2013年11月12日 産経「あめりかノート」、「北朝鮮崩壊報告書の波紋」について
産経の「あめりかノート」に、古森義久氏が「北朝鮮崩壊報告書の波紋」を書いている。
「北朝鮮の金正恩第1書記の暗殺などにより政府機構が崩壊する-こんな可能性を大胆な前提とした研究報告が米国の国防総省との絆の強い大手研究所から公表され、ワシントンの対外政策関係者の間で波紋を広げ始めた。
日本では逆に金書記の独裁体制が堅固になってきたとする見解が多いようだが、同報告は米国の政府や軍の情報を踏まえた大規模な調査を基礎に北朝鮮の国家破綻性の高さを強調する。
米軍や国防総省からの委託研究の多いランド研究所はこの10月、『北朝鮮崩壊の可能性に備える』と題する340ページほどの報告を発表した。内容は北朝鮮で単に金政権だけでなく政府機能が崩壊した場合に、具体的になにが起き、米国や韓国がどう対応すべきか、具体的な対策を詳述した。
主眼は崩壊シナリオよりも崩壊後の対応におかれているとはいえ、北朝鮮政府の崩壊はそれが『起きるか否か』ではなく、『いつ起きるか』だと総括する。その原因として複数の国際組織が使う『破綻国家指数』が北朝鮮の場合、非常に高い点をまず指摘する。この指数は政権の不法性、経済失態、国民弾圧など多数の要因から算定される。
そして同報告はつい最近まで在韓米軍司令官だったウォルター・シャープ将軍の『北朝鮮では破滅的な中央統制経済、老朽化した工業、欠陥だらけの農業、栄養不良の軍人や国民、そして核兵器開発プログラムの強引な推進などにより、最高指導部の突然の激変はいつ起きても不思議はない』という証言を引用していた。
崩壊の原因に関連してとくに注視されるのは同報告が金正恩氏の暗殺の可能性を指摘する点だった。未確認情報ながら、昨年にも暗殺の試みがあり、最近、警護の人員が大幅に増強されたという。暗殺が起きれば、党や軍はいくつかの勢力に分裂し、内戦の危機を生み、内戦は日本をも含む周辺諸国への戦火ともなるというのだ。
同報告はそんな事態に対して、米国が韓国と協力して、北の人道救助と内戦防止、大量破壊兵器の確保、さらには介入が確実な中国軍への対応などのために北朝鮮に部隊を送りこむ必要を勧告していた。
もっとも米国側では北朝鮮崩壊の予測は年来、何度もなされてきた。北の核武装の展望が広がった1990年代からだが、その予測は外れてきた。その一方、ソ連共産党政権の崩壊や東西ドイツの統一は大方の予測を裏切っての現実となった。国際情勢はなにが起きるかわからないというのが、普遍の真理だろう。だから常に最悪や最過激な事態を想定することは賢明である。
しかし北朝鮮にそんな異変が起きれば、日本として気になるのは拉致被害者の命運である。この点、同報告は政府崩壊では政治犯などを拘束してきた治安担当者たちが弾圧相手を大量かつ一気に殺してしまう危険をあげていた。日本人拉致被害者と政治犯とでは異なるが、治安担当側の態度には共通部分もありうるだろう。ではどうするか。すぐ隣の朝鮮半島にはそんな身をすくませる火種がくすぶっている。この報告はわが日本にもそうした厳しい現実を改めて突きつけてくるといえよう」。
米国のランド研究所が10月発表した「北朝鮮に崩壊の可能性に備える」との340ページの報告書の要諦は、北朝鮮政府の崩壊は「いつ起きるか」にある。暗殺の危機に直面している金正恩氏が、起死回生策として、日朝国交正常化に踏み出す可能性が大となるが。