2015年8月12日 日経「安保法案、理解求め苦心」「参院審議、序盤戦で政府」「中国・北朝鮮の脅威強調」

日経に「安保法案、理解求め苦心」「参院審議、序盤戦で政府」「中国・北朝鮮の脅威強調」が書かれている。

安全保障関連法案は参院審議の序盤戦を終えた。政府は国民の間で法案への支持が広がっていない状況を受け、中国や北朝鮮といった国を名指しして具体的な脅威の存在を強調し、法案の必要性を訴えた。自衛隊活動の範囲や後方支援を巡っては、時の政権の裁量の余地が大きいことが改めて浮き彫りになり、国民の不安につながらないよう政府・与党は苦心している。

参院平和安全法制特別委員会で実質審議が始まった7月28日。首相は初日から『中国は南シナ海で大規模な埋め立てをしている。尖閣の領海侵入も何回もしている』と中国の活動に言及した。そのうえで『切れ目のない平和安全法制を整備することで平和と安全を守り抜くことができる』と法案の意義を力説した。

<「より具体的」名指しに転換>
衆院審議では『特定の国を想定したものではない』と中国の名前を出すことはほとんどなかった。世論調査で法案への支持が広がらない状況を受けて『脅威の存在を具体的に挙げれば、国民により伝わりやすい』(首相周辺)と方針を転換。北朝鮮に関しても『日本の大半を射程に入れる数百発もの弾道ミサイルを配備している。発射されるとわずか10分で到達する』と具体的な数字で説明した。

<「南シナ海も」答弁やや変化>
集団的自衛権を行使する具体例に関しては、答弁をやや変化させている。7月29日の特別委で、首相は集団的自衛権に基づく南シナ海での機雷掃海の可能性について『基本は(武力行使の)新3要件に当てはまれば対応する』と語った。

衆院審議では機雷掃海は『中東のホルムズ海峡以外は念頭にはない』と説明し、南シナ海での機雷掃海に関しては迂回ルートがあるため『想定しにくい』としていた。ここに来て答弁を変えたのは、南シナ海での活動を活発にする中国が念頭にあり、法案の必要性を強調する材料にする思惑がうかがえる。

<裁量幅大きく、懸念浮き彫り>
参院では他国軍への後方支援の提供内容にも焦点があたっている。法案成立後は従来の食料や医薬品などに加え、弾薬も提供できるようになる。中谷元・防衛相は5日の特別委で、弾薬輸送の一環で核兵器を運ぶ可能性を問われ『法文上は排除していない』としたうえで、政策上は『全く想定していない。あり得ない』と強調した。

米軍などから要請を受けて実施する後方支援は、事態の状況によって自衛隊の役割は大きく変わる。切れ目のない支援をするため、法案はできるだけ制約を設けない書きぶりにしており、後方支援を定めた『国際平和支援法案』と『重要影響事態法案』は何を弾薬として輸送するのかは示していない。

実際の運用で政府の裁量に委ねられる余地が大きいことは国民の不安を呼びかねない。自民党の高村正彦副総裁は9日、松江市での講演で『非核三原則を持った日本が運ぶことはあり得ず無意味な議論で不安をかき立てることはやめてほしい』と懸念の払拭に努めた。

時の政府の裁量で可能になりうる例として、野党は徴兵制も取り上げる。首相は7月30日の特別委で『徴兵制は憲法18条が禁止する<意に反する苦役>に該当する。明確な憲法違反で、全くありえない』と答弁したが、政府の判断で憲法解釈を変えるのは立憲主義に反するとの『違憲性』批判も絡んで尾を引く。

参院での審議時間は現在、40時間弱で、目安とする100時間までに国民の理解が広がるか不透明だ。9日、長崎市での原爆犠牲者慰霊平和祈念式典後に記者会見した首相は、式典で長崎市の田上富久市長が安保法案の慎重な審議を求めたことについて『法案は戦争を未然に防ぐためのものであり必要不可欠だ。国民の意見に真摯に耳を傾け、丁寧に説明を続ける』と理解を求めた」。

参院での審議時間は、現在40時間弱で、8月末までに目安の100時間に達する。9月14日までに採決せず、60日ルール適用で衆院での再議決を決断するか、である。

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