2018年8月11日 産経「湯浅博の世界読解」「トランプ外交を封じ込め?」
産経の「湯浅博の世界読解」に「トランプ外交を封じ込め?」が書かれている。
「ヘルシンキの米露首脳会談に関する数ある論評の中で、トランプ大統領に理解を示してきた保守系の米紙ウォールストリート・ジャーナルのひと言には驚かされた。同紙社説は、迷走するトランプ外交の危うさから『米議会はプーチン大統領だけでなく、トランプ大統領も封じ込める必要がある』と異例の論評をしていた(18日付)。首脳外交を封じよとは尋常ではない。
社説は、米情報機関が『クロ』としたロシアによる2016年米大統領選への介入を否定するトランプ発言にあきれ、後に撤回したことに安堵を示した。同時に、『大統領はプーチン氏という敵の本質をまだ理解していない』と断罪していた。百戦錬磨のプーチン氏が『素人のトランプ氏を誘導して、米国をさらなる兵器削減に踏み切らせようとしている』とみた。
プーチン大統領は1972年に締結した弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制度条約について、ロシアが繰り返し違反していながら、米政権が『一方的に脱退した』と非難した。米露が87年に締結した中距離核戦力(INF)全廃条約に関するロシアの違反にも、トランプ氏はプーチン氏の言い逃れを許した。それと知らずか、トランプ氏は『プーチン氏は私に同意してくれた』とのんきな発言をしており、社説はトランプ氏が『無知な上に自信満々』とあきれている。
トランプ大統領は、このヘルシンキ会談に先駆けて行われた北大西洋条約機構(NATO)の会議で、同盟国の少ない防衛負担をなじっていただけに、ロシアの独裁者と手を取り合う協調が奇異に映る。それはカナダで開催の先進7カ国(G7)首脳会議(サミット)で、せっかく対中牽制の共同声明をまとめたのに、これを拒否して、シンガポールの米朝首脳会談で、北朝鮮の独裁者と手を結ぶ姿と重なってくる。
トランプ氏の同盟国に対する怒りは、米国が貿易赤字に苦しみ、中国が追い上げてくるのに、NATOが防衛努力を怠り、すべてが米国任せであったからだ。
だが、同氏が同盟国を罵倒することに妥当性があったとしても、返す刀で独裁国家と手を結ぶようなトランプ外交を認めるわけにはいかない。米国が同盟国と仲違いすれば、結果として中国とロシアを利するからである。すでに、ロシアと北朝鮮は、トランプ氏を抱き込み、政権から切り離して、米国の閣僚や交渉担当者を都合よく振り回そうとする。
それは、トランプ政権の『国家安全保障戦略』と『国家防衛戦略』の2つの戦略報告が、中国とロシアを国際秩序を破壊する『修正主義勢力』と規定し、『現状破壊勢力』と位置づけたことにも反する。
米国の強さは、その巨大な経済力と軍事力だけでなく、自由、民主主義など価値を共有する同盟のネットワークの広さにある。米欧同盟の分裂を歓迎するのは、中国の習近平主席も同じだ。既存の同盟を『冷戦思考』と批判し、代わって中国とのパートナーを組むよう誘い込む。
NATOは各国が防衛費を国内総生産(GDP)の2%に引き上げる約束をしながら、米国にぶら下がってきた。日本に至ってはGDP1%も満たずに、せっせと対米貿易黒字をため込んでいるから、いずれ矛先は日本に向かってくる。国会がモリカケ問題に、うつつを抜かしてきたツケである」。
「トランプ外交を封じ込め」に異論がある。トランプ政権のNATOの防衛費負担GDPの2%への引き上げ要請は正論だからである。日本の防衛負担GDP1%の引き上げ要請は必然となる。米・EU,米日貿易戦争との絡みとなる。中国を利してはならない、主要敵は中国であり、中国封じ込めが狙いである。