2015年4月20日 日経 太田康彦・編集委員「TPP妥結へ日米重責」「アジア経済圏ルール確立を」
日経に太田康彦・編集委員が「TPP妥結へ日米重責」「アジア経済圏ルール確立を」書いている。
「休止状態に追い込まれていた環太平洋経済連携協定(TPP)交渉が、決着に向けて動き出す。障壁だった米国内の政治問題に解決への展望が開け、日米2国間の閣僚協議も19日に再開する。世界の経済成長の中心となったアジア太平洋地域でルールに基づく新たな経済秩序を築けるかどうか。日米をはじめとする交渉12カ国は、最大の正念場を迎える。
米政府が外国政府と通商交渉をまとめる上で必要な大統領貿易促進権限(TPA)法案が16日、米議会上下両院に提出された。成立すれば、オバマ政権は交渉を決着させる最終的な決断を下せる強い立場を獲得する。
これにより交渉相手国は米議会による事後的な修正を恐れる必要がなくなる。懐に温存していた交渉の切り札を使う判断ができるようになり、にらみ合い状態を打開する可能性が高まる。
ただ、交渉を主導するオバマ政権に残された時間は少ない。国内調整に手間取り、TPA法案の成立が遅れれば、合意を目指す各国の機運は再び縮みかねないからだ。
<首相演説カギに>
米国内で来年の米大統領選への準備が本格化する秋までには、交渉を妥結させる必要がある。この機会を逃せば、TPPは漂流し、大統領選後に誕生する次期政権で仕切り直しとなる可能性が濃厚となる。
TPA法案の審議と日米以外の交渉国の意欲のカギとなるのが、29日の米議会での安倍晋三首相の演説だ。内向きになりがちな米議員に対し、アジア太平洋の安定と成長に『力』ではなくルールに基づく経済秩序が欠かせないとの持論を、直接語りかける好機となる。
日本の首相が上下両院で演説するのは、1961年の池田勇人首相(当時)以来54年ぶり。安倍首相が自ら語る言葉に米政界の期待も高い。日米の首脳がTPP実現へ力強く声を合わせれば、米議会も通商の分野を超えたTPPの意義に理解を深めるはずだ。
<迫る中国の影>
中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)には新興国・途上国だけでなく欧州の先進国を含め57カ国の創設メンバーが集まった。その勢いは、日米が中心のアジア開発銀行(ADB)の67カ国・地域に迫る。
AIIB参加国は設立に向けた協議を6月末に終える。不透明な運営などを外部から批判する日米の意向に関わらず、中国の影響下で新たな国際機関が誕生する。それまでにTPPの姿が見えてこなければ、域内の経済秩序づくりは中国主導の流れになるだろう。
金融やサービスなど新分野を含め高水準のルールをつくるTPPは現行の世界貿易機関(WTO)の枠組みを補強する。これに対し、中国の恣意的な判断が入り込む可能性があるAIIBは、国際通貨基金(IMF)や世界銀行の枠組みの劣化につながりかねない。
どちらも第2次大戦後のブレトンウッズ体制を改修する挑戦とも呼べるが、目指す方向は正反対だ。TPP実現の重責を担う日米両国は、歴史の分岐点に立っている」。
TPP妥結は、4月29日の米議会での安倍晋三首相の演説にかかっている。TPP反対の上下両院の議員を翻意せられるか、である。AIIBに対峙するTPP妥結を訴えることが急所となるが。