ひとりぼっちがいないまちを目指して

2015年6月28日 門馬 優 - NPO 法人 TEDIC 代表理事 -
「震災がきて、救われたって思ってるんだよ。」
「語弊があるかもしれないけど、震災がきて、救われたって思ってるんだよ。」

東日本大震災、発災直後のとある避難所で、当時中学校3年生だった男の子から発せられた言葉だ。この言葉に出会ってから、もう4年の月日が流れた。

発災以前から1年以上不登校状態だった彼の家庭は、父親のリストラを機に崩壊。家庭内暴力、兄妹の家出、お酒に溺れる親に怯える毎日。家に閉じこもりながら、誰にも「助けて」と言えない日日が続いたという。

そしてあの日、津波から逃げるようにして、命からがら一家で駆け込んだ避難所。この避難所で、彼は「震災がきて、救われた。」と思うことになる。

「みんな学校に行っちゃったけど、大丈夫?何か嫌なことあった?」

学校再開後の避難所で、1人だけ登校せずにぽつんと座っている彼をみて、全国から支援に来てくださったボランティアさんが、話しかけてくれたのだ。

不登校になってしまったことへの後悔、自責、家庭の崩壊。
負のラベルを自分自身に貼付けてしまった彼にとって、「助けを求める」「相談をする」ということは、“自分を曝け出すこと”“嫌われるかもしれない”“ダメな人間だと思われるかもしれない”という葛藤と常に隣り合わせだった。

「実は…」そう語りだした彼の隣に座り、ただただ耳を傾け、「うんうん。」と話を聞いてくれたボランティアさんは、批判をするでもなく、評価をするでもなく、ありのままの1人の人間として彼を受け止めた。

震災までずっと孤独を抱え続けた彼が、自分と向き合ってくれる人と初めて繋がれた瞬間だったのだと思う。

私が代表理事を務める特定非営利活動法人TEDIC(テディック)は、宮城県石巻市で様々な背景を抱える子ども・若者を支援している法人です。

経済的困窮を抱える子どもたちへの学習機会、居場所つくり、不登校の子どもたちへのフリースクール、中退予防としての支援室の運営など、子どもたちの声から,活動はどんどん広がっています。

日本の子どもたちのうち、16.7%が相対的貧困状態にあるという「子どもの貧困」。不登校、いじめ、虐待、育児放棄、非行、様々な課題の背景に、この「貧困」が横たわっています。

しかし一方で、経済的資本の「貧困」はもちろん、社会関係資本(=ソーシャルキャピタル)の「貧困」も大きな課題です。

ふと目を閉じたときに、「この人だったら、助けてくれる」「自分の本音を話してもいいかも」と思える人が、自分には何人いるだろうか。本当に困ったときに、「助けて!」と声をあげられる自分でいられるでしょうか。

あるとき、学生のボランティアスタッフと話していると、「いまの時代って、大航海時代じゃなくて、大援交時代ですね。」という話が出ました。

お金と引き換えに関係性を買う時代。サービスの対価としてお金を払わなければ、人のぬくもりや安心を手に入れることができない時代。そんなことを言いたかったようだ。「子どもの貧困」というテーマに結びつければ、お金でさえも関係性を買えないのが、子どもたちなのかもしれません。

東日本大震災の被災地・宮城県石巻市から、そんな子どもたちを支え、一緒に歩むことが、きっといつか社会全体の子どもたちを支えることに繋がると信じて、今日もまた現場に出かけようと思います。
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