2016年7月28日 日経に小竹洋之・ワシントン支局長が「分断あおれば窮地に」「模索続く保守の形」

日経に小竹洋之・ワシントン支局長が「分断あおれば窮地に」「模索続く保守の形」を書いている。

「1776年の建国から240年。米国の歴史の中でも、かなり危険な大統領候補が生まれた。共和党は1860年の全国大会で、奴隷解放論者のリンカーンを大統領候補に指名し、党勢の拡大につなげた。その『リンカーンの党』が対極にある不動産王ドナルド・トランプ氏を担ぎ、分裂の危機をはらみながら11月の大統領選に臨む。

『グローバリズムではなく、アメリカニズム(米国第一主義)が我々の信条だ』。トランプ氏は21日の指名受諾演説でこう言い切った。党内の融和に配慮して過激な方言を極力避けてはいたが、保護貿易や排斥主義の本質は変わらない。

自らの投票で欧州連合(EU)からの離脱を決めた英国民の選択とともに、政治経験のない異端児に超大国の変革を託そうという米国民の意志もまた尊重する必要がある。それでもトランプ氏は党内に深い亀裂を残す『劇薬』に違いない。

共和党を危ういポピュリズム(大衆迎合主義)に駆り立てたものは何か。ひとつは歴史的な転換期への適応を迫られる低中所得層の悩みだ。

グローバル化や市場化は世界全体に恩恵をもたらす一方で、勝者と敗者の格差を広げた。米シンクタンク、ニュー・アメリカのアン・マリー・スローター所長は『産業革命に代わるデジタル革命が、経済や社会の秩序を一新した』とも指摘。社会の劇的な変化と苦闘する庶民の痛みに、既存の政治が向き合ってこなかったと分析する。

もうひとつは人種構成の変化に対する白人の恐怖感だろう。米国の全人口に占める白人の割合は、2050年ごろに50%を割り込む見通しだ。中南米系やアジア系の台頭にいら立つ一部の人たちは、移民や難民への寛容さを失いつつある。

トランプ氏はそんな不安や憤りの受け皿になった。側近のジェフ・セッションズ上院議員は『共和党の有権者は今回の大統領候補選びで、2つの争点を重視した。それは貿易と移民だ』と語る。だからこそ環太平洋経済連携協定(TPP)の否定や、不法移民の流入を遮断する壁の建設などの公約は譲れない。

こうした民意の変化は『保守』のかたちを問い直す。自由貿易、規制緩和、社会保障の効率化……。共和党の支配層が伝統的な価値観をいくら振りかざしてみても、有権者はついていけなくなっているのだ。

米国だけの問題ではない。むき出しの競争に耐えかねた国民の不満が募り、ポピュリズムの伸長を許す国は少なくない。『民主主義への懐疑が広がるのが怖い』と米ハーバード大のローレンス・レッシグ教授は言う。

『分裂して争っている家は立ちゆかない』。リンカーンは大統領就任前の1858年に、有名な言葉を残している。トランプ氏が有権者の怒りにつけ込んで分断をあおり続ければ、共和党も本物の窮地に陥る」。

共和党は1860年の全国大会で奴隷解放論者のリンカーンを大統領候補に指名した。その「リンカーンの党」が対極にあるトランプ氏を2016年の党大会で指名したこと自体が、共和党の危機である。1858年のリンカーンが大統領に就任する前の「分裂して争っている家は立ち行かない」との言葉通りである。

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