2019年4月5日 産経「正論」村井友秀・東京国際大学教授「米国と戦えば中国は崩壊する」

産経の「正論」に村井友秀・東京国際大学教授が「米国と戦えば中国は崩壊する」を書いている。

「米中対立の本質は超大国の地位を維持しようとする米国と、米国の地位に挑戦する中国の世界の覇権をめぐる争いである。今後、経済面で表面的に対立を糊塗することがあるとしても、文化と価値観が異なる米国と中国の間に信頼感は生まれない。

外交とは『棍棒を持って静かに話す』ことであり、信頼感のない国家間の外交交渉の結果は戦争の結果に比例する。戦争に勝てない側が外交で勝つことはできない。

<海上封鎖で経済は窒息する>

中国の海は東シナ海と南シナ海だけである。中国海軍は宮古海峡やバシー海峡を通らなければ太平洋やインド洋に出ることはできない。米国が強力な海空軍力を動員して、この狭い海峡を封鎖し、中国の海空軍力を日本、台湾、フィリピンを結ぶ防衛線の西側、すなわち東シナ海と南シナ海へ封じ込めた場合(オフショアコントロール戦略)、西太平洋に展開する米軍が東シナ海や南シナ海に侵入せず、中国軍が米軍の防衛線を突破しようとしなければ米中間に戦闘はなく、中国軍に損害はない。

中国海軍は東シナ海や南シナ海から出られず、米海軍は中国海軍がいない太平洋とインド洋で中国の海上交通路を遮断する。中国の貿易の9割は海上交通路による。従って中国は貿易の9割を失うことになる。現在中国では国内総生産(GDP)の3割は貿易である(米国は2割)。海上交通路を遮断された状態が1年間続くと、中国のGDPは25~35%減少する。米国も中国や周辺諸国との貿易を失い、GDPは5~10%低下する。第二次世界大戦の敗戦国日本はGDPが52%減少した。中国が苦し紛れに戦争を拡大して核戦争になれば、圧倒的に有利な米国の核攻撃によって共産党政権は確実に崩壊する。

<冷たい資本主義が不満高める>

このような状況は中国共産党政権にどのような影響を与えるのか。中国共産党の統治体制は、国民の支持と国民を強制する暴力装置(軍隊と警察)によって成り立っている。国民が共産党を支持する理由は、個人の収入を増やしたことによる。1979年に始まった改革開放政策によって、中国では1人当たりGDPが300元(78年)から4万6000元(2014年)に増えた。個人収入が100倍以上になり、共産党に対する国民の支持は高かった。

しかし、現在、国内総生産の成長率は低下している。07年には14%あった成長率は昨年は6・6%に低下した(米国のシンクタンクによると成長率は4・1%、中国の人民大学教授によれば成長率は1・6%)。経済成長率の低下は社会に不満を持つ失業者を増大させ、共産党に対する支持を減少させる。

また、経済の資本主義化によって貧富の差が拡大している。貧富の差を測る指標であるジニ係数(全国民が平等ならばゼロ、1人が富を独占していれば1)を見ると、多くの欧米諸国が0・3程度であるのに対して中国は0・5~0・7である。ジニ係数が0・4になれば社会が不安定になり、0・6を超えると暴動が発生するといわれている。本来、全国民が平等であるべき共産主義国家において貧富の差が資本主義国家よりも大きくなれば、共産主義国家の国民の不満は資本主義国家の国民よりも大きくなるだろう。

現在、中国は米国よりも『冷たい資本主義』国家になったといわれている。現実に中国では市町村など末端の共産党統治機構に対して住民が暴力を振るう事件が多発している(年間20万件の群体性事件)。戦争によって経済がさらに悪化すれば共産党に対する支持も危機的状況になるだろう。

<軍の弱体化は党の致命傷にも>

経済が悪化し国民の支持が低下すれば、共産党は政権を維持するために軍隊や警察といった暴力装置に頼らざるを得なくなる。もし、米中戦争によって軍隊が打撃を受ければ、共産党政権を支える暴力装置が弱体化し、国民の不満を抑えきれなくなる可能性がある。中国共産党にとって最優先の核心的利益は共産党支配の維持であり、共産党政権を支える大黒柱である軍隊が大きく傷つくことは絶対に避けなければならない。

また、戦争が長引けば、政権に対する国民の信頼度が戦争の勝敗に影響する。中国では『北京愛国、上海出国、広東売国』と言われることがある。最近は1年間に8万人の中国人女性が生まれてくる子供に米国籍を取得させるために米国で出産する。国民に信用されない政権が長期戦を闘い勝つことはできない。

従って、中国共産党は決定的な敗北を被る前に、米国との戦いには負けていないと言い逃れることができる間に戦争をやめ、米国の要求をのむ道を選ぶだろう。世界の覇者は米国であることを中国が認めれば、米国も中国の面子をそれ以上潰さずに戦争をやめるだろう。中国共産党は政権を維持し、米国は世界の覇者の地位を維持して戦争は終わる。また、戦争がない場合はこれが外交交渉の結果になる」。

コラムの主旨である「米国と戦えば中国は崩壊する」は正鵠を突いている。中国のジニ係数は0・5~0・7あるが、0・6で暴動が発性すると言われる。2018年の中国の経済成長率は6・6%ではなく、1・6%しかない。失業者5000万人強、潜在失業者の農民工2億6000万人もいる。米中貿易戦争停止が喫緊の課題となる。共産党一党独裁体制の崩壊を阻止するために、である。

日経の「迫真」に「逆風下の習政権」「紅色を薄めてはならぬ」が書かれている。

「年に1度の政治行事である全国人民代表大会(全人代、国会に相当)の開幕を翌日に控えた3月4日午後。桃やアンズの花が咲き乱れる北京友誼賓館に国家主席、習近平(シー・ジンピン、65)が足を運んだ。出席したのは文芸に関する会議。参加者が国共内戦時に実を賭して作戦を成功させた人民解放軍兵士をテーマにした映画『血戦湘江』を紹介すると、静かに聞いていた習がやおら口を開いた。

『中華人民共和国の紅色を薄めてはならない。革命に命をささげた烈士の鮮血が我々の旗を染めているのだ』。紅が象徴する共産党の一党支配を守るため、決して統制を緩めてはならない。強い危機感の表明だった。

『カラー革命の防止に重点を置け』。1月下旬、治安維持をつかさどる国務委員兼公安相、趙克志(65)も全国各地の公安局長を北京に集めて指示した。カラー革命とは2000年代にウクライナなど旧共産圏で独裁政権を倒した大衆運動だ。趙は分かりやすい言葉で念を押した。『国内外の敵対勢力による浸透、政権転覆、破壊活動を断固として取り締まらねばならない』

関係者によると、共産党内では米中貿易戦争の影響で国内経済が失速し、共産党支配に不満が噴出することへの警戒感が強まっている。米欧諸国が水面下で体制転覆を後押ししているとの疑念すらくすぶる。こうした危機感は、中国をあらゆる角度から批判した米副大統領ペンス(59)の昨秋の演説後に顕著になったという。

2019年は中国にとって敏感な年だ。6月4日は民主化運動を武力で鎮圧し、多くの死傷者を出した1989年の天安門事件から30年の節目を迎える。5月4日は1919年に起きた全国的な抗日愛国運動『5・4運動』から100年にあたる。いずれも学生が主体となっただけに、交流サイト(SNS)への投稿など若者の動向に神経をとがらせる。

18年の全人代で国家主席の任期制限を撤廃してからわずか1年。揺るぎない権力基盤を固めたように見えた習に、党内からも強い逆風が吹く。

1月、中国共産党の元高級幹部の子弟『紅二代』が集まった会合では、習指導部への批判が続出した。『貿易交渉で米国に譲歩しすぎだ』『構造改革を進めないから経済が好転しないんだ』。習が自らに近い人間ばかりを起用する人事や、綱紀粛正を強めるあまり官僚が畏縮して政策が進まないといった不満も出た。

紅二代といても主張や立場は様々だ。中国で『左派』と呼ばれる愛国や統制強化に賛同する人々もいれば、市場経済や民主を重視する『右派』もいる。出席者の一人は眉をひそめて語った。『今は右派も左派も習の批判をするんだ。これは危険な兆候だ』

習に権力を集中させて困難な改革を進めようという大方針が変わったわけではない。党の現状認識は『正しい政策を打っているのに、正しく実行されていないことが問題』。習との不仲説が取り沙汰される首相の李克強(リー・クォーチャン、63)も全人代で習近平の核心的地位と党中央の権威を『断固守らねばならない』と強調した。

ただ、絶対的だったはずの威光は揺らいでいる。習の権力基盤の一つである陝西省では違法建築の高級別荘地の問題について、習が5回も指示を出したにもかかわらず放置されていたことが発覚。関係幹部を処分して引き締めを狙うが、いくら権力を集中させても指示が現場まで浸透しない実情を露呈した。

20年は『小康(ややゆとりのある)社会の全面実現』という歴代の最高指導者が引き継いできた目標の達成期限だ。具体策の一つは貧困撲滅。習は7日の会議で『あと20カ月しかない。ただ、功を焦って水増しをしてはならない』と諭した。

一党支配の面目を保つためにもいずれ目標は達成したと宣伝するだろうが、実態が伴わなければ党内の不満圧力は強まる。元最高指導部メンバーを親族に持つ党関係者は『3年半後の党大会で習が続投できるかは分からなくなってきた』と語る。18年の全人代で「1強」を確立したはずだった習は国内経済の減速や米国との貿易戦争など難問に直面する。逆風下にある習政権の現状を追う」。

1月下旬、治安維持担当の趙克志・国務委員兼公安相が全国の公安局長を召集し、「カラー革命の防止に重点を」との指示をした。「国内外の敵対勢力による浸透、政権転覆、破壊活動を断固として取り締まれ」と。体制転覆への危機感からである。経済失速による失業者の急増がそれである。

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