2014年1月23日 読売 松永宏朗・政治部次長「地方選を悪用するな」

読売に、松永宏朗・政治部次長が「地方選を悪用するな」を書いている。

「沖縄県名護市長選は、米軍普天間飛行場の移設問題が候補者の間で主要な論点となった。東京都知事選でも、細川護煕元首相が『脱原発』を掲げて出馬準備を進めている。

だが、地方の首長選挙で国政の是非を前面に掲げて争うことは、現行憲法下の地方自治の仕組みからみて、好ましいことではない。

地方自治体は、国と地方自治体の役割を次のように整理している(第1条)。地方自治体=住民の福祉の増進を図ることが基本。身近な行政はできる限り自治体に委ねる。国=国家としての存立にかかわる事務、全国的に統一して定めることが望ましい国民の諸活動、全国的な視点に立って行われなければならない施策を担う。

日本の平和と安全に欠かせない在日米軍基地の確保も、あらゆる経済活動の基盤となるエネルギー源の確保も、すぐれて『国家としての存立』にかかわり、『全国的な視点に立って』行われるべきものだ。

地方の首長選を国政の是非を問う機会――いわゆる『住民投票』のように発想するのも間違いだ。憲法が規程する住民投票は、一つの自治体に適用される立法行為を行う場合に限られる。地方自治法は、住民投票による『議会の解散』『議員の解職』『首長の解職』を定めているが、一定数の署名を集めるという制約を課している。自治体によっては、条例で住民投票を定めているところもあるが、投票結果には法的な拘束力がない。

これを見ても、地方の首長選で国政の課題を争点化することはなじまないし、まして選挙の結果で、国政を揺るがすようなことはあってはならない。

確かに、首長が自身の権限を使えば、国政をマヒさせることは可能だ。名護市長が港を資材置き場として使うことを許可しなければ工事が滞る。燃料タンクの設置を許可しなければ、基地ができても輸送機を配備できなくなる恐れがある。だが、これは『地方自治の本旨』(憲法92条)に照らして、首長による権限の乱用以外の何物でもない。

都知事選もしかり。『東京電力の株主だから……』『脱原発の住民投票を知事が許可すれば……』。こうした発想自体が大きなあやまりであることを、都知事選の候補者たちには正しく理解してほしい。

残念なのは、行政府の長を経験した元首相2人に、この認識がきわめて乏しいことだ。『原発ゼロでも日本は発展できるというグループと原発なくして日本は発展できないんだというグループの争いだ』(小泉元首相)『原発の問題は、知事として非常にやりがいのある仕事だ』(細川元首相)。原発政策を左右したいのなら、新党を作って、国政選挙で国民に問えばよい。地方の首長選を悪用してはならない」。

「原発政策を左右したいのなら、新党を作って、国政選挙で国民に問えばよい。地方の首長選を悪用してはならない」は、正論である。「地方自治の本旨」(憲法92条)に照らして、「脱原発」を争点にすることは、不的確である。「脱原発」は国の施策だからである。地方自治法による東京都の役割に照らせば、2020年東京五輪の成功が争点になるべきである。

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