2017年1月4日 産経「湯浅博の世界読解」 「南シナ海封鎖 現実味」
産経の「湯浅博の世界読解」に「南シナ海封鎖 現実味」が書かれている。
「中国はまたしても、次期米政権に向けて危険なテストを仕掛けている。特に、南シナ海の7つの人工島の急速な軍事拠点化や空母『遼寧』を含む中国艦船の挑発的な動きは、過去にない大規模なものだ。
これまでも中国は、ブッシュ氏が米大統領に就任した2001年に中国軍機を米偵察機に異常接近させて空中衝突し、米機に海南島への不時着を強いる事件を起こした。オバマ大統領が就任した09年にも海南島沖で米艦インペッカブルの航行を妨害した。
しかし今回は、まだ就任していないトランプ次期大統領に本格的な挑戦を始めた。従来の『点』や『線』による米艦船の妨害行為を超え、南シナ海から米軍を排除する接近阻止・領域拒否(A2/AD)に向けた『面』の確保を目指している。
中国の習近平国家主席はかつて、『係争中の岩礁は軍事化しない』とオバマ米大統領に明言している。ところが、今月中旬に公表された衛生写真にはスプラトリー(中国名・南沙)諸島の7つの人工島に高射砲とミサイル迎撃システムなどの配備が確認され、対中配慮を示すオバマ政権の間に軍事化を進めようとの意図がうかがえる。
新米国安全保障センターのシュガート研究員はファイアリークロス礁、スービ礁、ミスチーフ礁など3大人工島の軍事施設が中国本土にある空軍基地に匹敵すると伝えた。
さらに、米海軍艦船ボウディッチ号の目の前で、米海軍の無人潜水機を中国が奪取するという事件が起きた。その海域がフィリピンのスービック湾の米軍基地から100キロ未満の至近距離だっただけに、軍事衝突を誘発しかねなかった。中国は無人潜水機を返還したものの、今度は中国は初の空母『遼寧』が、随伴艦を伴って日本近海を通って西太平洋に出た。
さすがのフィリピンも抗議の声を上げた。オランダ・ハーグの仲裁裁判所が中国の南シナ海“独り占め”を無効とした裁定を棚上げしたものの、人工島の軍事化には警戒感を示した。インドネシアは中国に国際法順守を求め、ベトナムはスプラトリー諸島の防衛に移動式ロケット発射装置を配備した。
これら中国の挑発は、トランプ氏と台湾の蔡英文総統による電話協議に反発した結果なのか。トランプ氏がツイッターで、台湾を中国の一部とする『一つの中国』原則を批判したことへの報復との見方もある。
だが、トランプ氏の『<一つの中国>原則に縛られたくない』との主張は間違いではない。米国は1972年のニクソン訪中時に、『台湾は中国の不可分な一部』とする中国の主張を『認識』しているだけだ。日中国交正常化に伴う共同声明も、日本が中国の主張を『理解し尊重する』と述べているにすぎない。
オバマ政権はあえて中国を刺激せず、沈黙してきた。それが逆に『米国は手出しせず』とみられ、南シナ海の軍事基地化を許してしまったのではないか。従って、中国は来年1月20日のトランプ氏の大統領就任まで、さらに既成事実を積み上げるだろう。
米太平洋軍のハリス司令官は演説で、『多くの人工島を軍事化しようとも、国際空間を閉鎖することは許さない』と語った。米国内では対中経済封鎖も検討されており、62年10月のキューバ危機に際して、米軍が実施した海上封鎖が現実味を帯びてくる」。
「次期トランプ政権による南シナ海封鎖が現実味を帯びてくる」は正鵠を突いている。米中対決必至となる。野党共闘の大義名分である反安保法制は空文化するが。