2014年6月11日 産経 「新聞に喝!」 佐藤卓巳・京都大学大学院準教授「世論調査が社論を引きずる危険性」

産経の「新聞に喝!」に、佐藤卓巳・京都大学大学院準教授が「世論調査が社論を引きずる危険性」を書いている。

「国会では集団的自衛権の行使容認に向けた解釈変更をめぐり論戦が続いている。各紙の社説を読み比べると、朝日、毎日、東京が反対し、読売、日経、産経が賛成ないしは容認と色分けできる。最近では原発問題や秘密保護法でもおなじみの布置状況である。国論を二分する問題であれば、新聞すべてが一色に塗り込められるより健全なことだ、とひとまずは言えよう。

しかし、各紙が発表する世論調査の結果が、社論の布置状況と重なるとすれば、それは健全といえるだろうか。毎日のサイトに各社世論調査の比較がある。それによると、集団的自衛権行使への「反対」比率が高い順に、朝日(4月19、20日)56%、毎日(5月17、18日)54%、日経、テレビ東京(4月18~20日)49%、共同通信(5月17、18日)48・1%、産経、FNN(同)28・1%、読売(5月9~11日)25%となる。

もちろん、賛否で聞いた朝日や毎日と、『必要最小限度で使えるようにすべきだ』などの中間選択肢もある産経や読売では大差が出る。

世論調査が科学的でないと言いたいのではない。むしろ、逆である。世論調査の最大の危険性は、それが正確であるところから生じてくる。自社が行った世論調査の数字、つまり世論に社論が引きずられる危険性である。

すでに80年前、満州事変から国際連盟脱退へと続く危機状況の中で、時事新報編集局長の伊藤正徳がこれを厳しく批判している。『昭和9年 新聞総覧』に掲載された『社説の天地恢復に就いて』は今も価値を失っていない。

『読者大衆の感情を察し、なるべく之を損しない範囲内に於て立論するといふ筆法』を、伊藤は『新聞の大衆的転化』と名付けた。それは『宗論を排して敢然と指導の正論を草するのが新聞人の天職であるのに』、『経済的には大部数の維持、思想的には輿論構成の安易、といふ2つの観点から、社説を以て読者大衆を代弁するに至る現象を指す』。その結果、『最も多く部数を売る為には、紙面を読者の好むやうに作る必要があることは言ふまでもないが、それが某新聞社の社論の上にまで影響し来るのである』と記す。

こうした社説の『大衆心理への投合』こそ、『言論に対する抑圧』とともに不幸な時代を招くというのだ。

リベラルな新聞人として伊藤は、戦後も共同通信社や日本新聞協会の初代理事長、産経新聞論説主幹などを歴任した。歴史に学べと読者に説くジャーナリズムこそ、自らの歴史に学ぶべきではあるまいか」。

伊藤正徳氏の言う「衆論を排して敢然と指導の正論を草するのが新聞人の天職であるのに」は、正論である。問題は、集団的自衛権行使容認こそが、指導の正論であることだ。朝日、毎日、共同は、衆論に引きずられ、戦前と同じ誤った方向にのめり込んでいる。

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