2015年2月23日 日経「真相深層」「政府と日銀、転機の蜜月」「昨年10月の追加緩和は『値耳に水』」「17年消費増税、再び試練」

日経の「真相深層」に「政府と日銀、転機の蜜月」「昨年10月の追加緩和は『値耳に水』」「17年消費増税、再び試練」が書かれている。

「安倍晋三首相と黒田東彦日銀総裁の間に何が起きているのか。永田町や霞が関でさまざまな憶測が飛び交っている。2013年3月に黒田氏が日銀総裁に就いてまもなく2年。ふたりの関係は転機を迎えつつある。

首相と黒田氏が出席した12日の経済財政諮問会議。そこでの隠されたやりとりが関係者に波紋を広げている。『黒田総裁は珍しく自ら発言を求め、財政の信認が揺らげば将来的に金利急騰リスクがあると首相に直言した』(関係者)

ところが、5日後に明らかになった議事要旨では、黒田氏の発言の大半が消え『(財政再建について)しっかり議論していくべきだ』などのあいさまいな表現ばかりが残った。会議での具体的なやりとりは『オフレコの部分があった』と出席者は言葉をにごす。

『首相と黒田さんの距離が広がっている』。首相周辺はこう証言する。きっかけは昨年10月31日、黒田氏が電撃的に追加緩和を打ち出したことだ。事前に日銀から首相官邸への根回しはほとんどなかったという。

<増税を促す狙い?>
消費税率を2015年10月から10%に上げるべきかどうか。当時、首相は増税を先送りし、衆院を解散する考えに傾いていた。それなのに財務省は、予定どおりの増税に向け水面下での働きかけをやめない。首相はいらだちを深めていた。

財務省出身の黒田氏はもともと財政再建を重視する立場で知られる。株価や景気を押し上げる追加緩和は、市場でおのずと『首相に予定どおりの消費増税を促すのがねらい』と受け止められた。ある政府関係者は首相の胸のうちを『財務省と日銀が連携して増税を既成事実化しようとしていると疑ったのではないか』と推し量る。

<物価目標もズレ>
『首相サイドの意趣返しか』。日銀内にどよめきが走ったのは1月23日、政府が月例経済報告を公表したときだ。報告はこれまで、2%の物価目標を『できるだけ早期に』実現できるよう日銀に求めてきた。この表現を突然『経済・物価情勢を踏まえつつ』に変えたのだ。

文言の修正は、内閣府が首席官邸と調整したうえで決めた。事情に詳しい内閣府幹部は『原油安で物価上昇が鈍っても景気にはプラス。さすがに<できるだけ早期に>との文言を使えなかった』と打ち明ける。

物価低迷に悩む黒田氏に政府が『追加緩和を急ぐ必要はない』と助け舟を出したようにもとれる。だが、異次元緩和は人びとの物価上昇への期待に働きかける政策だ。政府があっさり『早期』の旗を降ろしたことは、日銀からみればはしごを外されたに等しい。

黒田氏と首相のすれ違いが目立つのは、財政健全化や物価をめぐってだけではない。1月にスイスのダボスで開いた国際会議の討論会。『第3の矢(成長戦略)が今ひとつですね』と突っ込まれた黒田氏は、苦笑いするしかなかった。ある日銀幹部は『第1の矢である金融政策でやれることはやるが、そろそろ政府にバトンを引き継いでもらわないと』と本音を漏らす。

そもそも、選挙を意識して景気の浮揚を最優先しがちな時の首相と、物価安定を責務とする日銀総裁との蜜月は長く続く方がまれだ。東短リサーチの加藤出社長は首相と黒田氏の連携について『17年4月に消費税を再び引き上げる時に転機を迎えるかもしれない』とみる。

首相は昨年11月に衆院を解散する際、景気の良しあしに関係なく17年4月には消費税率を必ず上げると約束した。同じタイミングで日銀が異次元緩和の出口に向かえば、財政と金融は同時に引き締められる。景気は腰折れしかねない。

長期政権をめざす首相は、黒田氏に18年4月の任期まで異次元緩和を続けるよう求める可能性がある。そのとき黒田氏は『日銀総裁として物価安定への姿勢を問われる』(BNPパリバ証券の河野龍太郎氏)。脱デフレに向けて首相と黒田氏の連携を維持しつつ、日銀の独立性をどう確保するか。古くて新しい問題に向き合う時期にさしかかっている」。

昨年10月の黒田日銀の追加緩和は「首相に予定通りの消費増税を促す狙い」であったことは確かだが、結果として、消費増税は17年4月に先送りされた。安倍首相の先送りの決断は正しかったのである。問題は、日銀の黒田総裁が、2%の物価目標を実現するために、第3の追加緩和をいつ実施するか、である。第1の矢である金融政策の責務を完遂すべきだからである。

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