2014年12月22日 産経「正論」に曽根泰教・慶応大学大学院教授が「安倍『長期政権』の政策構築を」

「安倍首相の中長期の政策課題は」

産経の「正論」に曽根泰教・慶応大学大学院教授が「安倍『長期政権』の政策構築」を書いている。

「いうまでもなく、選挙とは単なる意見分布を探る世論調査ではない。現行制度では、有権者の投票結果で議席が決まり政権ができるところにその本質があり、そこで政権選択は決着する。

一方、比例代表制の多くでは、選挙が終わってから政党間の交渉が始まるが、1カ月で終わらないことも多い。最近のベルギーの例では政権ができるまでに、総選挙から541日かかったことがあった。それでは、今回の総選挙では何が決着したのだろうか。

<政策のスタートは総選挙から>
もちろん、安倍晋三首相がいったように自・公で過半数を獲得したのだから、政権が維持されたことは間違いない。ただし、衆院の過半数の確保は政権の必要条件であるとしても、政権運営の十分条件ではない。例えば、特例公債を人質に、解散や首相の辞任を迫る例が民主、自民ともに野党の時にあった。つまり、与党が法案を安定的に通過させたければ、衆院の3分の2の議席を確保しておく必要がある。

今回の総選挙が、すでに確保してある3分の2を捨てて、国民の信を問うことだったら、リスクが高すぎたが、再度、3分の2を確保でき、その意味では、野党が参院から突き崩すという戦術は当面使うことはできない。

もっとも、リスクを取って信を問うだけの重要な政策課題があるのなら別であるが、アベノミクスはすでに2年前の総選挙で勝利している。となると、消費税10%への引き上げ先送りを問うことになるが、通常、信を問うとは、負担を強いるときのことである。とすると、単なるアベノミクスの『継続の再確認』なのだろうか。

政権の選択は総選挙で決着がつくが、政策は総選挙がスタートになることの方が多い。この点は、マニフェスト導入の時に、しばしば質問されたことである。

勝ったマニフェストをもっている与党は、当然ながら議席は多数あるので、(参院がねじれていなければ)法案は国会を通過するはずで、議員も国会も果たす役割はほとんどなく、政策はすでに決着しているという意見である。この点に関しては、3つのことから反論ができる。

<安定感が支持された政権>
まず、自動車でも建築物でも設計図があれば、自動的にモノができると考える人は少ないだろう。政治の場でいえば、選挙で勝利をした政策を行政の具体案に落とし込む作業が必要となる。法案や予算の作成過程がそれに当たる。
第2に、国会の過半数をもっていたら、いついかなる時にも、法案が通ると考えるのは早計である。民主党時代も第2次安倍政権も多数の議席をもっていながら、通過できずに廃案か、継続となった法案は多数あった。ある意味で、会期は時間をめぐる制約条件となる。

第3には、それ以上に、世の中には予想外のことは、多数発生する。リーマン・ショックも東日本大震災も、マニフェストが想定していたわけではない。このような大規模危機の他にも、日常的には、数々の修正が要求されることが出てくる。特に、生身の市場や国際政治は、自国のコントロールの及ばないところで、数々の変動を引き起こす。

今回の選挙結果は、2年前の選挙とほとんど変わることがなく、デジャブ(既視)感を覚えるが、第2次安倍政権が支持されてきた理由はその安定感にあるだろう。

<最大の転換点は「時間軸」>
その根底には、第1次安倍政権と民主党政権の失敗に学んだ政権運営のノウハウの蓄積があった。また、政策の重心も憲法・安全保障よりもアベノミクス中心の経済に力点を置き、さらには女性、少子化、地方、雇用という、どちらかといえば、リベラル派的な争点を選挙の時には強調した。また、野党の準備不足をつき、議席最大化を図った占拠戦術の巧みさが今回の勝利の原因であるだろう。

しかし、最も大きな転換点は、時間軸ともいえる。すなわち、今回の選挙の勝利を来年の総裁選に結びつけ、安倍政権は4年後までを考えた6年の長期政権に置いたことではないだろうか。

そこまでいけば、2020年の東京オリンピックは目前である。となると、長期政権で目指すものは何かが重要なことである。すなわち、具体的には、来年の総裁選までの課題として、集団的自衛権の法制の問題は出ているが、それ以降何をやるのかは明確とはいえない。

それが憲法問題なのか、安全保障・外交なのか、議論の少なかった社会保障の制度改革なのかは、まだ分からないところが多い。

アベノミクスが2年という短期の目標だとすると、4年後までを見すえた時間軸の転換は、中長期の政策課題が意識されるべきであろう。また、金融緩和の出口戦略や財政再建も中長期の出口戦略や財政再建も中長期の課題とはいえ、今から打つ手を考える必要がある。「先送り」は今回限りにとどめておくべき手法だろう」。

コラムの結語である「アべノミクスが2年という短期の目標だとすると、4年後までを見据えた時間軸の転換は、中長期の政策課題が意識されるべきであろう」は、正論である。

2020年の東京オリンピックまでに、アベノミクスを完遂して、何を中長期の政策課題とするか、である。安倍首相は、憲法改正をするつもりであるが、現実問題として、衆参3分の2を自民単独でとることは不可能である。今回の衆院選で与党で3分の2の議席を取る圧勝となったが、自民単独では291議席にとどまっており、16年のダブル選でも、自民単独で衆参3分の2は不可となる。

問題は、安倍首相は、憲法改正ではない、別の中長期の政策課題を設定し直さねばならないことである。祖父岸元首相、大伯父佐藤元首相に習うべきである。祖父は日米安保改定、大伯父は日韓条約締結、沖縄返還であるから、安倍首相は日朝国交正常化による朝鮮半島南北統一となるが。

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