2016年1月14日 産経「湯浅博の世界読解」「核抑止タブーなく語れ」
産経の「湯浅博の世界読解」に「核抑止タブーなく語れ」が書かれている。
「北朝鮮が水爆実験だという地下核実験を断行すると、米軍は核ミサイル搭載可能なB52戦略爆撃機を、米グアムから韓国に急派させた。米韓の司令官がB52を背に記者会見したのがミソだ。いざとなれば共同対処するとの意思表明により、対北抑止に動いた。もちろん、『集団的自衛権を行使する』などと当たり前のことはいわない。
ところが、国会は北が『水爆実験』の成功を発表した6日、野党が『集団的自衛権の行使を可能とする安保法制』を相変わらず『戦争法』であると蒸し返した。過酷な国際政治の現実を直視せず、見通しの悪さまで露呈した。なにより、日米共同対処を否定する印象を与えれば、抑止力を自ら破壊することになる。
北が核実験を強行すると、日米中は国益を賭けた綱引きを展開することになる。中国が警戒するのは米国の出方である。米軍が北を攻撃して軍事占領することになると、半島における中国の安全保障上の緩衝地帯がなくなり、米軍と対峙するラインが38度線から中朝国境の鴨緑江まで北上する。
さらに、中国共産党系の新聞『環球時報』は、核実験は韓国に高高度防衛ミサイル(THAAD)を配備する口実を与えるとの警告を引用した。THAADは米国の弾道ミサイル迎撃システムで、中国は配備に反対する。
逆に日米は、中国が対北経済制裁をしなければ、中国に高いコストがかかることを示す必要がある。北は対外貿易の90%を中国に依存している。中国外務省が『事前に通告を受けていなかった』と責任を回避しても、中国が国際社会による圧力の抜け穴になっていることは明白である。
中国が恐れるのは、日本に核武装論が起きて『普通の国』に変身してしまうことである。米国はこれまでも、中国に対して、『北が核を保有することになれば、日本の核武装を誘発する』とのレトリックを使ってきた。だから昨年秋の国連でも、中国の軍縮大使は日本が保有する核物質について、『核拡散の観点から深刻なリスクを生んでいる』と警戒感を示していた。日本は核分裂性のプルトニウム30トン以上をもち、1発6キロと換算すると、原子爆弾が5千発以上つくれる計算だという。
中国は日本の原発再稼働と使用済み核燃料再処理工場を指して『核兵器を保有すべきだと日本の一部の政治勢力が主張』と、国際世論と日本の野党をたきつけた。巨大な核兵器を持ちながら、相手を封じようとする。逆にいうと、日本をうかつに脅すと、核武装するかもしれないとの印象を抱かせるのは、対中抑止の面からも悪くはない。
問題は福島第1原発で放射性物質が漏れ、国内の核アレルギーが過剰なレベルに達していることだ。北の核ミサイルの標的は中露でも、韓国でもなく、米国には届かない。だが、日本が標的になる可能性がもっとも高くなる。
北など隣国の核の脅しに対しては『排除』『均衡』『防御』の3つの戦略を積み上げていくしかない。軍事攻撃をともなう『排除』は難しく、核シェルターによる『防御』は考える余裕すらない。残る「均衡」、つまり日本の核保有はかつて、自民党本部が『議論はあってもいい』といっただけでつぶてが飛んできた。だが、日本防衛はイージス艦やミサイル防衛網の配備だけではとても足りない。国会は抑止戦略をタブーなく語るときである」。
「中国が恐れるのは日本に核武装論が起きて『普通の国』に変身しまうことである」は、正鵠を突いている。対中抑止の面から、核武装するかもしれないとの恐れを抱かせる事は、必要となるが。