2014年5月5日 読売「政治の現場」「検証TPP」 ①「絶対漏らすなかん口令」「議員側、補選への影響懸念」
「実質合意が正しかった」
読売の「政治の現場」「検証TPP」①に、「絶対漏らすなかん口令」「議員側、補選への影響懸念」が書かれている。
「環太平洋経済連携協定(TPP)の日米協議に関する報道合戦がピークに達していた4月25日朝。交渉内容を知る立場の政府筋は本紙の取材に対し、次のようなヒントを口にした。
『牛肉の<9%以上>とした部分は問題ない。だが、豚肉の<4・3%を半減>の部分は間違いになる』。読売新聞は5日前の20日付朝刊1面で、牛肉の関税は現行の38・5%から『少なくとも9%以上』とすることで日米交渉筋が折り合ったと報じていた。豚肉の関税率については、読売は『現行の4・3%の関税率は引き下げる方向』と表現をぼかしていたが、他紙は『半減』と踏み込んだところもあった。
この政府筋は、各社の前打ち記事の正誤に触れる形で、実際の交渉結果をほのめかしたのだった。
別の政府筋も同じころ、本紙の別の記者に『重要5項目すべての分野で大筋合意した』と認め、感慨深げに『日本は変わるよ。歴史的な日だ』とつぶやいた。
25日午前10時過ぎに発表された共同声明には、空欄だったTPPの部分に次の文言が収まっていた。《重要な課題について前進する道筋を特定した。TPP交渉におけるキー・マイルストーンを画し……》安倍首相は25日夜、周囲にこう漏らした。『共同声明をちゃんと読めば<合意至らず>の報道にはならないよ。TPPの書きぶりをよく読めば分かるはずだがなあ』。
25日夕刊の報道ぶりが『実質合意』『合意至らず』と分かれると、いずれの報道が正しいかを政府の当事者たちにただす場面が随所でみられた。
記者『読売の<実質合意>は誤報か』」
甘利明TPP相『知らない。おれに聞くな。読売に聞け』
菅義偉官房長官『しかし今日の夕刊は驚いたな』
記者『読売の報道は違うという理解でいいのか』
菅『まあ、大筋合意はしてませんということで、それに尽きますよ』
だが、政治家が口をそろえて『大筋合意』を否定するのとは対照的に、事務方の政府関係者は言外に『事実上は大筋合意した』ことをにおわせた。ある高官は、記者団に次のように解説した。
記者『読売が<実質合意>と書いている』
高官『ある程度できあがったものがないと、ほかの参加国に働きかけできないでしょう』
記者『数字もまとまっているのか』
高官『数字の話をせずに合意も何もないよ』
記者『甘利大臣は合意ではないと言っている』
高官『そうだけど、何か案がないとTPP交渉に参加する他の10か国にこれで行きましょうと言えない。日米で何も決まっていないのに10か国に決めろと言っても、それは無理でしょう』
なぜ、事務方は合意をにおわせ、政治家は合意を否定したのか。
他の10か国に打診する前に表に出るのは望ましくない、という事情があるのは確かだ。しかし、政治家の場合、直後に投開票日(4月27日)を迎える衆院鹿児島2区補欠選挙への悪影響を強く意識したのは否定できない。
オバマ大統領の来日を2日後に控えた4月21日のことだ。石破茂自民党幹事長のもとに、衆院鹿児島2区補選の情勢調査の結果が届いた。
自民党の公認候補への支持が45ポイントだったのに対し、民主党など野党4党が共闘して推す対立候補は35ポイント。『10ポイント以上開いていれば当選確実』がこれまでの経験則だが、気になる部分があった。鹿児島市内に限ると対立候補の方が5ポイント強勝っていたのだ。もうひとつ気がかりだったのが、ある報道機関の調査結果で、対立候補との差は4ポイントしか開いていなかったことだ。
自民党選対幹部は述懐する。『5ポイント以内の差は逆転あり得べしの経験則に照らして、補選は油断できない状況にあった』。補選の調査結果が明るみに出たころ、日米のTPP協議は、豚肉の扱いを巡って暗礁に乗り上げていた。
日本政府は、基準価格より安い輸入豚肉ほど関税率が高くなる『差額関税制度』の死守を最優先に交渉に臨んだものの、それには米側の要求をのんで、基準価格を大幅に引き下げることが避けられそうになかった。
鹿児島は豚の畜産農家が多い。豚肉で譲歩を強いられたことが公になれば、鹿児島2区補選の戦況が一変しかねない――。安倍官邸は、菅が主導して、4月半ばには《共同声明は『大いに前進』といった抽象的な表現にとどめる。『大筋合意』の表現は避ける》との方針を固めていたが、補選の数字を受け、事務方に『数字は絶対に漏らすな』とかん口令を敷いた。
これが、政治家たちが一様に合意を否定した真相だった。25日夜、ある政府筋は各社の報道合戦をねぎらいつつ、こんな解説を施した。『ホワイトハウスは<ヒストリカル・ブレイクスルー(歴史的な現状打破)>とまで言って評価している。ただ、12か国のマルチの交渉だから、合意していないのは事実。だが、共同声明には、日米2か国でこれから他の交渉参加国を説得しましょうということが書かれている。それは当然、日本と米国で話がまとまったからだ。だから、<合意に至らず>も<実質的に基本合意>も、どちらも正しいんだよ』」。
読売の4月25日夕刊の「実質的に基本合意」が、正しかったことが証明された。読売以外の他紙は「合意至らす」「合意先送り」と報じたが、間違いだった。事務方が合意をにおわせ、政治家が合意を不定したが、他紙は政治家側に立ったからである。政治家が合意を否定した理由が、27日の鹿児島補選への配慮にあったことを気付かなかったからである。
問題は、これからである。「実質合意」を農協、農林族に如何に納得させられるか、である。安倍首相の自民党をぶっ壊す覚悟が問われてくる。