宇都宮健児氏インタビュー「東京都の経済政策について 」

今まで貧困の問題から女性の問題までお聞きしていたんですけど、リベラルあるいはリベラリズムの中からでも、経済の問題、経済政策が非常に弱いというようなことがずっと言われてきたことですし、今後経済をどうしていくか、もちろん東京は非常に財政的に安定した街ではありつつも、アジアの中で都市間の競争力が問われてきています。そんな中で、宇都宮先生の政策の中で、たとえば金融の街からより中小企業が活躍できる街へとか、あるいはローカルなビジネスをしている方達をエンパワーメントするような方向にフォーカスされていたと思うんですけど、このあたりの経済政策を今後どのように受け取っていけばいいのでしょうか。

宇都宮:今の政府はアベノミクスはまだ道半ばと言っていますよね。
道半ばがなぜ前進しないのかというのは、確かにこの間、円安株高で一部の企業が利益をあげたり、富裕層はかなり利益をあげているんですね、株を持っている人はね。
私なんかは株を持っていませんから、全然アベノミクスの影響は受けていないですよ。
アベノミクスが好循環していくためには、国民の所得をどう増やすかという視点が重要ですよね。それは働いている人の賃上げがしっかりなされているかどうか。
ところが、確かに失業者はかなり減って、失業者は今100万人ぐらいだと思いますけど、増えているのは非正規の雇用なんで、実質賃金は四年連続減っているんですね。

それから一方で安倍さんが2012年に選挙で勝って第二次安倍政権ができた後に、最初にやったのは生活保護基準を大幅に切り下げて、あと医療・年金・介護を削減したんで、社会保障というのは相当削減されているんです。
社会保障というのも国民の所得の一部と考えるべきですよね、生活保護なんて特に。
そうすると、社会保障も削減して、賃金も上がらなければ、GDPの中の六割を占める個人消費が上がるはずがないんです。
そこがネックになって経済が好回転してないので、そこを上げるような政策が必要です。
そのためには、最低賃金を引き上げるとか、非正規労働者の待遇改善とか、正規化をはかるとか、社会保障を充実するとか。

社会保障を充実させるといったら、財源のことが問題になるんです。
これまで安倍政権は財源がないから生活保護を削減する、財源がないから医療・年金・介護を削減する、財源がないから給付型の奨学金ができないとか言っていたんですけど、その財源がないと言いながら、必ず消費増税の話になってくるわけですね。
消費税を10%にすることは延期して再延期しているわけですけど、消費税というのは、食うや食わずの人とか、生活保護利用者もみんな払うことになるんですね。
日産のゴーンさんは10億円ぐらい報酬をもらっていますけど、生活費に10億円使うのは大変ですよね。1億円使ったって、9億円については消費税が課税されないわけですよね。
ところが生活保護利用者や年収200万円未満の低賃金労働者はほとんど生活費に使っちゃいますから、全収入に課税されてしまいますので、一番低所得者に酷な税制なんですね。

ところがこの間、ずっと法人税を下げてきているわけです。
法人税というのは国税と地方税と一緒にかかっているんで、全体を合わせて法人実効税と呼ばれているんですけど、1980年代の半ば、法人実効税率は52%を超えていたんです。今は29%でしょう。
法人税で減収になっている分を、消費税を上げてきて補っているので、消費税増税は表向きは社会保障のため、財源のため、財政再建のためと言われていますけど、法人実効税の減収の穴埋めに使われているんです。
それから所得税の累進課税も、1980年代はじめ頃は最高税率が75%だったのが今は45%です。

それから日本の所得税というのは、給与収入に対しては累進課税になっているんですけど、株の配当とか株の譲渡は分離課税で、住民税と所得税合わせて20%しかかかっていないので、実は日本の収入の多い人は1億円を超えたら税負担率がどんどん下がっていってるんです。
なぜかというと、1億円までは給与収入の人が多いんですが、1億円を超える収入がある人は、株の譲渡益とかそういうやつなんで。
その分離課税を総合課税に、一緒に課税するだけで相当税収が上がるんですね。
こういうふうに、財源がないと必ず消費税の話になるんですけど、法人実効税率とか、所得税の改革ですね、引き上げとか、分離課税を総合課税にするとか、そういう手直しをやれば財源は出てくるわけです。

それから、たとえば奨学金の問題ですけど、OECD加盟国の半分ぐらいはもう大学まで無料です。
他の国でも大学の授業料は日本に比べて安いですし、そういう国でも返さなくてもいい奨学金制度があるのに、授業料が高くて返さなくてもいい奨学金がないのはOECDでは日本だけで、GDP比で公的な教育支出というのは六年連続で日本は最下位なんです。
日本なんか資源がないから、人材に投資するしかないのに、そこに一番金を使ってないのが日本なんです。
そういうところをやろうと思ったら、まず財源はあるわけですよ、必要なところから取ればいいわけです。

それからこの前パナマ文書が問題になって、タックスヘイブンで税金がかからないところの資金とういうのは、大体世界的には3000兆円といわれているんです。日本の国家予算の三十年分ですよ。それを課税することをほとんど考えていないわけですよね。
パナマ文書が問題になった時に、菅官房長官は日本としては調査するつもりはないと言っていますからね。
そういう、タックスヘイブンを利用できるとのは大企業とか富裕層だけで、一般の国民とか中小企業というのは利用できない。
そういう逃げられない人達に最後までしっかり消費税で取り立てるというのはひどい。それをやればやるほど、貧困と格差が広がっていくわけです。

だからタックスヘイブンを捕捉するような国際協力とか、それから国内的には富裕層とか大企業ですね、大企業は今どんどん法人実効税率を減らしているので、今内部留保が360兆円近くになっています。
安倍政権が発足した時には280兆円だったんです。だから安倍さんは経団連に賃金上げてくださいねって言っているけど、内部留保だけ貯めていっているんですね。
だからもっと課税を強化したほうがいいわけです。
だから財源は出てくる。そうすると社会保障も充実できて、賃金も上げることができる。そうすると好循環になっていくんです。
安倍さんはそれをやらなきゃいけないなとは言っているのかもしれません。同一労働、同一賃金とか、一億総活躍社会とか女性が輝く社会とか。
制度的な改革を全くやらない人なんですね、口だけで言って。
口だけでは経済はよくならないです。

野党のほうがもっと、そういうことを明確にすべきです。
ところがそういう税制政策について、極めて不十分なんです。
民主党が政権をとった時に、「コンクリートから人へ」と、これはスローガンはよかったんです。
財源はどうするんだと、それは無駄を省くと言って、最初にやったのが事業仕分けですよ。事業仕分けで財源が出てくるのは限界があるわけですよ。それで最後は野田政権で、税と社会保障の一体改革で消費税増税に行っちゃったわけです。
だから、マニュフェストで奇麗ごとを言うだけじゃなくて、それを実現するための財源をどうするかっていうことを持たない政党というのはだめなんですけど、日本というのはまだそういう市民の目が甘いから、奇麗ごとを言う政党に一票を投じる。
だけど、その結果それが実現できなかったという民主党政権の失敗ですね、それが尾を引いているわけです。
最大の問題は、マニュフェストだけ出して、それを裏付ける財源をどうするかということを真剣に彼等が考えていなかったということですね。

だからそういうところをやれば、お金は出てくるんですよ。
そしてヨーロッパとか北欧の諸国はどこでも、医療とか大学、高等教育は無料になっているんですよ。
貧困対策の最大の政策は、教育の無償化ですよ。
今の日本というのは、生活保護利用家庭とかの大学進学率が普通の家庭より大幅に減っているんですよ。貧困家庭であるが故に高等教育を受けられない。
だからその子どもも社会に出た時に貧困になってしまうわけです。貧困の連鎖、固定化が起こっている。
せめて教育ぐらいは無償化にして、医療も無償化する、これは同じ第二次大戦敗戦国のドイツでも実現できているんです。GDPは日本より小さいのに。
医療と学費が無料なら、あんまり貯金しなくても済むでしょう。日本は何かあるといけないから貯金をしている。もっと消費ができるようになるわけです。
社会保障が安定するということは、本当に消費を活性化させるし、経済が好転する大きな要因なんですよ。それをやり切れていないわけです。

今まで過去の運動に問題から、今後の経済福祉、非常に吃緊の問題なのにもかかわらず、特に若い人が、一時的に盛り上がったあとに長期的なコミットメントができない、こういった話をいろいろうかがってきました。

最後にメッセージを含めてお聞きしたいのが、今後若い人がどういうふうに政治に関わっていけばいいのか、あるいは政治のどういった部分、どういった政策、どういった候補者をどういった目で見ていけばいいのか、一言メッセージをいただけますか。

宇都宮:まず、18歳で選挙権が与えられたんで、それで関心を持つ人が増えたと思いますけど、それをきっかけにどんな問題でもいいですから、地域の問題、広くは国の問題、どんな問題でも、学校の中だけの範囲だけでなくて、もう少し広く外に目を開いて、関心のある問題について勉強してみるとか、取り組んでみるとか。一人で無理なら何人かで、社会に目を開いてもらいたいということ。

それから、冒頭に話しましたけど、日本は国民主権というふうに憲法で決められているんですけど、主権というのはどうして行使するかというと、家の中で座って「主権があるんだあるんだ」と念仏のように唱えていてもだめなんですね。
主権は選挙を通して選ばれた代表者を通じて行使することになっていますので、一番重要な主権行使の場というのは選挙なんです。
それに対して、ちゃんと向き合う。「どうせ一票投じても世の中は変わんないや」と言うんじゃなくて、多くの若者が関心を持って投票すれば、社会を変えることも可能なんです。

今年の三月か四月だったか、韓国で国政選挙があって、その事前の予想は与党が圧勝、野党惨敗だったんです。ところが結果は野党が勝利したんです。
この勝利の大きな要因は20代30代の選挙反乱なんですね。それは前回の国勢選挙と比べて、20歳代の投票率が13%上がっているんです。30歳代が6%上がっているんです。40代50代60代は前回と同じですけど。
韓国というのは日本以上に貧困と格差が広がっていて、二人に一人が非正規労働者なんです。
そして本当に夢も希望も持てない、結婚もできないという、そういう絶望的な状況の中で学生達が投票に行こうと、それから若い労働者が青年ユニオンとか、アルバ労組という、アルバイト労組なんかの人達が連帯して選挙の投票行動を呼びかけたわけです。それで上がって、ひっくり返ったんです。

だから、そういう若い人達がもっと政治に関心を持てば、若者の今置かれている状況も変える大きな力になるということです。
今あることはどうしようもないんだという絶望に陥らないで、人間が作った制度というのは人間が変えることができるんですね。
今の日本は、若い人の死亡原因で一番多いのは自殺なんです。20歳代は亡くなった人の二人に一人が自殺なんです。これは今若者が置かれている状況を反映していると思います。絶望的な状況。
若い人が未来とか将来に希望が持てない社会というのは終わりですよ。
だから若い人こそ政治に関心を持つ、そして立ち上がる、声をあげる、これが日本を変えていく大きな力になるし、年寄りはいずれ死んでいきます。あの世に行きますんで、若い人こそ日本を変えていく、日本を支えていく中心だと思いますんで、ぜひ社会に、政治に関心を持ってもらえればと思っています。

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