2013年11月13日 朝日「政治断簡」、「家族の現実、見据える保守政治を」について

朝日の「政治断簡」に、松下秀雄・編集委員が「家族の現実、見据える保守政治を」書いている。

「日本の『生きづらさ』の根っこに、何があるのか。私は、家族のあり方の変化に、社会の仕組みが追いつかないことが、いちばんの原因だと思う。

貧困を例にとろう。日本はいまや、主要国では米国に次いで相対的貧困率が高い『貧困大国』だ。貧しさが際だつのはシングルマザーや夫に先立たれた高齢の女性、親元を離れた非正社員。つまり、夫や父親の稼ぎに頼れなくなった人たちだ。
夫が主に稼ぎ、妻は専業主婦かパートというのが、かつての家族の典型だった。妻の稼ぎは『家計の足し』だから、賃金の低さは問題にはならなかった。

いま、離婚は珍しくもない。主婦がやっていたような非正規の仕事に若者がなだれこんでいる。そんな変化を受け入れ、男性と女性、正社員と非正社員の仕事と賃金をならし、格差を縮めれば貧困は減る。夫の残業も短くなる。

なのに、できない。男女、正社員とパートの賃金の格差は、欧州の国々に比べて格段に大きい。その結果、『家計の足し』程度の収入で暮らす人が増えたのが、日本の貧困の真相だ。『大黒柱になるはず』の若い男性がその立場に置かれてようやく、問題だという認識が広がった。

自民党政権は、昔の家族像に誘導する政策をとってきた。収入の少ない主婦を優遇する税や年金の仕組みである。最近の自民党法務部会では、遺産相続の際に『婚外子』の取り分が少ない現行民法の改正について『差がなくなれば不倫の抑止力がなくなる』『家族制度が崩壊する』と異論が続出した。

婚外子差別を違憲とした最高裁の判断をものともせず、人の権利より家族制度を優先する姿は『家族原理主義者』というほかない。

税や相続差別で誘導しても、家族のかたちは変わったし、今後も変わる。安倍晋三首相が家族を大切にする保守政治家であるなら、家族の現実を直視し、社会の仕組みを立て直すことだ。現実無視の『観念保守』には何も守れない。

私が注目しているのは政労使会議だ。安倍政権が、消費増税や物価上昇にあわせて賃金も上げたいと設けた。政労使会議で有名な例がオランダにある。興味深いのは、1982年にそこでワークシェアに合意した前後の政治の動きだ。

男女、正規と非正規の賃金などの待遇格差を禁止。労働者が労働時間を選べる仕組みも整えた。これなら子育てや介護、学業など事情にあわせて無理のないかたちで働け、人の力を生かせる。出生率も回復した。これを遂行したのは、左派、右派、中道政党が加わる複数の政権だ。どんな政権であれ、現実を直視するなら、打つ手はさほど違わないはずだ」。

「安倍晋三首相が家族を大切にする保守政治家であるなら、家族の現実を直視し、社会の仕組を立て直すことだ。現実無視の『観念保守』には何も守れない」は、正論である。男女、正規と非正規の賃金などの待遇格差の禁止が、急務となる。家族制度が崩壊しつつある現実があるからだ

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