2018年6月25日 産経の「検証6・12」㊦に「正恩氏、鄧小平になれるか」「経済再建の道危うい綱渡り」

産経の「検証6・12」㊦に「正恩氏、鄧小平になれるか」「経済再建の道危うい綱渡り」が書かれている。

『南北軍事境界線がある板門店で14日、10年半ぶりに開かれた将官級軍事会談の冒頭、北朝鮮側首席代表で朝鮮人民軍陸軍中将のアン・イクサンは『どんな逆風下でも板門店宣言を履行するとの初心を曲げてはいけない』と強調した。

<米の支援明記されず>

4月の首脳会談で南北が宣言に盛り込んだ軍事的緊張緩和が協議の主題だが、北朝鮮側の狙いは、南北双方の〝軍縮″を通じた経済建設へのシフトにある。

朝鮮労働党委員長の金正恩は5月の党中央軍事委員会拡大会議で、米朝首脳会談を見据えた新たな国防方針を決め、経済建設への軍の貢献に期待を示した。

軍首脳3人を入れ替える大なたも振るったとされ、6月12日の米朝会談には穏健派とされる新人民武力相の努光鉄を同行させた。だが、米大統領のトランプと正恩が署名した共同声明には、米国からの経済支援は一切、明記されなかった。

会談中、トランプが正恩に診せたのは、暗黒の闇に包まれた夜の北朝鮮の衛星写真が突如、光にあふれる状況を映した動画だ。トランプは『北朝鮮には素晴らしいビーチがある。そこには世界最高のホテルを建てることができる』とも力説した。完全な非核化を履行すれば、明るい未来が待っているとのメッセージだが、『米政府は直接支援しない。日中韓の支援と自助努力でどうぞ発展してください』との意図もにじむ。

北朝鮮は『米国に期待して経済建設をしたことはない』と主張しており、そうした意図は百も承知だろう。会談前夜には、代表団一行を引き連れ、シンガポールの市内観光に出るサプライズも行ったが、注目すべきは北朝鮮メディアが伝えた正恩の言葉だ。

『多くの分野でシンガポールの知識と経験を学ぼうと思う』『シンガポールの経済的潜在力と発展の姿をはっきりと理解した』。名所巡りにすぎない場面で、わざわざ経済発展に力点を置いた発言を取り出しているのだ。

北朝鮮国内に向け、今後はシンガポール並みの経済発展を目指すと宣言したとも受け止められる。

『正恩は成功した中国の鄧小平になるか、失敗した旧ソ連のゴルバチョフになるかの瀬戸際にある』

韓国情報機関傘下の国家安保戦略研究員副院長の李基東はこう分析する。両者の違いについて李は①政治的安定②経済的成果③融和的国際環境――を挙げる。3つの条件に恵まれ、改革開放を導いた鄧に対してゴルバチョフは当初、米国との軍拡競争に直面した上、派閥争いを抱え、経済的成果も見込めず、社会主義体制を崩壊させた。

<いびつな「南巡講話」>

正恩は党や軍幹部の粛清や更迭を繰り返し、政治体制の安定を手にした。経済政策でも4月の党中央委員会総会で核開発との『並進路線』から経済建設に集中する方針を打ち出し、経済政策に関しては『内閣の指揮に無条件で服従せよ』と指示。経済再建に向けた土壌を整えた。シンガポールでの発言は、鄧が1992年に深?など南北都市を巡り、経済発展の指針を説いた『南巡講話』の〝金正恩版″に今後、位置づけられる可能性がある。

ただ、肝心の制裁はいまだ解けない上、国内にも大きな障壁を抱える。米韓との敵対関係ゆえに軍事費が国内総生産(GDP)の推定約24%を占めてきた。約120万人の兵力を維持するため、若い労働力を兵役に投じている。北朝鮮の民主化に取り組む韓国の団体代表で北朝鮮の内情に通じる金永煥は『戦争中の国家並みの軍事費比率であり、これでは経済開発を望みようもない』と指摘する。

内なる軍事的圧迫の打開のためにも、米国との直談判は避けられなかったとみられる。トランプは会談で、米韓合同軍事演習の中止を表明。米メディアのインタビューで、将来的に在韓米軍を撤退させる可能性も示唆した。正恩は思いがけない譲歩を得た形だ。

一方で、永煥は『北朝鮮が核を完全に放棄する可能性はない』とみる。国内的には核兵器が完成したからこそ軍事費を削減するとの大義名分となり、対外的に安全を保障する手立てを核以外に持たないからだ。そのため、一部の兵器や核物質を温存したまま、大陸間弾道ミサイル(ICBM)など象徴的な兵器や施設の放棄に応じると予想する。

米国には完全な非核化に応じるポーズを取り、国内軍部に向けては米国と『核軍縮交渉』を進めるとして異論を封じる二重基準で対応することも想定される。正恩が目指すであろう経済再建の道は、危うい綱渡りというほかない」

正恩氏が鄧小平氏になれるかは、GDPの24%に及ぶ軍事費削減にかかっている。CVID履行をせざるを得ないが。米朝国交正常化と日朝国交正常化による体制保証と経済援助を得るために、である。

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