2015年11月4日 産経「美しき勁き国へ」櫻井よし子氏が「いまが憲法改正の好機」

産経の「美しき勁き国へ」に、櫻井よし子氏が「いまが憲法改正の好機」を書いている。

「オバマ米大統領の不決断が国際社会の混沌を深める中、日本の果たすべき役割がかつてなく明確に示されている。軍事大国にならずとも、自国の領土と国民を基本的に日本政府が守る体制を作り上げ、真の自立国としての基盤を過不足なく整えることに他ならない。国際社会にただ一国、国際法にかなった国軍を持たず、力で膨張する中露の脅威に目をつぶることをやめ、速やかに憲法を改正するのだ。そうして初めて私たちは国際法、自由、民主主義の価値観を掲げて国際社会に貢献するまっとうな力と資格を手にできる。長い歴史で培った穏やかな文明を介して世界に大きく貢献できるはずだ。

内外の情勢はあらゆる面でいまが憲法改正の好機であることを示している。衆参両院で3分の2を超える改憲勢力が結集できる状態が戦後初めて生まれている。憲法改正を党是とする自民党に、これは天が与えた好機であろう。

改正の必要性は野党各党の共通認識でもある。昨年11月の衆院憲法審査会では共産党を除く与野党7党が憲法に緊急事態条項を書き込むことに賛成した。今年6月、衆院憲法審査会における参考人選考の信じ難い不手際で状況が一変したとはいえ、審査会で圧倒的多数が一旦は合意したのだ。国益のため、この原点に立ち戻って議論を進めるのが政治家の責務であろう。

安保法制成立までに根拠のない非難が飛び交ったが、法案成立後の政権支持率はどの調査でも回復した。中国やロシアの行動を見て多くの人々は安保法制の必要性を理解しているのだ。

そうした中、自民党は憲法改正をどう位置づけているのか。安保法制後の政治の優先課題に経済成長を掲げたのは正しいだろう。しかし、憲法はどこに行ったのか。憲法改正を自らの使命としてきた首相の下で、いまの自民党が憲法改正に情熱を抱いているとは、残念だが、思えない。

先の安保法制の議論でも、憲法改正議論でも自民党は大事な論点を避けていないか。摩擦を恐れて核心に迫る議論を避けるとしたら、国民と心を通わせることは難しい。戦争をする国になると誹謗されたとき、自民党の憲法改正案を示して反論もできたはずだ。党の試案は9条第一項はほぼそのまま残し、国権の発動としての戦争を放棄し、武力による威嚇および武力の行使はしないと明記している。

日本は、軍事力で恫喝し国際紛争を解決する国でも、戦争を目指す国でもないと断言しているではないか。そのうえで、第二項で自衛権の発動を認めているが、それは攻撃された場合に国民を守る権利であり、戦争を仕掛けることとは全く違う。

この改正試案を3年も前から発表している党として、自民党はなぜもっと声を大にして国民を説得しないのか。

民間の私たちは、『美しい日本の憲法をつくる国民の会』を昨年10月に結成した。全47都道府県で憲法改正を進める県民の会が設立された。31の都府県議会は憲法改正を求める決議を行い、400万人を超える人々が憲法改正請願の署名に応じた。この民間の熱意に、自民党は応えているか。

国際社会の緊迫状況を見れば、現行憲法で国民の命は守れないのは明らかだ。オバマ大統領は10月15日、2016年末までに完了予定だったアフガニスタンからの米軍撤退を断念し、17年1月以降も5500人規模の部隊を駐留させると発表した。続いて10月27日には南シナ海のスービ礁に築いた中国人工島の12カイリ内にイージス艦『ラッセン』を航行させた。3日後の30日には、イスラム教スンニ派過激組織との戦いで反体制派を支援するため50人規模の特殊部隊をシリアに派遣すると発表した。

いずれも世界秩序維持に向けた前向きの姿勢に見えなくもない。だが、実態は大統領の迷いと長期戦略の欠如を表しているにすぎない。

大統領は多大な犠牲を伴う陸上戦を嫌い、陸軍の38万体制への絞り込みも検討されている。その場合、海兵隊18万人を加えても、米陸軍は中国、北朝鮮、韓国、インドよりも小規模になる。

今後米軍は南シナ海で『数週間』航行を継続するというが、中国は決して南シナ海を諦めず米軍が監視を緩めた途端に彼らは南シナ海の領有権をさらに不動のものとするだろう。人工島は南シナ海を中国の海とする海軍基地となり、日本も米国もその脅威に直面する。

軍事的なるものを嫌う大統領の『少なすぎる、遅すぎる』決断は、シリアにおいてもロシアとイランの力を強め、米国はアサド大統領を排除するという当初の方針さえ変更を迫られている。

西の中国、東のロシア、中東ではイランおよびシリアの攻勢にたじろぐ状況を米国自らが作り出している。そんな状況下で南シナ海でも中国が着々と地歩を固めているのである。

そうした中、ハーグの国際司法機関、常設仲裁裁判所が中国の南シナ海領有権主張は国際法違反だと訴えたフィリピンの主張を認めた。中国は裁判自体を認めないが、国際社会はその中国のやり方を認めない。法の支配と諸国との連帯が中国に対峙する鍵である。日本が米国と協力体制を強めながら国際社会の秩序維持に強い力を発揮すべき分野がここにある。

発言を国際社会に反映させるには、資格と力、つまり国家の基本を成す2大要素、経済力と軍事力の強化が必要だ。後者におけるわが国の決定的な弱点が虚構に満ちた現行憲法である。憲法改正が急がれるゆえんである」。

氏が指摘している「憲法改正を党是とする自民党に、これは天が与えた好機であろう」は正鵠を突いている。「衆参両院で3分の2を超える改憲勢力が結集できる状態が戦後初めて生まれている」からである。問題は、来年7月の参院選で改憲勢力が3分の2を超えられか、である。日本国と安倍政権の命運がかかっている。

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