2016年11月24日 朝日「波聞風問」 原真人・編集委員「トランプノミクス」「大衆迎合に未来はああるか」

朝日の「波聞風問」に原真人・編集委員が「トランプノミクス」「大衆迎合に未来はああるか」を書いている。

「驚きのトランプ大統領当選から2週間。いまのところ市場は株高ドル高ではやしている。これからどうなるのか。『トランプノミクス』を考えてみたい。

トランプ氏の公約には法人税減税、医療保険制度改革の廃止など伝統的な共和党の小さな政府路線がある一方、毛色の違うインフラ投資の拡大もある。金融規制強化法の廃止も盛った。世界金融危機の反省から銀行の高リスク取引を規制する法律だ。クリントン候補を『ウォール街に近い人物』と批判しながらなぜか自らも金融業界に甘い。

どうも一貫した経済思想やプランは見えない。支持者たちも個別政策で支持を決めたわけではなさそうだ。

中前国際経済研究所の中前忠代表は『トランプ政権誕生は驚かなかった』と言う。米国の製造業労働者の実質賃金は過去40年近くはほぼ横ばい。これに対し企業収益も、主要企業の株価も実質5倍近くにふくらんだ。企業や投資家は大国の豊かさをたっぷり享受したのに、労働者には適切に配分されてこなかった。だから労働者たちの不満がいよいよ爆発したというのだ。

『既得権益層の政治がさらに4年続くことになるクリントン政権は受け入れられなかった。だからと言ってトランプ氏がうまくやるとは限らないのだが……』

労働者たちにとっては具体的な政策の中身より、政界アウトサイダーのトランプ氏が『移民を追い出して雇用を取り戻す』と強く約束してくれることが何より大事だった。

安倍晋三首相は先週、他国首脳に先駆けて、そのトランプ氏と会談した。2人のやり方には共通点がある。安倍首相は国土強靭化計画、トランプ氏はインフラ投資拡大。安倍政権は消費増税を2回先送りし、拡張的な財政運営を続ける。トランプノミクスも、大規模減税と拡張財政がセットだ。

安倍氏は2012年末に政権復帰を果たした総選挙で、トランプ氏ほどの過激さはなかったが『日銀に輸転機をぐるぐる回して紙幣を刷らせる』と仰天発言をして話題になった。経済低迷で自信を失った国民に、大胆で思い切りのいい語り口が受けた。

先進各国で大衆迎合の政治が台頭している。カギを握るのは経済だ。その潮流の先頭にアベノミクスはあった。

おそらく米新政権も矛盾する経済財政政策のつじつま合わせには、アベノミクスと同様、中央銀行に紙幣を思い切り刷らせて財政資金をまかなう禁断の政策に手を染めざるをえなくなるのではないか。

今を生きる有権者たちの不満や不安を解消するため、今の景気を持ち上げる経済政策が優先される。そのための原資は、明日を生きる私たち自身、あるいは子や孫の世代からの『前借り』需要だ。日米経済がそうやって『未来』を切り売りする政策にどっぷりはまったとき、世界はどうなっていくのだろう」。

コラムの主旨である「大衆迎合に未来はあるか」に異論がある。反アベノミクス、反トランプノミクスという財政再建至上主義にこそ未来はないからである。アベノミクスは日本経済がゼロ成長であった20年デフレからの脱却が目的である成長戦略至上主義であり、世界標準である。そもそも成長戦略重視が大衆迎合なのか、である。

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