2017年7月1日 産経「日曜経済講座」に田村秀雄・編集委員が「成長加速へ『日本第1主義を』」「円相場に振り回される景気」

産経の「日曜経済講座」に田村秀雄・編集委員が「成長加速へ『日本第1主義を』」「円相場に振り回される景気」を書いている。

「円相場を尻尾、景気を胴体に例えると、今の日本経済は尻尾が胴体を振り回す犬のようである。円相場は日銀政策ではなく、米金利、トランプ米政権の経済政策や中東情勢など外部要因に左右される。先行きが見通せない企業は高収益を挙げても設備投資や賃上げには慎重になり、ひたすらため込む。カネが回らないことには経済は超低空飛行を続け、上昇軌道に乗れない。

グラフは円・ドル相場に対する主要経済指標の相関係数を追っている。ご存じの読者も少なくないだろうが、相関係数はパソコンソフトのエクセルで瞬時にはじき出せる統計分析手法である。最大値は1で、異なる2種類のデータが一つの狂いもなく連動する。熱愛の新婚カップルの行動がそうだ。係数が下がると連動の度合いの低下を示すが、一般に0・7以上は相関の度合いが高いとされる。カップルの行動が相反するようになると、係数はマイナスに落ち込む逆相関になる。アベノミクスを念頭にして、各時点までの4年の期間を区切って推移を追った。

一目瞭然、円相場との相関度は実質国内総生産(GDP)、企業利益、株価とも2012年12月のアベノミクスの号砲とともに急上昇してきた。この3つの相関係数がこれほどの長期間そろって高水準の相関係数を維持するのは、08年9月のリーマン・ショック後はもちろん、1997年からのデフレ期間を通じてなかった。アベノミクスを支配する要因は円相場なのだ。

円安とはドルに対する交換レートが増えることだ。相関度が高い場合、それに引き寄せられるかのように企業利益が増え、株価が上がり、GDPが拡大、すなわち経済成長率が伸びる。GDPの相関係数を円相場動向と比較してみると、円安基調が続いた15年末までは0・9を上回るほどだったが、円高に転じた途端に下がり始めた。

GDPのうち、家計消費と民間設備投資の円相場に対する相関係数を別途算出してみると、家計消費の係数がGDPの係数に同調したのは14年3月までで、後は乖離したままだ。円安・株高で当初増えかけた家計消費は消費税率の8%への引き上げ以来、偏重を来し円相場動向とは無関係になった。他方、円相場・設備投資の係数は円相場・GDP係数とほぼ重なり、円安時には高水準だ。

設備投資は企業の景況感によって大きく左右される。内閣府の法人企業景気予測調査と円相場動向を照合すると円安局面では改善し、円高局面で悪化する傾向が見える。本グラフが示すように、株価と企業利益は円安、円高のいずれの場合でも円相場との高い相関度を示している。ということは、円安で株価と利益は上がり、円高で減る。企業の景況感は当然、影響される。

以上、円相場の重大性には瞠目させられる。円安であれば確かに景気を押し上げるが、日本の政策当局が相場の決定力を持ったのは、日銀の異次元金融緩和策が円安に結びついた15年末までである。それまでは異次元緩和に伴う日本の金利低下を受けた日米実質金利差拡大の中、円が売られ、ドルが買われた。ところが、16年からは予想に反して米実質金利が下がり、日米金利差は縮小し、円高に転じた。日銀はマイナス金利政策に踏み切ったが効き目は薄い。さらに、米国ではインフラ投資と大型減税を掲げるトランプ氏が大統領に当選し、ドル高・円安に一転した。今年に入ると、トランプ政策への期待が薄れ、再び円高に振れやすくなっている。日銀の超金融緩和の円相場に対する神通力はもはや望み薄、円相場が読めないのだから、企業は先行きの景況判断に悩む。

財務省統計によると、全企業(金融業を除く)の利益剰余金は3月末で390兆円をこえた。アベノミクス開始後、116兆円ものカネが使われないまま金融資産として積み上がった。経済全体は消費税率10%への先送りが功を奏し、ようやく1%前後の実質成長率を持続できるようになったが、企業が血気を取り戻さない限り、新規設備や賃上げによる人材の拡充は進まない。円安頼み、外需依存経済の限界なのだ。

なおさらのこと、政府財政の役割が鍵になる。銀行は異次元緩和で余った賃金を持て余し、海外に振り向けている。企業、銀行合わせた余剰資金はアベノミクス期間中に400兆円余り増え、海外に流出する。政府がこれらの資金を吸い上げ、未来に向けての投資に回し、内需主導型経済への転換を目指す。政府は教育、基礎研究、防衛、インフラなど『日本第一主義』を実行すべきなのだ」。

企業、銀行合わせた余剰資金400兆円を政府が吸い上げ未来への投資に回し、内需主導型経済への転換を目指す。年5兆の教育国債発行による全教育の無償化は起爆剤となるが。

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