2019年7月30日 産経「湯浅博の世界読解」「もう引き返せない!?米中冷戦」

産経の「湯浅博の世界読解」に「もう引き返せない!?米中冷戦」が書かれている。

「東京・平河町の国家基本問題研究所で、企画委員の一人が『この妙な公開書簡を読みました?』と英文コピーを見せてくれた。米大統領と議員各位に宛てた公開書簡は、7月4日付の米紙ワシントン・ポストに『中国は敵ではない』とのタイトルで掲載された。

どこかに違和感や既視感を持ちながら読んでみた。米国の言論空間にある『中国に厳しく対処せよ』との空気からすると、中国にあまりに寛容な媚中派の文書であると見た。

<「中国は敵ではない」のか>

いまや中国は、不公正な貿易、知的財産の窃盗、技術の強制移転によって米国を追い上げ、増強した軍事力で周辺国を威嚇する。国際法を無視し、国内の民主勢力を抑圧する全体主義国家である。

従って、トランプ政権ばかりか米議会、一般市民の中国観までが厳しさを増している。それをあえて『敵ではない』とはいかなる存念なのか。

公開書簡は、元国務次官補代行のスーザン・ソーントン氏、ハーバード大学のエズラ・ボーゲル名誉教授ら民主党系の5人が起草し、中国専門家や元外交官ら計100人が署名した。書簡は政府、議会に対して、『中国を敵扱い』する対中政策は国益を損ない、世界経済に悪影響を及ぼすとして再考を求めた。

彼らは一応、中国の人権抑圧や貿易協定に違反する悪癖があることを批判はしている。しかし、トランプ政権が『下方スパイラル』で悪化させているという対中政策の方に、より多く批判の矢を向けていた。公開書簡が示す処方箋も、すでに歴代政権が試みて破綻した施策だから、残念ながら説得力に欠ける。

トランプ政権はむしろ、従来の関与政策や『責任ある利害関係者』になるよう仕向ける宥和路線が、かえって中国に利用されたとの考えに立つ。公開書簡に同意できる点があるとすれば、トランプ政権に欠落している同盟国との連携の立て直しである。

中国メディアは公開書簡を絶賛し、逆に米国内ではネット上でその背信性が厳しく糾弾された。

特に公開書簡に対抗して17日のウェブ誌『ワシントン・フリー・ビーコン』には、ペンシルベニア大学のアーサー・ウォルドロン教授ら米国の戦略家、元軍人、研究家ら計135人が署名した反論書簡が掲載された。こちらは、公開書簡の『中国は敵ではない』に対して、『対中路線を維持せよ』とトランプ大統領の尻を叩いている。

<「日本は敵か」公開書簡の既視感>

それはもっともな反論なのだ。2017年10月の中国共産党大会で行った習近平国家主席の大演説は、建国100年を迎える49年までに米国を凌駕する『現代化強国』になることを宣言している。翌年3月の全国人民代表大会では、国家主席自らの任期『2期10年』の上限を撤廃し、独裁制へと歴史を逆走している。

外国企業にまで中国共産党の組織を設置するよう要求し、中国共産党に都合の悪い批判を阻止する監視システムを国内の隅々にまで構築した。英国の作家、ジョージ・オーウェルが描いた『1984年』の陰鬱な世界だ。中国は権威主義を海外に輸出して民主主義を弱体化させており、書簡はこれらの悪辣な手法に目を閉じている。

公開書簡に対する既視感は、1980年代に日本が NYのビルを買いまくっていた時代に『日本は敵か』と似たような問いかけがあったからかもしれない。皮肉なのは書簡の起草者の一人、ボーゲル教授が『ジャパン・アズ・ナンバーワン』を書いて日本を持ち上げ、米議会が不安に駆られて「米国はナンバーワンを維持できるか」と論じていたことだ。そんな日本経済の絶頂期に、『やがて日本衰退する』と論じた反逆者がいた。忘れもしないフィリップ・トレザイス元国務次官補で、ブルッキングス研究所の機関誌に文字通り『日本は敵か』を発表した。彼は日本が2020年には65歳以上の高齢人口が4分の1に達し、『経済のダイナミズムが失われる』と日本衰退論を説いた。

トレザイス論文は同盟国日本への警鐘であったにもかかわらず、当時の日本でこれに注目する人はいなかった。米国発の日本脅威論にくすぐられて、耳を貸すには不快すぎたのだ。そのトレザイス氏は自説の正しさを見ないうちに没した。

<「対抗勢力である」限り抑止図る必要>

亡きトレザイス氏に代わって今度はフランスの統計学者、エマニュエル・トッド氏が、昇り竜の中国に『致命的な弱点は出生率にある』と切り込んだ。中国は膨大な労働人口のあった時代が過ぎ、『いまや未曽有の速さで高齢化を始めている』と悲観論を語る。

一人っ子政策が災いして12年に生産年齢人口が建国後初めて前年を下回った。中国の65歳以上は20年には12%に上がり、50年には26%を超えて高齢人口が3憶5千万人の『老人超大国』が出現する。全体主義の中国では、財源は軍事費に制限なく注ぎ込まれる。だが、社会保障の整備は怠ってきた。従って、米中冷戦から引き返せなければ、一気に沈み込む。

公開書簡は中国が敵でないのなら『何なのか』を十分に解き明かしていない。書簡の新聞掲載から1週間後の11日、米上院軍事委員会の公聴会で、マーク・ミリー陸軍参謀総長が『中国は敵(エネミー)ではない。中国は対抗勢力(アドバーサリー)である』と位置付けていた。

次期統合参謀本部議長を指名する公聴会で、ミリー氏は中国が今後1世紀にわたり米軍にとって『最大の脅威』になる可能性を指摘した。中国が対抗勢力である限り、同盟国は侵略を防ぐための抑止を図らねばならない。

ミリー氏が対比した『敵性』を意味する2つの用語のうち、後者の『アドバーサリー』の方は、対立が解消される余地をわずかに残していると解釈ができる。冷戦時代のソ連は『エネミー』であったことを考えると、米中冷戦は後戻りできるか否かの決定的な対立の縁に立っているというべきか」。

7月11日、米上院の軍事委員会の公聴会で「マーク・ミラー陸軍参謀総長が「中国は敵ではない。中国は対抗勢力である」と位置付けたが、その意味は、同盟国は侵略を防ぐための抑止力を図らなければならないとの意味となる。同盟国日本への軍事力増強への催促となる。中国が台湾・尖閣諸島を占拠すれば「敵」になるとの意味である。

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