2017年10月29日 産経 石橋文登・編集局次長兼政治部長「首相の強運 生かすとき」
産経に石橋文登・編集局次長兼政治部長が「首相の強運 生かすとき」を書いている。
「つくづく安倍晋三首相は強運の持ち主だと思う。第48回衆院選は自民、公明両党がまたも大勝した。衆院選を3連勝、参院選を2連勝した自民党総裁は他にいない。
そもそもやむなく引いた解散だった。事前調査では、民進、共産両党が共闘すれば自民党は50議席超を失う公算が大きかった。そうなれば憲法改正は水泡に帰す。それどころか総裁3選に黄信号が灯り、政権運営もおぼつかなくなる。
だが、切迫する北朝鮮情勢が解散の先送りを許さなかった。米軍が北朝鮮を攻撃すれば、政府は長期にわたり後方支援や難民問題などの対応に追われ、来年12月の衆院任期満了まで衆院選という『政治空白』をつくる余裕はなくなる。
そう考えた首相が密かにはじいた自民党の目標議席は現有マイナス40の250議席。安定して政権運営できるギリギリの線だった。
ところが、9月25日の首相の解散表明に合わせて、小池百合子東京都知事が『希望の党』を旗揚げした。28日には民進党が希望への合流を決めた。
首相はさぞ肝を冷やしたことだろう。
自民党は衆院全選挙区で計2600万票前後を安定してたたき出す力を有する。この票数は、野党が割れている限り無敵だが、野党が一致結束すると逆立ちしても勝てない。もし希望の党を軸に『反安倍』勢力が結集するとどうなるか。政権交代の悪夢が首相の脳裏をよぎったに違いない。
ところが、首相に幸運の女神が微笑んだ。小池氏が『排除の論理』を唱えたことにより、民進党は希望の党、立憲民主党、無所属の3つに分裂。期せずして自民党が『無敵』となる枠組みが生まれたのだ。しかも小池氏は出馬を見送り、希望の勢いは急速に衰えた。
振り返ってみれば敵失による勝利といえなくもないが、政権与党が圧倒的な勢力を得た意義は大きい。
北朝鮮有事が起きても首相は外交・内政ともに迅速かつ大胆に施策を打てる。1994(平成6)年の北朝鮮危機では政界再編の混乱により日本は国際的信用を失墜させたが、今回は日米の強い絆を背景に主導的に対応できる。拉致被害者救出にも最善を尽くすことができるはずだ。
首相の悲願である憲法改正はどうなるか。公明党や日本維新の会に希望の党を加えると衆院の改憲勢力は3分の2を超えるが、こちらはやや悲観的な見方をせざるを得ない。北朝鮮有事の対応に追われる中、果たして改憲論議を進めることができるか。仮に論議が進んだとしても改憲を問う国民投票を実施する余裕は乏しい。
改憲には半年以上の論議を要する。来秋の総裁選で3選したとしても平成31年は参院選が、32年には東京五輪があり、環境は容易に整わない。首相が自ら示した改憲方針について「一石を投じた」と後退させたのはこのためだろう。
とはいえ、改憲論議さえ拒否する勢力は少数派となった。国会で粛々と改憲論議を進めることは与野党の責務だといえる。
北朝鮮有事は『対岸の火事』ではすまない。情勢次第では改憲が喫緊の課題となる可能性もある。首相は、自らの強運を信じて国民に発議する機会をうかがうべきではないか」。
コラムの主旨である「首相の強運生かすとき」は、正鵠を突いている。今なら勝てるとの国難突破解散が的中したからである。野党第1党民進党が改憲の希望の党と護憲の立憲民主党に割れたことがそれである。与党で313、改憲勢力で8割は、民意が改憲せよとの意味になるが。