2015年6月16日 産経「正論」 西修・駒沢大学名誉教授「集団的自衛権は違憲といえるか」

産経の「正論」に西修・駒沢大学名誉教授が「集団的自衛権は違憲といえるか」を書いている。

憲法と集団的自衛権との関係をどう考えればよいのだろうか。以下で私見を披瀝し、ご批判を賜りたい。

<最大の狙いは抑止効果>
集団的自衛権とは、1949年の北大西洋条約5条が典型的に示しているように、同盟国のいずれか1カ国に対する武力攻撃を同盟国全体に対する攻撃とみなして、兵力の使用を含め、共同で防衛する権利を基本とする。その最大のねらいは、抑止効果にある。抑止効果にもとづき、自国の防衛に資することを本質とする。

国連憲章51条は、このような集団的自衛権を個別的自衛権とともに、加盟各国が有する『固有の権利』であると定めている。『固有の権利』は、国連で公用語とされている仏語でも中国語でも『自然権』と訳されている。人が生まれながらにしてもっている権利が自然権であるように、国家がその存立のために当然に保有している権利が個別的自衛権であり、集団的自衛権なのである。

なぜ、集団的自衛権が国連憲章に入れられているのか。それは、アメリカ、イギリス、フランス、ロシアおよび中国の5大国が拒否権をもっている集団安全保障体制だけでは、自国の防衛を期待できないからである。現在の集団安全保障体制では、ある国が国連憲章に反するような行為を行えば、最終的には軍事的措置を講じることができるが、そのためには上記5カ国のすべてを含む安全保障理事国15カ国のうち、9カ国の賛成が必要である。とくに常任理事国5カ国中、いずれか1カ国でも反対すれば、効果的な措置をとることができない。そんな間隔を埋めるための有効な措置として存在するのが集団的自衛権なのである。

今日、北大西洋条約や、米州相互援助条約などの多国間条約をはじめ、米韓相互防衛条約、米フィリピン相互防衛条約などの2国間条約などが張りめぐらされ、自国防衛の用に供している。

<国家存立のために必要な措置>
日本国憲法は、自衛権の行使を否定していない。このことは、政府が日本国憲法の制定以来、言い続けてきたことだ。また、昭和34年12月16日の砂川事件に対する最高裁判所大法廷判決は、次のように明言している。『わが憲法の平和主義は決して無防備、無抵抗を定めたものではないのである。(中略)わが国が、自国の平和と安全を維持しその存立を全うするために必要な自衛のための措置をとりうることは、国家固有の権能の行使としては当然のことといわなければならない。(中略)憲法9条は、わが国がその平和と安全を維持するために他国に安全保障を求めることを、何ら禁ずるものではないのである』

政府は、国連加盟に際し、何ら留保を付さなかった。それゆえ、本来、自衛権のなかに個別的自衛権と集団的自衛権をともに入れて解釈すべきだった。現在の政府統一解釈は、昭和56年5月29日の『答弁書』によっている。『我が国が、国際法上、このような集団的自衛権を有していることは、主権国家である以上、当然であるが、憲法第9条の下において許容されている自衛権の行使は、我が国を防衛するため必要最小限度の範囲にとどまるべきものであると解しており、集団的自衛権を行使することは、その範囲を超えるものであって、憲法上許されないと考えている』

この答弁書は、昭和47年10月14日の政府提出『資料』に依拠する。当時は、『非武装と反安保』を唱える社会党が一定の勢力を保ち、同党の執拗な攻撃に対して、政府は防戦を余儀なくされた。したがって、論理的な帰結というよりも、政治的な解決という色彩が色濃く反映された結果といえる。

<政策判断上の問題だ>
『日本は主権国家であり、憲法上、自衛権の行使が否定されていないのならば、なぜ集団的自衛権の行使が否定されていないのならば、なぜ集団的自衛権の行使が認められないのか。国際法上、主権国家として当然に認められている集団的自衛権の行使を認めないと言うのは、日本は主権国家ではないというのか。集団的自衛権の行使は、なぜ憲法上、許される必要最小限度を超えるのか。憲法上、許される必要最小限度の集団的自衛権の行使はありうるのではないか』。そんな根本的疑問に十分に答えないまま、何十年も過ぎてきたのが現状だ。そしてそこに解釈上の『切れ目』が生じていたわけである。

私の結論は、次の通りである。憲法9条は自衛権の行使を否定していないのであるから、集団的自衛権の行使は憲法解釈上の問題ではなくて、政策判断上の問題である。ただし、その場合、憲法の平和理念、とりわけ9条1項の冒頭に掲げられている『正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求』するという国民の尊い願いに沿うものでなければならない。また、行使の範囲については、国会で審議が尽くされるべきである。なお、集団的自衛権を合憲、あるいは少なくとも違憲とはいえないという立場をとる憲法学者は、少なからず存在することを付言しておきたい」。

国連憲章51条に、集団的自衛権を個別的自衛権とともに、加盟各国が有する「固有の権利」であると定めている。1959年の最高裁の砂川判決で示された「国家固有の権能の行使」に、集団的自衛権行使が含まれると解釈できる所以となるが。

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