2016年5月7日 産経「湯浅博の世界読解」「6月の砲声危うき南シナ海」

産経の「湯浅博の世界読解」に、「6月の砲声危うき南シナ海」が書かれている。

「米国のキャンベル元国務次官補は、ハーグの常設仲裁裁判所で6月初めにも出される判決を引き金に、南シナ海で『8月の砲声』を聞くことになりかねないと警鐘を鳴らしている。

『8月の砲声』とは1914年、サラエボで響いた1発の銃声が、欧州に戦火を広げた歴史的事件を指している。米国の女流作家、タックマンが、指導者たちの誤算と過信を描いた第一次大戦がモデルの小説である。

米紙が元来が慎重なキャンベル氏の発言を引用し、仲裁裁判所の判決が中国の『過剰な海洋主権』を戒めることになることを予測し、“6月の砲声”につながる危険を書いている。

米戦略国際問題研究所のポリング研究員によると、裁判所が古来中国のものとする『九段線』論を退けることは確実であるという。中国が国連海洋法条約が定める領海、排他的経済水域、大陸棚を主張する根拠を持てない、との判断だ。

ハーグの判決は、中国に政治的妥協を迫る機会でもある。これを知る中国は、判決までに既成事実を積み上げ、南シナ海の実効支配を有利に進めようとしている。米軍は1カ月前に、中国によるスプラトリー諸島での人工島の造成に続いて、スカボロー礁の岩礁や砂州で中国船が測量作業をしているのを確認した。

スプラトリー諸島の人工島は中国が支配していた岩礁を埋め立てたが、スカボロー礁は2012年に中国がフィリピンから奪った岩礁だけに、米国はより深刻にとらえている。米紙ウォールストリート・ジャーナルは、『中国がスカボロー礁で行動に出れば、強硬な措置を取る公算が大きい』と指摘した。

いま中国が期待をかけているのは、この9日実施のフィリピン大統領選で、支持率トップに立った現ダバオ市長のR・ドゥテルテ候補が、当選後に仲裁裁判所での係争を棚上げすることであろう。

同候補は当初、鉄道建設や他のインフラの建設支援を条件に『係争棚上げ』を明言していた。だが最近は、勝訴したら中国が造成した人工島に水上バイクで乗り込み、『フィリピン国旗を立てる』と明言を翻した。そこは大衆迎合的なドゥテルテ候補だけに、どちらへ向かうか分からない。

中国が判決に対抗して人工島の増設や南シナ海全域に防空識別圏(ADIZ)を宣言した場合、米国がこれに対抗策を取る姿勢を示している。米紙は対中経済制裁、地域での米軍増強、環太平洋合同演習(リムパック)からの中国軍排除を当面の措置に挙げている。

判決で『国際的な無法者』との烙印が押されれば、中国はアジア太平洋でさらに孤立し、影響力は急速に低下する。習近平政権の『中華民族の夢』物語をむしばみ、アジア地域の国を日米の側に追いやる力学が働く。

逆に、米海軍は南シナ海の『航行の自由作戦』の頻度を上げ、オーストラリアも『ゲートウエー作戦』として哨戒活動を活発化させよう。日本も米豪に協調し、インド海軍も日米豪の安全保障パートナーとして参加する余地が出てくる。

米議会はオバマ政権のリスク回避の姿勢に圧力をかけ、空母打撃群の増強をはじめこの地域への空軍、海軍、地上軍の前進配備を求めている。“6月の砲声”を避けるのは中国の出方次第になってきた」。

米国のキャンベル元国務次官補の言う6月初めに出されるハーグの常設仲裁裁判所での判決を引き金に「6月の砲声」になるとの警鐘は正論である。中国の敗訴は必至だからである。南シナ海で米中が一触即発の危機となる。7月10日投開票の衆参同日選において、与党に神風となるが。

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