2013年6月13日

日経の「成長戦略的を得たか」㊤に、瀬能繁・経済部次長が「宿題はまだ残っている」を書いている。

「安倍晋三政権の経済政策『アベノミクス』の3本の矢が出そろった。積極的な金融緩和、財政出動に続く第3の矢である成長戦略。国を開き企業を活性化することを重視した戦略は一歩前進だが、残った宿題も多い。

『80点ぐらいはつけられるのでは』。6月5日夜。産業競争力会議の民間議員、新浪剛史ローソン最高経営責任者(CEO)は成長戦略をこう評した。自画自賛の面もあるが、今回の成長戦略にそれなりの意義があるのは事実だろう。

格差是正を名分に所得の再分配に傾いた民主党政権と比べ、経済活性化に軸足を移した。今夏の参院選前は無理との周囲の予想を覆し、環太平洋経済連携協定(TPP)交渉の参加を決断。これを機に東アジア16カ国による経済連携交渉にも弾みがついた。東南アジア諸国へのビザ発給要件の緩和も、ヒトの移動を大胆に進めるTPP参加が呼び水になっている。

だが、日経平均株価がうなぎ登りになると息切れ気味になった。株式会社の農業への全面参入、雇用流動化法制といった『岩盤規制』は見送り。薬のネット販売解禁、公的年金の運用改革など積年の課題は『5月下旬の株価急落で首相官邸の危機感がよみがえり急進展した』(複数の政府関係者)が、巧妙に結論を棚上げした項目も多い。

7月の参院選を前に『痛み』を伴う改革を打ち出しにくい面はあるだろう。だが、参院選が終われば本当に改革は進むのか。選挙後に緊張感が緩み、政権内でタカ派的な言動が増える懸念も根強い。ある外国人投資家は『経済政策が後回しにならないか』と真顔で心配している。

成長戦略の目的は、金融・財政の一時的なカンフル剤で成長率を上げることではない。1%未満に下がった日本経済の実力である潜在成長率を上げるには、痛みを伴う改革がどうしても要る。

ドイツは2000年代前半に労働市場を柔軟にする改革を断行し、生産性を高めた。スウェーデンでは08年のリーマン・ショック後に危機に陥った自動車メーカー、ボルボやサーブを政府が直接救済せず、代わりに『労働者を成長産業に移転させた』(日本創研の湯元健治氏)。改革競争で海外は日本の先を行く。

気になるのは、財政再建の行方だ。15年度に基礎的財政収支(プライマリーバランス=PB)の赤字を半減し、20年度に黒字化する目標は国際公約だ。13年度終盤にかけて公共事業が落ち込み、14年4月に消費増税という日本版『財政の崖』ができる。

仮に13年度も大型補正予算を編成し財政規律が緩めば、金融市場の反乱にあいかねない。国際通貨基金(IMF)のラガルド専務理事は日銀の金融緩和を評価しつつ『バランスのとれた財政政策とのセットが不可欠』とクギをさす。

『第1の矢の効果は時間を買うこと。財政健全化と成長戦略が伴わない政策は極めて危険』と独政府高官は語る。今回先送りした規制改革や、中長期的な財政再建策という宿題にきちんと取り組むか否か。金融緩和で買った時間の使い道を世界中が見守っている」。

13日の日経平均株価が、843円94銭下げの1万2445円38銭となり、黒田日銀が異次元緩和に踏み切る直前の4月3日以来の安値となった。4月4日から5月22日まで上げた3265円が帳消しとなり、「時間稼ぎ」がゼロとなったのである。第3の矢である成長戦略が的外れになったからである。成長戦略の司令塔の立て直しが急務となる。

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