決できない。歩み寄りを可能とする条件は、強いリーダーシップと、国会内の安定した支持基盤だ。その条件がようやく整ったと思う。

冷戦期は、北方4島の一括返還を求める日本側と、2島引き渡しが最大限の譲歩とするロシア側の主張の平行線だった。両方に言い分があるということは、両方それぞれに欠陥があるということでもあった。

日本政府が北方領土は4島である、との公式解釈をしたのは1956年3月10日の重光葵外相と下田武三・外務省条約局長の答弁だ。それまでは、日本がサンフランシスコ平和条約(51年)で放棄した千島列島には、南千島(択捉、国後)も含まれるという、条約締結当時の西村熊雄条約局長の答弁が維持されていた。この点は日本の弱みだった。

冷戦期は、この問題をあえて解く必要もなかった。ソ連崩壊後は、何度か交渉の山があったが、ロシアのナショナリズムが強まり、進展しなかった。だが、ようやく両国の間に、国際法的な意味での国境線がないことが足かせになり始めている。この点は、特にプーチン大統領にとって領土問題解決の誘因といえる。ロシアは、ウクライナ紛争や欧州経済の低迷で、アジアに軸足を移す東方シフトを進めている。中でも、北極海側の工場で作った液化天然ガス(LNG)を、オホーツク海から宗谷海峡を経て、韓国、上海、シンガポールに運ぶ計画だが、航路安定のため日本との国境線を画定させる必要がある。

ウクライナ紛争に悩むロシアにとって、クリミア半島を自国領土として国際的に認めさせるには、大変な外交努力が必要だ。それに比べれば日本との領土問題の解決は、経済協力を得られる。安倍首相が今年5月に示した8項目の経済・民生の協力は、ウクライナ紛争後のロシアの変化をうまくとらえた提案だ。12月の山口会談以降、具体的になってこよう。

問題は領土問題解決のタイミングだ。山口会談がゴールという観点で動き始めたが、9月のウラジオストクでの東方経済フォーラムを前に、日本側は経済協力先行で行くことにしたのではないか。山口会談は中間地点の位置づけではないか。四つの島の行方は会談後、明らかになるだろう。段階的に時間はかかっても、平和条約調印のドラマチックなページが開かれるだろう。そこまでの大きな里程標が、会談で示されるのではないか」。

「政権安定『歩み寄り』整う」は正論であるが、問題は、12月15日の山口会談がゴールとなるか、中間地点となるか、である。ゴールにならなければ、政治的実績とならないが。日ロ平和条約締結、2島先行返還が必須となるが。

pagetop