2017年11月15日 産経「宮家邦彦のWorld Watch」「日米首脳会談に裏にあるもの」
産経の「宮家邦彦のWorld Watch」に「日米首脳会談に裏にあるもの」が書かれている。
「東アジア情勢について日米間でかくも議論のかみ合った首脳会談があっただろうか。外務省で日米安保を10年担当した筆者も、にわかには思い付かない。1980年代のロン・ヤス(レーガン・中曽根)関係の焦点はソ連の脅威、2000年代のブッシュ・小泉関係はテロとの戦いが中心だった。衝動的な発言で知られるトランプ氏との会談で、対北朝鮮政策だけでなく、従来日本が主張してきた『自由で開かれたインド太平洋地域』の推進にサプライズもなく合意できた理由は一体何だったのか。両首脳の個人的関係はもちろん重要だが、ゴルフをやったぐらいで会談が成功するほど国際関係は甘くない。
アジア歴訪開始直前の記者会見でホワイトハウスのNSC(国家安全保障会議)担当大統領補佐官が漏らした次の一言が全てを物語っている。
『大統領は今後も彼が望む言葉を使うだろうが、そのレトリックは同盟国・友好国に大きな安心を与えるものだ』
これを筆者なりに勝手に意訳すれば、次のようになる。
『大統領が何を言うかは知らないが、われわれNSCが作るレトリックが米国の政策だから同盟国は安心してほしい』。キーワードは『安心を与える』だ。トランプ政権の東アジア政策をめぐっては3つの潮流がある。
第1は『米国第一』という内向きのトランプ式孤立主義、第2はこれに反対する国際関与主義、米国の伝統的外交政策主流派の考えだ。後者はさらに2つに分かれる。中国を重視し同国に『安心を与える』べきか、同盟国に『安心を与える』べきかの論争だ。ワシントンではオバマ政権2期目あたりから同盟国重視派が優勢となりつつあるが、トランプ政権にも中国重視派は存在する。政権内では今も三つどもえの緊張が続いているとみるべきだ。
驚くべきことに米国の同盟国重視派が頼りにしたのが日本の安倍晋三首相だった。トランプ氏が安倍首相の意見に耳を傾けることが、彼らにとっては追い風となったのだ。
幸い、報道を見る限り、米国第一主義は制御され、同盟国重視主義が優勢らしい。その象徴が先に紹介した大統領補佐官の発言なのだ。
同補佐官によればアジア歴訪の目的は北朝鮮の非核化、自由で開かれたインド太平洋地域、公平で相互主義的貿易の3つだという。名指しこそしないが全てに共通する問題は中国だ。なるほど、今回の日米首脳会談と共同発表を見ると、安全保障では米国の伝統的外交政策主流派の考えが反映され、これに経済貿易面でトランプ氏の米国第一主義が加味されたように見える。懸念された貿易もおおむね想定内だったと言ってよいだろう。
インド太平洋とは、これまで一部専門家が唱えてきた概念だが、安倍首相の持論でもある。その本質はフリーでオープン、法の支配、航行・飛行の自由であり、もちろん念頭にあるのは中国の軍事支配が進みつつある南シナ海だ。
貿易についても主たる対象は中国だが、ホワイトハウスと国務省で言い方が微妙に異なる。後者は『相互主義』の代わりに『結果重視』なる語を使っている。これを見ても 政権内での国務省の立ち位置はかなり微妙なようだ。
最後に、米国の対北軍事攻撃について一言。厳密に言えば米国の対北朝鮮攻撃は3種類ある。第1は北朝鮮の実際の攻撃に対する『自衛反撃』、今はこれが公式見解だ。第2は北の攻撃が差し迫った場合の自衛のための『先制攻撃』。最後が具体的脅威はないが核開発を阻止するために行う『予防攻撃』だが、現時点でこれを国防総省が検討している兆候はない。パニックは不要でえあり、今は圧力拡大の時なのだが、トランプ氏が韓国、中国訪問で大きな成果を挙げる可能性は低い。トランプ政権の東アジア外交は今後も日米基軸が続きそうだ」。
「トランプ政権の東アジア外交は今後も日米基軸が続く」は正論である。安倍晋三首相の持論である、対中国包囲網としての「自由な開かれたインド太平洋戦略」推進をである。